脳幹細胞に形成されたレビー小体(写真提供・神奈川歯科大学付属病院 眞鍋雄太教授)

「昨年末、夫が食事中に失神し、救急搬送されました。今まで定期的にMRI検査を受けていて、脳に異常は見つかっていなかったのに……」

 そう話すのは、夫(67)が2018年に「レビー小体型認知症」と診断を受けた、神奈川県在住の主婦・Aさん(67)。その兆候は、倒れる前から「下半身」に出ていた。 

「じつは、2018年の初めから、1週間以上も極度の便秘が続いていたんです。救急搬送先の医師の診断で、MRI検査ではなく、脳の動きを調べる『MRS検査』を受けることになりました。そこで初めて、『レビー小体型認知症』と診断されたのです」

 日本全体の高齢化にともない、社会問題になっている認知症。その多くは、「アルツハイマー型認知症」(AD)だが、じつは昨今、「レビー小体型認知症」(DLB)が急速に増加している。

 これまで、認知症のタイプとして2番めに多いと考えられていた「脳血管性認知症」よりも、多いとする統計もあるほどだ(上の円グラフ)。

「レビー小体型認知症サポートネットワーク東京」顧問医で、神奈川歯科大学附属病院認知症・高齢者総合内科の眞鍋雄太教授が解説する。 

「極度の便秘は、レビー小体型認知症になる前に多く見られる症状です。そもそもレビー小体とは、『αシヌクレイン』というたんぱくが異常化し、凝集して固まって、全身の神経細胞体内で球状の構造物として現われたものです。

 Aさんのご主人のような極度の便秘は、このレビー小体が、腸管の動きを司る、自律神経細胞の神経細胞体内に形成され、腸管運動が低下することで引き起こされています」

 レビー小体は、1976年に小阪憲司・現横浜市立大学名誉教授が、大脳皮質内にも出現することを発見。認知症のなかで、このレビー小体が脳の神経細胞体内に形成され、細胞が破壊されることで発症するものが「レビー小体型認知症」と分類されている。 

「レビー小体が脳のどこに形成されるかで、じつに多様な症状が出てきます(上の図)。大脳皮質の神経細胞に溜まると、認知障害や視覚認知障害が現れます。また、脳の中心部である脳幹に溜まると、いわゆるパーキンソン症状を引き起こします」

 レビー小体型認知症は、けっして高齢者だけの病気ではないという。

「治療が必要な症状は、便秘以外にも、排尿障害、立ちくらみ(起立性低血圧)、筋肉のこわ張り、歩行困難、手足の震え(安静時振戦)、幻覚妄想、抑うつ、異常な寝言などの、行動異常や精神症状があります。

 レビー小体病によって引き起こされるさまざまな症状のなかに、認知症やそのほかの症状があるといえます」

 厄介なのは、この病気への理解がほとんど広まっていないことだという。

「早期発見が大切ですが、認知症を疑われた際に一般的におこなわれるMRI検査などでは、診断が困難です。心臓の画像検査や脳内のドパミン神経の状態を調べることで、症状が『レビー小体病』に起因しているかの判断がつきます。

 たとえば、便秘などの自律神経系の症状で神経内科を受診しても、担当医の経験が少ないと、見逃してしまう可能性があります」

 さらに、レビー小体型認知症と診断されずに、ほかの薬を服用すると、症状を悪化させるリスクもある。たとえば、薬局で購入できるかぜ薬が、レビー小体病による、幻視や認知機能障害を誘発させてしまう可能性があるのだ。

「私の父も最初、便秘とパーキンソン症状が現われました。2年たつと、次第に幻覚を訴えるようになりました」

 そう語るのは、都内在住のレビー小体型認知症の父(91)を持つBさん(59)。

「何度も病院で検査を受け、レビー小体が原因だとわかりました。原因がわかるまでは、さまざまな薬の副作用で、体調を崩すことも多かったです。

 レビー小体型認知症だとわかったうえで、適切な薬の種類や分量を見つけることができたので、今では症状を抑えられています」(Bさん)

 そもそも、レビー小体自体を除去することはできないのか。 

「レビー小体の、神経細胞体内での形成を止める治療法は、現在ありません。個々の症状を緩和する対症療法しかないのです。

 症状に対する有効性だけでなく、治療を優先すべき症状を判断して薬剤を使用するタイミングを計ることが、患者さんのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)のために重要になります」(眞鍋教授)

 便秘が続いたときは一度、大学病院などの大病院で診察を受けてみることをおすすめする。たかが便秘、されど便秘なのだ。

(週刊FLASH 2019年7月2日号)