1/15「神秘的なことを期待する人もいるでしょうが、iPhoneを手にもち、儀式の前にFacebookプロフィール用のセルフィーを撮る若い魔女もいますよ」と、民族学者のシュステロヴァは語る。「インターネットのおかげで、ヴラジトアレの仕事はずいぶんやりやすくなりましたし、クライアントも利用しやすくもなりました」PHOTOGRAPH BY LUCIA SEKERKOVÁ BLÁHOVÁ 2/15魔女たちは、儀式における富のシンボルとして「$」マークを使っている。PHOTOGRAPH BY LUCIA SEKERKOVÁ BLÁHOVÁ 3/15ヴラジトアレのメンバーは7歳で技法を学び始める。“開業”前には、母や祖母の仕事ぶりをじっと観察するのだ。PHOTOGRAPH BY LUCIA SEKERKOVÁ BLÁHOVÁ 4/15ロマの文化に詳しい民族学者の協力がなければ、このフォトシリーズを完成させることはできなかったかもしれないと、ブラホヴァは語る。「そこは閉ざされたコミュニティで、なかに入るのが難しいのです」PHOTOGRAPH BY LUCIA SEKERKOVÁ BLÁHOVÁ 5/15ヴラジトアレの間で一番人気のソーシャルプラットフォームはFacebookだ。魔女たちはライヴストリーミング機能を使い、多いときには何千人ものオーディエンスに向かって儀式の模様を配信する。PHOTOGRAPH BY LUCIA SEKERKOVÁ BLÁHOVÁ 6/15「ヴラジトアレを初めて訪れたときは、わたしがポーズやロケーションを決めていました」とブラホヴァは語る。「けれども、その後の訪問では、好きな姿勢を取ってもらうことにしました。そのほうが彼女たちの素顔がよりよくわかりますから」PHOTOGRAPH BY LUCIA SEKERKOVÁ BLÁHOVÁ 7/15魔女は多くの場合、自宅で儀式を行い、小さな部屋で依頼者と対面する。ブラホヴァによれば「魔女ビジネス」で大きな富を築いたロマの女性もいるという。PHOTOGRAPH BY LUCIA SEKERKOVÁ BLÁHOVÁ 8/15かつてのルーマニアの魔女たちは、行く先々で顧客をつかまえていた。しかし、いまはインターネットのおかげで、遠方からの依頼にもFacebookのチャット機能を使って対応できるようになった。料金は魔女の口座に振り込まれるのだという。PHOTOGRAPH BY LUCIA SEKERKOVÁ BLÁHOVÁ 9/15写真のダヌシアは、白魔術しか使わない。その理由は、誰も傷つけたくないからだ。「彼女は呪文を使いません。祈るだけです」とブラホヴァは語る。「宗教画からヒントを得た“デジタル後光”をつくり出すために、フラッシュとテレビを彼女のうしろに置きました」PHOTOGRAPH BY LUCIA SEKERKOVÁ BLÁHOVÁ 10/152011年、魔女に16パーセントの所得税の支払いを義務づける法案が可決された。彼女たちの反応は真っ二つに分かれた。魔女がまっとうな仕事として認められた証だと支持する者たちがいる一方で、怒り狂って、毒をもつマンドレイクをドナウ川に投げこむ者たちもいた。PHOTOGRAPH BY LUCIA SEKERKOVÁ BLÁHOVÁ 11/15写真家である彼女を儀式に参加させる魔女もいたと、ブラホヴァはいう。「口車に乗せられて、依頼者の役をさせられました。目的は、ソーシャルネットワークでのセルフプロモーションです。世間知らずでなくても、魔女の言葉を信じてしまうことがよくわかりました。人の信頼を得るのが本当にうまいんです」PHOTOGRAPH BY LUCIA SEKERKOVÁ BLÁHOVÁ 12/15首都ブカレストの真ん中にある自宅の裏庭で花を摘む少女たち。この写真が物語るのは、魔女がインタヴューで語ることと、リサーチ中に目撃された現実との間にある矛盾だとブラホヴァは言う。「彼女たちは、秘密の場所で花を摘んでいると言っていました。文明から遠く離れた、手つかずの自然のなかにある場所で、日の出のころにその作業をしていると言っていたのです。インタヴューを重ねるにつれて、彼女たちが依頼者に向けて行うある種のパフォーマンスや、彼女たちの間で繰り広げられる競争的な状況が見えてきました」 PHOTOGRAPH BY LUCIA SEKERKOVÁ BLÁHOVÁ 13/15儀式前の依頼者の姿。魔女の命令により、依頼者は白いヴェールを頭からすっぽりとかぶる。ヴラジトアレに伝わる秘儀を見えないようにするためだ。PHOTOGRAPH BY LUCIA SEKERKOVÁ BLÁHOV 14/15「マルツィショール」(春の到来を祝う祭り)の最中に、依頼者からかかってきた電話にiPhoneで応対するヴラジトアレのメンバーたち。PHOTOGRAPH BY LUCIA SEKERKOVÁ BLÁHOVÁ 15/15儀式では、動物が生け贄にされることも多い。この黒いめんどりは、邪気を払うために捧げられる。PHOTOGRAPH BY LUCIA SEKERKOVÁ BLÁHOVÁ

