新作アニメ・映画が公開される度に注目を集め、国内はもとより海外からも高い評価と注目を集めるアニメーション監督・湯浅政明

2019年6月21日(金)には待望の最新作『きみと、波にのれたら』が公開。これまで数々の作画・原画を担当し、日本を代表するアニメーション作家のひとりとなった湯浅政明監督のキャリアと作品をご紹介します。

湯浅政明 プロフィール

1965年3月16日生まれ。福岡県出身。アニメーション監督、サイエンスSARU代表取締役。

九州産業大学芸術学部美術学科を卒業後、1987年にアニメ制作会社・亜細亜堂に入社。早くからその能力を見出され、1990年に放送が開始したTVアニメ『ちびまる子ちゃん』で、本編の原画や初代エンディング「おどるポンポコリン」の作画を担当する。

その後フリーランスに転向し、TVアニメ「クレヨンしんちゃん」の各話作画監督・原画を手がけ、注目を浴びるようになる。

2004年、映画監督初作品『マインド・ゲーム』で文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、モントリオール・ファンタジア国際映画祭最優秀作品賞など、数々の賞を総なめにし、国内外で高い評価を得た。

2006年『ケモノヅメ』にてTVシリーズ作品を初監督。2010年には森見登美彦の小説を原作にした『四畳半神話大系』を手がけ、二度目の文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞。

2013年に米国の人気TVシリーズ『アドベンチャー・タイム』のゲスト・エピソードを引き受けたことをきっかけに、アニメーション制作会社・サイエンスSARUを設立。また監督・脚本・絵コンテを手がけたエピソード『Food Chain』が、アニー賞で監督賞(TV部門)にノミネートされる。

翌2014年、松本大洋の原作コミックを監督・全話脚本・全話絵コンテを自身で手がけてアニメーション化した『ピンポン THE ANIMATION』が放送。さらに同年、これまでの作品の企画案や世界観設定、キャラクターデザインなどを網羅した書籍「湯浅政明大全」(飛鳥新社)が出版された。

2017年、『夜は短し歩けよ乙女』に続いて公開された監督作『夜明け告げるルーのうた』は、アヌシー国際アニメーション映画祭の長編部門で最高賞となるクリスタル賞を受賞。これは宮崎駿(『紅の豚』)と高畑勲(『平成狸合戦ぽんぽこ』)に次ぐ日本人史上3人目の快挙。名実共に日本を代表するアニメーション監督に。

2021年には古川日出男の原作小説をもとに、キャラクター原案に漫画家・松本大洋を迎えた監督作『犬王』が公開予定。

劇場公開作品

『音響生命体ノイズマン』(1997)

16分の短編アニメーション映画。遠い未来、世界中の音楽を結晶にしてゆく不思議な生命体ノイズマンに命じられるまま「汚い音楽」を結晶に変えていた少年トビオが、ある日真実を知り、自分たちの音楽を取り戻す戦いに挑む物語。

湯浅政明は、キャラクターデザイン・世界観設定・作画監督を担当。これまでのアニメーションにはなかった色彩感覚と造形センスで多くのアニメファンを魅了した。制作は、その後『マインド・ゲーム』を共に手がけることになるSTUDIO 4℃。

『MIND GAME マインド・ゲーム​』(2004)

ロビン西の原作コミックをアニメ映画化した、初長編監督作品。初恋の相手みょんに偶然再会した青年・西は、不運にも借金の取り立てにきたヤクザに惨めな殺され方をされてしまう。神様に逆らうことで現世に戻ることができた西だったが……。

既存の手法にとらわれない自由な線とイメージ表現が十二分に盛り込まれた本作は、第8回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、ファンタジア国際映画祭作品賞(含む4部門)など数々の賞を受賞。国内外で高い評価を受けた。

本作には吉本興業の芸人が多く出演しており、主人公・西を演じる今田耕司をはじめ、藤井隆、山口智充、坂田利夫などが実写映像加工し、アニメとの融合を試みている映像にも注目。

出典元:YouTube(Movieclips Indie)

『キックハート』(2012)

原作・監督を湯浅政明、監修を『機動警察パトレイバー THE MOVIE』などで知られる押井守が務めた12分のショートフィルム。

売れない覆面レスラー・マスクマンMと人気レスラー・レディSがリングで出会い、お互いに惹かれながら愛をぶつけ合う様を描き、遊び心と下心が入り混じる展開に監督のセンスが光る作品。

日本のアニメとしては初となるクラウドファンディングで世界中から製作費を集めたことも話題に。20万ドルを超える資金を受けることに成功した。

出典元:YouTube(Tokyo Otaku Mode)

『夜は短し歩けよ乙女』(2017)

森見登美彦による同名ベストセラー小説を湯浅政明監督のもとアニメ映画化。京都を舞台に、冴えない男子大学生と、彼が思いを寄せる後輩“黒髪の乙女”との恋模様をユーモラスに描く。

不思議なレイアウトと独特のテンポ感が観る者を物語に引き込み、主人公の声をTVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』で一躍脚光を浴びた星野源が担当したことでも話題に。第41回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞などを受賞した。

『夜明け告げるルーのうた』(2017)

