中華料理関係者にはお金持ちが多い。それはなぜか。当たり前のことだが大半の人はできない(筆者撮影)

ファイナンシャルプランナーの花輪陽子です。シンガポールで暮らす富裕層を見ていると、大きく言って2つのタイプに分かれると感じます。

1つ目は、ヒマ人。例えば、不動産などの管理をしているだけで、働いているようには見えない人たちです。昼間から高級スポーツジムやパーティーに出没する謎の富裕層が少なくありません。2つ目は、経営者として成功した人たちで、自らが誰よりも働くタイプです。今回は、後者のタイプの富裕層についてお伝えしたいと思います。

どの店員よりも働く「街中華の女性富豪オーナー」

シンガポールは華僑の人口比率が世界トップですが、中には中華レストランを地道に経営して財を成した人も多くいます。

シンガポールで飲食店を営むのは容易ではありません。高い賃料に加えて、人の好みの移り変わりが激しいところなので、企業としての飲食の「生存率」は低いとされています。そんな中でも、地元民に愛され、しぶとく生き残っている中華レストランがたくさんあるのです。決して高級ではないものの、手頃な値段、そこそこの味をウリにして、客の回転率がいい。

私が、とある中華レストランに行ったときのこと。店の隅々まで掃除をしている、化粧っ気のまったくない女性がいました。どの店員よりも働いていて、「この店が居心地いいのは、あの清掃の人のおかげだ」なんて思っていたら、なんと彼女がオーナーだと言うのです。「こんな店のオーナーだけどね、すごい億万長者なんだよ」と知人から聞いて、2度驚きました。

店は住宅街にあり、決してよい立地ではありません。しかし、デリバリーサービスをしたり、皆が休むチャイニーズニューイヤー(中国の旧正月・春節)にも営業したり、いろいろ工夫しているそうです。

高級食材を扱わない庶民的な中華の場合、メニューは炒め物が多く、仕入れ在庫のリスクは少なくなります。一方で、単価は安いので、客の回転率を上げることで儲けを大きくしなければいけません。そこで、皆が休むニューイヤーは書き入れ時と働くわけです。シンガポールでは、ニューイヤーには親戚一同で集まり、20人など大人数の食事を準備します。そんなときに営業して、しかもデリバリーサービスを行ってくれていたら大助かりなのです。

チャイニーズニューイヤーはタクシーのドライバーも休むので、その時期は反動で自動車のライドシェアの価格が4〜5倍に跳ね上がります。シンガポールに本社のある「グラブ」は今や東南アジアの配車サービス最大手です。私は、皆が働かないときに稼ぐ人は賢いと思います。

できる営業マンも、土日や連休などが書き入れ時になれば休まず、閑散期に休んでいる人が多いですね。自分が休みを取りたいタイミングではなく、仕事が落ち着いて差し障りのないタイミングで休むのです。また、シンガポールに赴任中の外国籍のビジネスマンも、休みを取らずに働き続け、土日や夜間にもメールでやりとりしたりする仕事好きが多いです。

店頭で接客もこなす「世界長者番付」入りの超富豪

シンガポールには、アメリカ経済誌『フォーブス』の「世界長者番付」リストにもランクインする超富裕層――数千億円の個人資産を保有する大金持ちも多くいます。ところが、そんな大金持ちが自ら店舗に立って働いていたり、一族でイベントに出席したりしている姿もよく見られます。お客様から注文を受けて動き回っていたりするのです。

華美ではなく、むしろ控えめな雰囲気でもあるので、あの人が超富裕層と気づかないことすらあります(間近で見ると、ただならぬオーラは感じます)。

セレブリティーシェフなどはメディア出演で忙しくて、自ら店舗に立つ機会は少ないと感じます。世界的なチェーン店がシンガポールから撤退することも少なくありません。ですが、オーナーシェフで自ら厨房に立っている、というお店は味が落ちず、しばらく間を置いて訪ねると新しい発見もあったり、いいところは残しつつ変化していると感じますね。

日本人の経営者の中にも、店舗に立って従業員と同じように働いたり、人手が足りないとオフィスの掃除などを経営者の家族がしたりすることもあるようです。経営者一族が会社の中に入ってくると、株主や従業員からの抵抗がある場合も多いようですが、誰もがやりたくない仕事を率先してやるために会社に入る場合は別でしょう。

「Dirty, Dangerous and Demeaning(汚い、危ない、屈辱的)」という「3D」の仕事や、誰もやらないようなことを地道に繰り返してきた人こそが、成功を収めるのではないかと思います。経営者が社長室でふんぞり返っているのではなく、店舗に立って顧客と直に接すれば、会社の強みも課題もよく見えてくるでしょう。掃除やクレーム対応など、人がやりたがらないことを上の者が率先してすると、職場の士気も上がります。

「定時に帰る」を念頭に働くシンガポールの若者たち

心配なのは、シンガポールでそうした振る舞いのできる人が少なくなりつつあることです。例えば、学校には清掃の人がたくさんいて、子どもたちは掃除をする機会がほとんどありません。若者たちも、ワークライフバランスを大切にしすぎて、「定時に帰る」ことだけを念頭に働いているような人も多いです。

日本でもワークライフバランスを大切にする人が増えてきました。ですが、しぶとい経営者たちは汗水をお金に変えることに重きを置いています。働けば働くほど、自分に結果が返ってくる。だから、どんなきつい仕事も率先して引き受けるのでしょう。金持ちになった後も同じように泥臭く働き続ける富裕層は、本物だと感じます。