神秘の世界にもグローバリゼーションが到来した。インターネットの普及により、ルーマニアの魔女コミュニティ「ヴラジトアレ」は、古くから伝えられる魔術の場をウェブへと移すようになっている。

「「魔女のコミュニティ」はオンラインに移行中──SNSも使いこなす現代のルーマニアの“魔女”たち」の写真・リンク付きの記事はこちら

儀式をライヴ配信したり、ヴィデオチャットで依頼者の運命を占ったり──。“魔女アントレプレナー”たちは、ソーシャルメディアを利用しながら、ロマの女性たちに伝わる歴史的な神秘主義を、悩める魂たちに向けて効果的にマーケティングしている。自らをよりよく表現する道具(服やジュエリー、宗教的な彫像や絵)を用いて、効率的にビジネスを大きくしているのだ。

ヴラジトアレのメンバーは、伝統を守っていくだけの能力が備わっているかどうか入念に見極められた上で、7歳からその技法を学び始める。技法は自身の母親から教えられ、なかには聖なるエネルギーと交信できる「才能」を神から授かって生まれたと主張する魔女もいる。

ヴラジトアレに入ることができるのは女性だけだ。ルーマニアでは、魔術は崇められ(そして恐れられ)ており、邪気を払うために大統領が紫色のものを身につける日があることで知られている。

さらに、魔女たちには納税義務もある。2011年に制定された新法により、ヴラジトアレもほかの自営業者と同率の16パーセントの所得税を払わなければならなくなったのだ。彼女たちの反応は真っ二つに分かれた。魔女がまっとうな仕事として認められた証だと支持する者たちがいる一方で、怒り狂って毒をもつマンドレイクをドナウ川に投げこむ者たちもいた。

オンラインで活動する魔女たち

スロヴァキアの写真家、ルチア・セケルコヴァ・ブラホヴァがヴラジトアレのことを知ったのは13年のことだ。カタールのニュースチャンネル「アル・ジャジーラ」で、あるドキュメンタリーを見ていたときのことだった。

フォトシリーズ「Vrjitoare(ヴラジトアレ)」の制作を思い立ったブラホヴァは、ワラキア(ルーマニア南部)に起源をもつロマ人の文化を専門とするスロヴァキアの民族学者、イヴァナ・シュステロヴァの力を借りて、ヴラジトアレに近づこうと試みた。

オンラインで見つけた魔女たちに、個人のサイトやFacebookページを介して連絡をとり、訪問の手はずを整えた。ヴラジトアレの信頼を得て撮影にこぎつけるために、ブラホヴァも、シュステロヴァを見習ってロマの伝統的な服装をし、その風習を観察した。「よい第一印象をもってもらうためには、彼女たちに正直に接することがとても大切です。ときには優れた交渉術が必要になることもあります」とブラホヴァは語る。

交渉は、ヴラジトアレのビジネスにおいても重要なものだ。魔女たちは料金をネットで公開していない。費用は提供するサーヴィスによって、すべて異なると考えているからだ。たいていの場合、依頼者はまず魔女と会って「診断」を受ける。ブラホヴァによれば、その料金は10〜20ユーロ(1,200〜2,400円)だという。「治療」を受けるには、また別の料金がかかる。

ある魔女はブラホヴァにこう語った。「50ユーロ(約6,000円)を払う依頼者もいますし、わたしの誠実さが気に入ったと言って、500ユーロ(約60,000円)も払ってくれる依頼者もいます」

見えてきた魔女たちの「日常」

ブラホヴァによれば、ヴラジトアレが行う魔法の儀式のほとんどは、健康を回復させたり、恋心に火をつけたりすることが目的なのだという(なかには害をもたらすことを目的とするものもあるようだ)。誰もがウェブプレゼンスをもてるようになったいま、魔女たちの多くは、自分のビジネスを差異化しなければならないというプレッシャーを感じるようになっている。

「彼女たちは秘密の場所で花を摘んでいると言っていました。文明から遠く離れた手つかずの自然のなかにある場所で、たいてい日の出のころにその作業を行っていると言っていたのです」と、ブラホヴァは語る。「インタヴューを重ねるにつれ、彼女たちが依頼者に向けて行う一種のパフォーマンスや、彼女たちの間で繰り広げられる競争のようなものが見えてきました」

ブラホヴァによれば、特に年配の魔女の一部は、インターネットによって魔術が身近なものになりすぎることを心配している。ヴラジトアレの若いメンバーのなかには、秘密の儀式の手順をFacebookでシェアする魔女もいるという。

それでも魔女たちの大半は、ビジネスにいいも悪いもないと主張している。「神秘的なことを期待する人もいるでしょうが、iPhoneを手にもち、儀式の前にFacebookプロフィール用のセルフィーを撮る若い魔女もいますよ」と、民族学者のシュステロヴァは語る。「インターネットのおかげで、ヴラジトアレの仕事はずいぶんやりやすくなりましたし、クライアントも利用しやすくなったのです」