写真・AP/アフロ

「今ではバスケをやっている塁を見るのが楽しみ。あれから3年で本当に立派になった」

 6月21日(日本時間)、NBAドラフト会議で、日本人となる1巡目(全体9位)指名を受けた八村塁(21)。ドラフト会議で全体9番めに名前を呼ばれ、NBAコミッショナーのアダム・シルバー氏と壇上で力強い握手を交わした。

 その快挙を、感慨深い思いで見ていたのは、「奥田少年野球クラブ」元監督の高嶋信義さん(73)。

 富山県で育った八村のアスリートとしての原点は、少年野球だ。高嶋さんが続ける。

「本当に将来が楽しみな子でした。私は、クラブからプロ野球選手を生み出すことを夢見ていましたが、塁にはその可能性がおおいにありました」

 中学でも野球を続けられるよう、高嶋さんはさまざまな指導者に八村を紹介した。 

「ですが……、小学6年生の夏休みに塁が股関節を痛め、野球がほとんどできなくなってしまった。もしあのとき股関節を痛めなかったら、野球を続けていたのでは」(高嶋さん)

 奥田中学校に入学した八村は、現日本代表の馬場雄大などから熱心な勧誘を受け、バスケットボール部へ入部。高校も宮城県のバスケ強豪校へ進学し、高嶋さんとは疎遠になってしまう。ところが……。

「高校卒業間近に突然、挨拶に来たんです。わざわざ、『大学はバスケのためにアメリカに行きます』『英語を勉強しなければいけないです』と。彼から勉強の話を聞くなんて、初めてでした(笑)」(同前)

 野球をやめてから6年後のことだ。「バスケのプロを目指すと決意して、彼なりに筋を通してくれたのかもしれません」と高嶋さんは振り返る。

 NBAドラフト1巡目指名がいかにすごいことなのか。元プロバスケ選手で解説者の佐々木クリス氏が語る。 

「世界のバスケ人口は男女合計で4億5000万人といわれている。そのなかで、全30チームのNBAで正規契約の選手になれるのは、450人だけの狭き門なんです。ドラフトの指名は、現在、各チーム2人まで、世界で60人だけです」

 選ばれし者は年俸も桁違い。 

「1巡目選手には、最低でも2年間の契約が保証されます。上位指名の選手ほど高く設定される『ルーキー・スケール』という標準額があり、新人選手の年俸はその80%〜120%の範囲内で交渉が可能です。ほとんどのチームは最大額となる120%の額で契約します。

 今回、ドラフト全体の1位で指名された選手の年俸は10億円を超え、9位の八村選手は最高で約4億8000万円になります」(佐々木氏)

 では、八村が運命を託す「ワシントン・ウィザーズ」はどういうチームなのか。 

「今季は32勝50敗でプレーオフ進出を逃しており、再建途中のチーム。彼にも出場のチャンスはあるでしょう。

 また、ヘッドコーチのスコット・ブルックス氏は、ケビン・デュラントやラッセル・ウエストブルックといった名選手を育てた名将で、人格者としても知られています。八村にもいい影響を与えてくれると思います」(同前)

「筋を通す男」は、ビッグチャンスを逃さない。日本中が期待する活躍を見せてほしい。次のページでは、八村の成長記を写真で振り返る。