33年ぶりのインターハイ出場を決めた日体大柏。ついに二強の壁を破った。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

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 後半の終了間際に同点に追いつき、延長戦のラストプレーで逆転――ドラマチックな勝利は、全国トップクラスの二強を連続撃破して全国切符という大きな成果をもたらした。2から1に減った全国最激戦区のインターハイ千葉県代表の座を手に入れたのは、市立船橋でも流経大柏でもなく、日体大柏だった。

 
 決勝戦は、大誤算から起死回生で逆転勝利を呼び込む、劇的な展開だった。準決勝で市立船橋を破った日体大柏は、決勝でも5バックで守備を固めて流経大柏に対抗しようとした。しかし、前半12分で2失点。酒井直樹監督が「失点せずに数少ないチャンスを決め切ることに全力を注いだけど、2点を奪われてプランがかなり崩れた。自陣に引いているのに点を取られて、どうしようと思った」と認めたとおり、最悪のスタートだった。
 
 ところが、前半22分に快足FW耕野祥護(3年)が高速ドリブルで仕掛け、クロスをFW佐藤大斗(3年)が押し込んで1点を返すと、明らかに旗色の悪かったチームがウソのように蘇った。早い時間帯に点を重ねた流経大柏が攻め手を休めようとせず、サイドバックを日体大柏陣まで攻め上がらせたため、その背後を狙ったことが奏功したのだが、ここから見せた大逆襲は、戦術的勝利といったようなものではなかった。
 
 準決勝で苦しみながらもシュート1本で勝った市立船橋戦の経験と、流経大柏からも得点はできたという事実が、選手の執着心と自信を強く引き出していた。普段は体力の持たない選手が最後まで走り、自分以外に関心を示さなかった選手が、仲間を鼓舞する姿を見て、試合後に「今まで、そんなことはなかった。人が変わった」と選手を評したのは、酒井監督だ。以後の試合内容は、互角以上。後半17分には、FKのこぼれ球を佐藤が再び決めて同点。不利を覚悟していた酒井監督も、徐々に相手ペースの雰囲気を破っていく「想定以上の」選手の力を感じていた。
 
 一方、優位と見られた流経大柏は、主将の八木滉史(3年)を負傷で欠いたが、U-17日本代表GK松原颯汰(2年)や同代表候補のMF藤井海和(2年)を擁し、FW渡會武蔵(3年)も中盤や前線で躍動。ベストパフォーマンスではなかったと言いたい部分はあるかもしれないが、決して悪くない出来だった。後半22分に渡會がミドルシュートを決めて3点目を奪ったときは、苦戦はしても最後は勝つ強豪校らしい風格を漂わせた。
 
 ところが、この日の日体大柏は、奇跡的な力を秘めていた。途中出場のFW長崎陸(3年)が前線でロングパスのターゲットとして活躍。後半終了間際に投入されたばかりの相手選手からPKを誘発し、自ら決めて同点。敗戦寸前から可能性をつないだ。そして、延長戦では、ラストプレーとなったロングスローに競り勝った長崎が、味方のシュートに反応して左足で豪快に決勝点を叩き込んだ。
 
 市立船橋、流経大柏の二強を撃破という難題をクリアし、33年ぶり2度目の全国出場。選手、スタッフはもちろん、保護者や応援団の喜びようは、尋常ではなかった。選手の名を呼ぶ声は、嗚咽交じりのものも多かった。終盤の2得点で勝利の立役者となった長崎は「一番感謝しているのは、応援団。試合に出られずに悔しい気持ちの選手も1回戦から全力で応援してくれたし、サッカー部じゃない人も応援に来てくれた」と感謝を示した。
 
 感動的な勝利の裏側には、若き指揮官が何度も苦汁をなめさせられた経験が生きていた。酒井監督と日体大柏は、今回のような劇的な勝利を、これまでは見せつけられる側にいた。
 
 日体大柏は、体育大学の付属高で運動能力の高い選手が多く揃う土壌がある。2015年に柏レイソルと提携関係を結んで指導者の派遣、レイソル育成組織からの選手獲得が進むと、レイソル仕込みのパスワークも導入して進化。市立船橋、流経大柏が出場していない関東大会予選では、直近5年で優勝2回、準優勝1回の好成績を残している。