森保一監督率いる日本代表が、南米大陸王者を決する「コパ・アメリカ2019」のグループリーグ初戦に臨み、ディフェンディングチャンピオンのチリに0−4で敗れた。
 
 予想以上に健闘した、予想どおりの敗戦だった、あるいは予想以上の完敗だった。結果についてはさまざまな見方ができる。


前回王者チリとの初戦で、日本は試合の主導権を握られた

 しかし、今大会に向けて森保監督が編成したチームは、A代表(森保ジャパン)ではなく、来年の東京五輪を見据えた実質U−22代表にオーバーエイジを加えたメンバー編成であることは、今大会の評価を行なううえでの大前提として頭に入れておかなければならないだろう。少なくとも、昨年9月に発足した森保ジャパンがこれまで積み上げたものの延長線上で評価できないことははっきりしている。

 とはいえ、今大会のパフォーマンスが森保ジャパンに無関係かといえば、そうとは言えない。なぜなら森保監督は、肩書上、東京五輪を目指すチームとA代表という二足のわらじを履く兼任監督だからだ。

 その視点に立てば、今大会は採用システムおよびその戦術と、監督采配という2つのポイントで、そのパフォーマンスを評価することができる。ただし、同一人物(監督)が別々のカラー、異なるコンセプトのサッカーを目指すことはほぼ不可能ゆえ、コパ・アメリカでの戦いと経験が、今後のA代表のチーム作りに影響を与える可能性は高い。

「私が東京五輪世代の監督になったとき、まず自分がこれまでやってきたことをベースに、オプションとして4バックを試した。最終的に3バックと4バックのどちらがベースになるかは、招集した選手のストロング(ポイント)によって決めたい」

 6月5日のトリニダード・トバゴ戦後の会見で、森保監督は東京五輪を目指すチームの採用システムについてそのようにコメントした。さらに、その試合で初めて3バックを採用したA代表については、次のように語っている。

「私がロシアW杯をコーチとして経験させてもらったなかで、まずは西野監督がやられていたこと(4バック)がA代表の選手に合っていると思い、トライしようと思った。これまでの活動のなかで戦術的にはスムースにできていると感じていたので、急いで次のオプション(3バック)を作るより、ベースを固めながらオプションを作ることを考えた。
 現段階ではA代表は4バックだと思っているが、3バックも4バックも、我々がやろうとする戦い方の原理原則は変わらないと思っている」

 東京五輪を目指すU−22代表は3バックをベースにして4バックをオプションとし、A代表は4バックをベースに3バックをオプションとする。アプローチの仕方は異なるものの、どちらのチームも3バックと4バックを使い分け、同じ「原理原則」のサッカーを目指すというのが、現在の森保監督の考えのようだ。

 だとすれば、コパ・アメリカ初戦のチリ戦は、3−4−2−1を採用するのが自然だ。

 ところが、いざ蓋を開けてみると、森保監督はA代表のベースである4−2−3−1を採用。U−22代表ではオプションであるはずのシステムをチョイスして、周囲を驚かせた。

「今回招集した選手を見て、このかたちでやった。前田大然を右サイドで使ったのは、サイドからカウンターを狙えると思って起用した」とは、試合後の森保監督のコメントだが、その言葉を額面どおりに受け止めるには無理がある。

 そもそも今回の招集メンバーを見渡しても、純粋な4バックのサイドバックは1人もいない。今季のサガン鳥栖で右サイドバックを務める原輝綺にしても、守備的中盤からセンターバックなどユーティリティな特徴を持つ選手ではあるが、サイドバックのスペシャリストではない。そのコメントが、指揮官の本心ではないことは明らかだ。

 では、なぜ森保監督は3−4−2−1を想定したメンバーを招集しておきながら、急造チームにぶっつけ本番の4バックを採用したのか。

 考えられる理由は主に2つある。

 ひとつは、チリの分析を行なった結果、4バックがベストと考えたから。つまり、森保式3−4−2−1では格上チリに対抗できないと判断し、4バックを採用した。これは、カウンター用に前田を右ウイングに配置した事実にも矛盾しない。

 もうひとつは、来年の東京五輪を見据えてU−22代表も4バックをメインにしたいと考えているから。これは、森保監督自身がA代表の指揮で培った4バックに好感触を抱いているため、今後は東京五輪を目指すチームにもそれを浸透させたいと考えているととらえることができる。

 同時に、これまで横内昭展コーチに指揮を任せていたU−22代表が、今大会を機に、東京五輪用チームとして本格始動したことを意味する。この場合、コパ・アメリカ以降も東京五輪用チームの試合では4バックをメインに強化が進められるはずだ。

