どうしていつもうまく行かないのだろう。

気がつけばアラサーにもなり、恋愛ならいくつも重ねてきたはずなのに…。

なぜかいつも男に振り回される。逃げられる。消耗させられる。幸せとは程遠いダメ恋を繰り返してしまう。

一体、何がいけなかったのか。どこで間違えてしまったのか。この連載では、自身のダメ恋を報告してくれる女性の具体例を基に、その原因を探っていく。

これまで浮気を許した女、プロポーズされない女、長文LINE女、自称・イケてる美女、日陰の女、捨て犬系女、結婚が破談になった女、立場逆転される女、召使になった女、現状維持女、チヤホヤ女を紹介した。さて、今週は?




【今週のダメ恋報告者】

名前:松本美恵(仮名)
年齢:30歳
職業:IT企業(営業)
住居:代々木上原


ダメ恋報告No.12 「元・夫を超える男になかなか出会えません」


「お待たせしました」

六本木・けやき坂の『ブリコラージュ ブレッド&カンパニー』。

今回の報告者・松本美恵は、優雅な振る舞いで夕暮れのテラス席に現れた。

モノトーンのワンピースと長い髪が風に揺れる。美恵は華奢で小柄な体型ながら、妙に色気を感じさせる女性だ。

「私…実はバツイチなんです」

声を潜めながら、美恵は自身が辿ってきた“ダメ恋”を告白してくれた。

「離婚理由は…ひとことで言うと“レス”です。結婚生活は3年足らずでしたが、夫婦生活があったのは最初の1年だけ。その後の2年はまったく。…2年間、たったの1度もなかったんですよ?」

大きな目をさらに見開き、同意を求める美恵。

そうして小さくため息をつくと、色っぽい伏し目でこう呟くのだった。

「私だって女です。他の男性に目が行くのも仕方がないでしょう?」


“レス”から他の男性に目を向けるようになった美恵だったが…


「きっと彼のほうも、他に女性がいたと思います」

求め合うことのなくなった夫婦は、自然とお互いに干渉し合わなくなったという。

しかしだからと言って、仲が悪いとか殺伐としているわけではなかった。

元・夫は外資系投資銀行勤めで結婚前から多忙だったが、二人はできる限り休みを合わせて行動を共にしていたのだ。会話もスキンシップもある。

傍目にはきっと、仲良し夫婦に見えていたはずだ。

しかしワインを開けて甘えてみても温泉旅行を計画しても、一向に“その気”にならない夫。

人妻とはいえ、美恵はまだ30歳。大学時代の友人たちの半分はまだ独身で、いわゆるお食事会などで派手に遊んでいる。

−私にも、他の人生があるのかも…。

悩んだ末に美恵は、独身女友達の輪に舞い戻った。

「嘘をついて遊んでいたわけじゃありません。結婚していることを隠したりはしませんでした。…でも、結構いるんですよ。それでも言い寄ってくる男の人」

しばらくして美恵は、広告代理店勤務の庄司という男と定期的に会うようになった。




「庄司さんは元・夫と同じで3歳年上。しかも彼の方も奥さんと“レス”で、離婚を考えていたんですよ。あまり人には言えない、同じ悩みを共有している絆みたいなものが二人を近づけたのだと思います」

度々逢瀬を重ねるうち、庄司は美恵に“再婚”をほのめかすようになったと言う。

「美恵が離婚するなら俺も離婚するって言うんですよ。どうして私が先なの、って思いますよね(笑)その時点で彼が本気じゃないことは私もわかっていました。ただ…離婚しても大丈夫かもっていう自信にはなったんです。私を愛してくれる人は他にもいるんだ、って」

結婚3年弱、30歳のタイミングで、美恵は離婚に踏み切った。

「夫は別れたくないと言ってくれました。美恵のことを心から愛してる。俺たちはやり直せるって何度も何度も。そうですね、私たちは仲良しだったし、私も夫のことを嫌いではなかった。私たちの問題は、夫婦関係がないという一点だけ。でもその事実が、私には耐え難かった」

お互いに涙を流しながら話し合いを重ね、ようやく離婚届を提出したのが昨年末のこと。

「結婚って、する時より終わる時の方が大変って言うけど本当ですよ。もう、心身ともに疲れきってしまって…。しばらくは新しい恋愛をする気にもならなかった」

当時の気苦労を思い出したのか、美恵は天を仰ぎ乾いた声で笑う。

ちなみに広告代理店の庄司とはどうなったのかを尋ねると、「ああ、あの男」と失笑混じりに答えてくれた。

「庄司は結局、離婚しませんでしたよ。今でも結婚生活を続けながら他の女と遊んでいるんじゃないかしら。“レス”の問題って結局、男と女じゃ深刻度がまるで違うんですよ」

吐き捨てるように言う美恵。しかしそれからしばらくして、彼女にも新たな彼氏ができたという。

「ええ、今年の春からお付き合いを始めた男性がいます。40歳で、滝沢さんっていうの。都心の高級物件を扱う不動産会社の跡取りで、彼もバツイチ。結婚を前提にと最初から言ってくれているし、再婚相手として申し分ないとは思うのですが…」


バツイチ同士の滝沢と良い関係だという美恵。しかしどうしても再婚に踏み切れない


「今更何を、と言われてしまうかもしれませんが…」

続きを躊躇するように言葉を切る美恵。

そして何かを諦めるようなそぶりで首を振ると、これまで表に出さなかった本音をぽつりぽつりと語ってくれた。

「滝沢さんと一緒に時間を過ごせば過ごすほど、元・夫のことを思い出してしまうんです。笑いのツボが違う、会話のテンポが違う、好きな映画が違う…つまり私は、元・夫といた時の方がずっと楽しかったことに気がついてしまったんですよね」




「それなら元サヤに、なんて簡単に言わないでくださいね。そういう問題じゃないんですよ。そんなことをしたって何の解決にもならないんだから。私は滝沢さんとの再婚を前向きに考えています。ただ、もう少しだけ彼を好きになる時間が欲しいというか…」

滝沢を好きになる時間が欲しい、と語る美恵。しかしその一方で、彼女は元・夫とも頻繁に連絡を取っているのだという。

「元・夫とは、そうですね…週に1度くらいはLINEしてるかな。何をって、他愛のない会話です。憎しみあって別れたわけじゃないから、今でも仲良しなんですよ。二人で会ったのは離婚してから数回ですけど、今でもお互いに良き理解者だと思ってます」

元・夫のことをそんな風に語る美恵は、これまでで一番明るい表情をしているように見えた。

そのことに自分で気がついたのだろうか。美恵は少し慌てた様子で下を向く。

「わかってます。そんなことをしているから前に進めないんだってことは。…だけどやっぱり、元・夫と話す方が楽しくて、つい連絡してしまうんですよね」

「何やってるんでしょうね、私」と呟く美恵。自虐的に笑う彼女だが、その声はどこか達観したかのような響きがあり、何度も何度も自問自答してきた苦悩を感じさせた。

「女って本当に複雑ですよね。身体の関係がないと心が病んでしまう。でも身体の関係があるからって満たされるわけじゃない…。何を優先させるべきなのか、私にはもうわかりません」

悩めるバツイチ女の切ない声が、夏の夜風に吹かれて消えた。

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いつも「謝る側」になってしまう女