グラノフスカヤ(右)はサッカーの素人で、サッリ(左)など歴代監督は大きなストレスを……。(C)Getty Images

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 チェルシーは満足なスカウティング部隊すら持っていない希有なクラブだ。
 
 財務、マネジメントから強化まで、クラブ経営の全権をマリーナ・グラノフスカヤ女史がひとりで握り、獲得する選手のリストアップから移籍交渉まですべてを仕切っている。オーナーのロマン・アブラモビッチの以前からの腹心であるグラノフスカヤは、企業経営に関してはプロだが、サッカーはド素人というから問題だ。
 
 トップチームに必要な補強を監督よりもエージェントの売り込みやアドバイスに従って場当たり的に進めているに過ぎないのは、アントニオ・コンテやマウリツィオ・サッリが新戦力の要望をほぼ聞き入れてもらえず、大きなストレスを抱えてきたことからも明らかだ。
 
 近年はかつてケビン・デ・ブルイネ、ティボー・クルトワ、ロメル・ルカク、モハメド・サラーなどに行なってきたような若いタレントへの先行投資もほぼストップ。現在のチェルシーには、チームを率いる監督の上で長いスパンの強化戦略を担うスポーツディレクション機能が丸ごと抜け落ちていると言っていい。
 
 チームマネジメントも杜撰だ。監督はクラブのサポートを受けられないばかりか、選手との間にトラブルが生じた際も、グラノフスカヤはほぼ常に選手の肩を持つため、混乱は深まることになる。
 
 2003年にクラブを買収したアブラモビッチ会長は、ビザに関して英国政府とトラブルを抱えた末、ビジネスの拠点をイスラエルに移したことなどもあり、チェルシーの身売りを考えはじめたとも伝えられる。
 
[チェルシーの強化部門&フロント採点]
●スカウティング:5点
●交渉力:5点
●チームマネジメント:6点
(すべて10点満点)
 
文:ジャンルカ・ディ・マルツィオ
翻訳:片野道郎
※ワールドサッカーダイジェスト2019年5月16日号より転載。
 
【著者プロフィール】
Gianluca DI MARZIO(ジャンルカ・ディ・マルツィオ)/1974年3月28日、ナポリ近郊の町に生まれる。パドバ大学在学中の94年に地元のTV局でキャリアをスタートし、2004年から『スカイ・イタリア』に所属する。元プロ監督で現コメンテーターの父ジャンニを通して得た人脈を活かして幅広いネットワークを築き、「移籍マーケットの専門記者」という独自のフィールドを開拓。この分野ではイタリアの第一人者で、2013年1月にジョゼップ・グアルディオラのバイエルン入りをスクープしてからは、他の欧州諸国でも注目を集めている。