 いずれにしても、その理由が前者であるのか後者であるのかは、このチリ戦だけでは判断できない。今後の採用システムに注視する必要があるが、理由はどうであれ、少なくともこの試合で4−2−3−1を採用したことは失敗だったと言わざるを得ないだろう。

 この試合で見せた日本の4−2−3−1は、完全に破たんしていた。さらに言えば、森保監督がいう「戦い方の原理原則」も、ほとんど見当たらなかった。

 日本のシステム、戦術が破たんした最大の原因は、再三にわたってチリに許したサイド攻撃にある。これが、試合展開を大きく左右した。

 前半にチリが日本のサイドを突いてクロスを入れたシーンは15回もあった。最初のサイド攻撃は、フリーでオーバーラップした右サイドバックのイスラ(4番)がクロスを入れた9分のシーンで、キック直後から様子を見ながら戦っていたチリは、それを機に日本のウィークポイントを狙い続けた。

 左右の内訳で言えば、右サイドが9回、左サイドが6回。25分から前半終了の笛が鳴るまで、計12回ものサイド突破を許している。その間、日本はほとんどチャンスを作れずにいた。これは、前半における試合展開と見事なまでに合致する。

 さらに、同じ構図で始まった後半も、チリは立ち上がりから3回のサイド攻撃を立て続けに仕掛け、54分にエドゥアルド・バルガスが2ゴール目を奪うに至っている。

 こうなってしまった要因はいくつかあるが、とくに顕著だったのが、日本の4−2−3−1が4−2−2−2(1−1)に変形していたことにある。要するに、本来ウイングポジションでプレーするはずの前田と中島翔哉が、そのポジションを留守にしていたのである。

 中島はA代表でプレーするように、中央に入って得意のドリブルで積極的に仕掛け、シュートも狙った。しかしA代表でプレーする時以上に、ディフェンスに戻ることはほとんどなかった。チリのイスラがフリーで攻め上がる回数が多かった理由でもある。

 一方の前田も、2トップでプレーしているかのように、前線中央の上田綺世の近くにポジションをとり、時に自陣左サイド深くに戻ってチェイスするシーンもあった。そのプレーぶりは、自由というよりも無秩序と言ったほうがいい。指揮官はカウンターを狙うために前田を右ウイングで起用したと説明したが、その狙いが本当にあったのかも疑わしくなる。

 しかも1トップの上田やトップ下の久保建英がサイドに流れてサイドバックの上がりに蓋をすることもないため、結局、チリは日本のボランチの両脇に空いた広大なスペースを自由に使い、チリの両インサイドハーフのアルトゥーロ・ビダル(8番)とチャルレス・アランギス(20番)がポジションを変えながらサイド攻撃の起点となった。

 その流れが変わったのは、66分に森保監督が行なった選手交代がきっかけだった。ベンチに下がったのは両ウイングの中島と前田の2人。ここに安部裕葵と三好康児が入ると、ベンチからの指示があったのか、しっかりサイドバックの前方まで戻って守備を行うようになり、チリのサイド攻撃はパタッと止むこととなった。

 以降、チリがサイドからのクロスで作ったチャンスは3ゴール目につながった82分のカウンター攻撃1回だったことが、それを如実に示している。

 これを好意的に受け止めれば、たしかに森保監督のベンチワークが試合の流れを変えたと言えるかもしれない。しかしながら、前半から明らかだった無秩序なシステムと戦術を修正できずに放置したことも事実。いくら若い選手に経験を積ませる目的もあるとはいえ、それは問題視されるべきだろう。

 また、破たんした守備同様に、森保サッカーの攻撃のカギとされるビルドアップと縦パスについても、A代表のそれとは異なる現象が起きていた。

 GKもしくは最終ラインからのビルドアップで、センターバックやボランチから前線中央の選手の足元に入れる縦パスは、前半に柴崎岳と中山雄太が1本ずつ試みただけ。上田がスペースを狙うための縦パスは3本あったが、無秩序なサッカーを続けた前半は、森保監督が求めているはずの「戦い方の原理原則」とは大きく異なる現象が見て取れた。

 もちろん原因は4−2−2−2にある。横幅がとれなければ、相手は中央を締めればいいわけで、仮に大迫勇也がこの試合で1トップを務めていたとしても、ポストプレーから連動性のある攻撃の起点になることはできなかったはずだ。

 なぜ、森保監督はチリ戦で4−2−3−1を採用したのか、4−2−2−2に変形したまま再三サイド攻撃を浴びていたにもかかわらず、その問題を後半途中まで修正しなかったのか。この試合で浮かび上がった疑問はそこにある。

 中2日で迎えるウルグアイ戦。果たして、森保監督は3−4−2−1を使うのか、それとも引き続き4−2−3−1を使うのか。後者だった場合、チリ戦ではっきりと見て取れた問題点を修正できるのかどうか、要注目だ。