湯浅政明初となるオリジナル長編映画。鬱屈した気持ちを胸に秘める音楽づくりが好きな少年カイが、人魚の少女ルーと出会い成長していくひと夏の物語を描く。

作品の重要なモチーフである「水」の動きをユニークかつ自由に描いた表現に驚かされる一方、「今までにやってきた作品よりもっと本格的な、王道の長編アニメーションを目指した」(作品公式サイトより)と語るように、それまでの湯浅作品で見られた独特の画づくりやカメラワーク、キャラクターの動きとは異なる、アニメーションの定石に沿った演出が見られるのも特徴的。

本作で『マインド・ゲーム』(2004)、『四畳半神話体系』(2010)に続き、3度目となる文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞。その他、国内外で多数の賞に輝いた。

『きみと、波にのれたら』(2019)

海辺の町を舞台にサーフィン好きの大学生・ひな子と消防士の青年・港の運命的な恋を描く青春ラブストーリー。

ある騒動をきっかけに恋に落ちたひな子と港だったが、海の事故によって港が命を落としてしまい、ひな子は悲しみに暮れる。そんなある日ふとひな子が二人の思い出の歌を口ずさむと、水の中に港が現れ「再会」を果たすが……。

脚本を『猫の恩返し』や『若おかみは小学生!』の吉田玲子、音楽を『夜は短し歩けよ乙女』の大島ミチルが担当している。

特に個人的には決まった形のない「水」を描くのが好きなので、自分が普段観察したり実験したりして「こんな形にもなるんだ」と発見した「水」のフォルムを作品の中で描いていけたのが楽しかったです。

(作品公式サイト 湯浅監督SPECIAL INTERVIEWより)

と湯浅監督が語っている通り、前作『夜明け告げるルーのうた』に続き重要なモチーフになる「水」のアニメーション表現についても注目したい。

「クレヨンしんちゃん」シリーズ(1992〜)

TVアニメ「クレヨンしんちゃん」シリーズに各話作画監督・原画として参加。さらに1993年からスタートした劇場版シリーズでは、第一作目から設定デザイン・原画などを担当しており、『クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』と『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』では絵コンテも手がけた。

そしてスピンオフ作品となる、愛犬シロを主人公にした新作アニメシリーズ「SUPER SHIRO」で監督を務めることが決定している。

その他アニメーション作品

『ねこぢる草』(2000)

マンガ雑誌「ガロ」で連載されていたマンガ「ねこぢるうどん」をもとに製作された30分のオリジナルアニメーション。猫のにゃっ太が、死神に半分奪われた姉にゃーこの魂を取り戻すため、姉と共にゆく旅先で奇妙な体験をする様を描くロードムービー。

本作で湯浅政明は、脚本・絵コンテ・演出・作画監督を担当。原作の画風や奇妙さを活かしながら、シュールかつ残酷な表現を織り交ぜ、夢のように脈略なく進む展開に「ゾクゾクする」「世界観がクセになる」「不思議な感覚を得られる」といった声が多数寄せられている。

『ケモノヅメ』(2006)

湯浅政明初のTVアニメ監督作品。人間と、人間を食べてしまう食人鬼の禁断の恋の逃避行を描くバイオレンス・ラブコメディ。

血縁の因果や宿命といった重厚なテーマを、監督らしいアーティスティックなビジュアル・演出で見事に表現。主役二人のエロティックな関係を大胆に描き、時にグロテスクな表現も織り交ぜ、WOWOWの深夜枠にて放送され好評を得た。R-15指定で、大人向けの作品に仕上がっている。

『四畳半神話大系』(2010)

森見登美彦の小説を原作に、フジテレビ系列の深夜アニメ放送枠「ノイタミナ」にてアニメ化された作品。本作で湯浅政明は監督・脚本を務めた。京都の大学生の「私」が薔薇色のキャンパスライフを夢見て、パラレルワールドを行き来する青春物語。

小説では1年間の物語だったところを、一晩の物語として再構築。配役オーディション時にはとにかく早口を求めたというほど、小説の言葉づかいを活かした膨大かつ早口で流れるセリフとナレーションが独特のテンポと雰囲気を生んでいる。

TVアニメ作品として史上初となる文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞したほか、第10回東京アニメアワードでテレビ部門最優秀作品賞を受賞した。

『ピンポン THE ANIMATION』(2014)

かつて実写映画化もされた、松本大洋による大人気コミックをアニメーション化。卓球に青春をかける高校生たちの友情と成長を描く。原作マンガの絵をほぼそのままに再現してアニメーション化するという手法がとられ、さらに湯浅政明自身が全話を書き下ろす形で制作されている。

原作では描かれていないエピソードやキャラクターが数多く映像化されており、群像劇としての色合いが濃くなっているのが特徴。実写にはできない躍動感や音楽とのシンクロを実現するなど、原作ファンや映画ファンの間でも評価が高い。

フジテレビ系列の「ノイタミナ」で放送され、2015年東京アニメアワードのアニメオブザイヤーでTV部門グランプリに輝いた。

出典元:YouTube(アニプレックス)

『DEVILMAN crybaby』(2018)

永井豪画業50周年記念作品として、代表作であり不朽の傑作マンガとして知られる「デビルマン」を一部オリジナル展開を含みながら、Netflixオリジナル作品として完全アニメ化。全世界に向けて配信されている。

人間を滅ぼそうとするデーモンと人間を守るために悪魔の力を手に入れたデビルマンの戦い通じて、愛と欺瞞に満ちた人間の本性とは何かを描く。

2019年のアニメアワードでは7部門にノミネートし、最優秀作品賞“Anime of the Year”を受賞。湯浅政明は最優秀監督賞を受賞した。

出典元:YouTube(アニプレックス)

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