野町 直弘 / 株式会社クニエ

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交渉業務をやったことがないバイヤーは殆どいないでしょう。しかし交渉の進め方について社内に何らかのマニュアルがある、とか研修を受講したことがあるバイヤーは意外と少ないのが
実態です。

交渉というと、なんでもかんでも「高い!」を連呼し、情報の出し入れをしながら粘り強く相手を根負けさせる、というバイヤーが意外と多いことに驚かされます。「あのサプライヤは(感覚的に)高いんですよね。」という声を聞くことも多いです。

しかし、この「高い、(安い)」というのは何と比較しているのでしょう。「高い、安い」は社内の目標コストや予算との比較で使われることも多いです。「予算がこれだけしかないので、もう少し安くしてもらえませんか」というのが典型的な事例でしょう。

一方で、サプライヤの立場になってみると、この場合の「高い」は説得力に欠けます。長い取引関係からやむを得ず値引きすることを了承するかも知れませんが、これは稀なケースです。
「競合他社のB社に比べて、こういうことが原因と思われるが、ここがいくら位高い」と言われるいと、途端に説得力が増します。つまり何を比較対象にして「高い」「安い」と言っているのかにより交渉の材料になるかどうかが決まるのです。

何らかの比較対象があって、それに対して「高い」「安い」と言っている訳ですが、どういうものが比較対象となり得るかを考えられるだけ上げてみると次のような項目になります。

目標(予算)価格、過去購入品価格、類似品価格、他社同等品価格、他社見積価格、競合社の購入価格、基準価格、基準単価などなど。

このように一口に比較対象と言っても、これだけ様々なものが上げられます。この比較対象を説得力がある準に並べるとこんな感じでしょうか。

1.他社見積価格
2.過去購入品価格
3.他社同等品価格
4.類似品価格
5.競合社の購入価格
6.基準価格
7.基準単価
8.目標(予算)価格
(もちろん1〜8の順で説得力が高い順です)

比較対象とは言い換えると価格決定の基準と言えます。バイヤーには社内に対してサプライヤ選定や価格決定の説明をする責任があります。何故この価格で決定したいのかを説明しなければならないのです。

そのためには多くの価格決定基準を検討し、最善な基準を選択し、説明をしなければなりません。これは社内に対してだけでなく、サプライヤに対しても同様の責任があります。

しかし繰返しになりますが、現状は何も比較対象がない、もしくは説得力に欠ける目標(予算)価格に対して「高い!」と連呼していることが余りにも多くないでしょうか。

交渉力で重要なのは「創造的交渉」。「創造的交渉」とは交渉者両者が、お互いの本質的なニーズを把握し、それを埋めるための創造的な代替案を協働作業で見つけていく、という
ものです。

調達購買交渉の多くは長期の取引を前提としたものになります。
その場限りでの交渉ではありません。例えば喧嘩別れのように将来に禍根を残すことも避けなければなりませんし、また、ある案件では交渉相手のサプライヤが失注するケースもあります。
その場合も何故競合で失注したのかを、きちんと説明し、次回以降のコンペに備えてもらうことが必要です。「創造的交渉」の条件はお互いのニーズを把握することです。そしてニーズを満たしていればどんなに多く譲歩していても交渉に負けることにはなりません。しかしお互いのニーズは交渉を重ねるうちに変わっていくこともよくあります。これは価格決定などの基準が変わるからです。

このような場合には、お互いのニーズを討議・確認し、適正な基準を見出すこと、多くの交渉項目と代替案を協働で創出することで、お互いの基準を満たす必要があります。

交渉の基本はこのようにニーズを満たすためのお互いの基準を摺合せすることなのです。