日本代表を率いる森保監督。今西氏は、その集中力の高さを絶賛する。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

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 日本代表は6月25日(日本時間)、コパ・アメリカのグループリーグ突破をかけてエクアドルと対戦する。チームを率いるのは、就任して1年を迎えようとしている森保一監督。その指揮官をサンフレッチェ広島時代からよく知る恩師、今西和男氏に森保監督の人となりについて伺った。

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――森保一監督が日本代表に就任して1年が経とうしています。サンフレッチェ広島時代の教え子でもあります、森保監督が代表監督に就任したときの心境はいかがでしたか。
「日本人を代表監督にするんだったら、風間八宏(現・名古屋グランパス監督)君か森保君かなというふうには思っていました。松田浩(元・栃木SC監督)君がひょっとしたら将来、代表監督になるかなと思ったら、森保君のほうが先になりましたね。ずっと見ていた選手ですからとても感慨深いですよ」
 
――森保監督としての資質についてどんな印象をお持ちでしょうか。
「彼の良いところはとても賢い。いわゆる監督と言ったら、とくに選手に対して『こら!』と言えるところがないといけない、というイメージを持っている人が多い。ところが、彼はそうじゃない。『こうするぞ』という方針はしっかり伝えたとしても、普段は選手の話をいろいろ聞いてあげたり、コーチとも相談しながらやっている。日本代表コーチの横内(昭展)君も下田(崇)君も私の教え子ですけど、『君たちが指導者にしろ、マネジャーにしろ、本気でサッカーで飯を食いたいんだったら、ちゃんと自分の意見を聞いてもらえるようにしないといけない』と言って、彼らのためによく勉強会を開いていました」
 
――勉強会の内容は具体的にどういったものでしょうか。
「例えば、“3分間スピーチ”というものがあったんですが、『今日の講義を聞いた中で一番印象に残ったことを、3分間話してください』と言ってやらせたら、ほとんどが1分ぐらいで終わってしまう。ところが、森保君は20分間も話していた。『森保、もう3分過ぎてるぞ』と言っても止まらない。昔からすごく集中力があって。多感性というかね、感じるものがたくさんあって、それを生かしたいという気持ちがあるんですよ。集中力の高さというのは、高校生の森保君を初めて見た時から、一番評価していました」
 
――森保ジャパン発足当初、長友佑都選手は「森保さんのためだったら何でもやりたい」と言っていたそうです。ロシア・ワールドカップでコーチとして森保さんは現場に立っていましたが、そこで長友選手はその人間性に触れたのでしょう。
「自分の意見をとにかく聞いてくれることは、選手にとって大事なことですよ。監督に対する信頼度からしたら、やっぱりそれが一番でしょう。選手が終わった後、サッカーの現場で指導者になるために何が必要か。そのことを、ずっと森保君たちに教えてきたつもりです。『聞く、考える、話す』。とくに、このことをずっと教えてきたのですが、選手にしてみれば、たしかに『俺の言う通りにやれ!』というのではなく、選手をその気にさせることは非常に大切だと思います。時代もそんな流れになっている。俺について来いという時代ではなく、今は選手たちの意見を聞く時代へ。みんなで決めたことは守ろう。きちんと規律を守りながら、自分の考えていることを理解してもらうために監督と対話する。反対に、指導者は選手の話も聞くという時代に、サッカー界は変わりつつある。そういう意味でも、森保君は今の時代に合った指導者とも言えるでしょう」
 
――日本代表がこれから強化すべきポイントがあるとしたら何でしょう。
「代表チームを率いるのなら、その指揮官は世界に勝つための戦術を持たないといけない。そのためには、自分自身がコーチと一緒に海外の試合を観に行く必要はある。森保君は非常に勉強熱心だから、そういう意味では期待しています。やはりヨーロッパは報酬が高いから、一流監督を連れてくるのは難しい。日本人の監督を成長させることが必要ですよ。そのあたりは田嶋幸三会長も分かっていると思いますから、Jリーグの試合がない時には、できるだけ海外へ行って、いろんな経験を積ませた方がいいでしょう」
 
――サンフレッチェ広島のGMや日本サッカー協会技術委員など、長らく日本サッカーの強化に携わってこられた今西さんから見て、果たして日本は今、どのくらいの位置にいると思われますか。
「FIFAランキングというものがありますから、それが物差しになるのでしょう。しかし結局は、若手の選手は伸びているわけですから、やはり先ほども言ったように、指導者がどれだけ海外に行って勉強するか、にかかっていますよ。海外に行って、次に勝つためにはどうすればいいのか? という勉強を日本サッカー協会がさせるべきです」
 
――森保監督の話に戻ります。これから日本代表は、サンフレッチェ広島で培われてきた森保監督のカラーが色濃く出てくると思われますが、今西さんが思うサンフレッチェ広島サッカーのベースは、ひと言で言うと、どういったものでしょうか。
 
「サンフレッチェ広島のサッカーは、私が選手の頃から、とにかくチームプレーで勝つというサッカーでした。個人技術においてはもっと強いチームがありましたから。とくに古河電工(現・ジェフ千葉)は、長沼(健)さん、川淵(三郎)さん、内野(正雄)さんなど、日本代表選手がレギュラーの半分くらいを占めていました。マツダはレベルの高い選手を獲れなかったので、チームプレーをベースに対抗するしかなかった。そうした流れで、森保君も(ハンス・)オフトにチームプレーを教わってきましたから、当然、日本のサッカーもチームプレーがベースになるでしょう」
――世界のトップレベルに比べたら、日本はまだまだチャレンジャーの立場にあります。
「日本が成長しているとは思いますが、同じように、世界も成長しています。ですから、日本もチームプレーをベースに戦うしかない。ただ、規律を守ることは、個人の力が上回る場合もある。それ(個人の力)に対抗するために、規律を守って全員がひとつになってチームプレーで勝負していく。そのためには、集中力を切らさないということが非常に大切になります」
 

――森安ジャパンのキーワードは「集中力」と「チームワーク」ということでしょうか。
「そうなります。森保君は、あのドーハの悲劇を味わった。一瞬のスキが命取りになる怖さを誰よりも知っています。ただ、サッカーの場合、その集中力を切らさないというのが、なかなか難しい。野球と違って、ほとんど休みがないし、自分のところにボールがなくてもフィールド全体を見ていないといけない。だから、集中力を切らさないで自分が次にやることを考えることが大事になる。もともと森保君は賢いし、先ほども言ったように、とにかく集中力が高い。しっかりと集中力を切らさない選手を育てていってもらいたい。それに来年は、東京五輪というビッグイベントが控えている。サッカー人気獲得のためにも結果を出さなきゃいけない。そういう意味では、非常に大切な戦いになる。優勝を目標で掲げているみたいだが、ベスト4まで勝てれば万々歳でしょう」
 
取材・構成●小須田泰二(フリーライター)