18節を終えて6位につける長崎。首位の山形とは勝点8差だ。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

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 徐々に順位を上昇させてJ1昇格プレーオフ出場圏内に浮上してきた長崎。その原動力として、圧倒的な得点力でゴールを量産するFW呉屋大翔の存在を欠かすことはできないが、もうひとつのキーとなっているのがDF香川勇気、FW畑潤基、MF吉岡雅和、GK富澤雅也といった、昨季のチームでJ1で戦う機会がほとんど得られなかった男たちだ。
 
 現在、不動の左サイドバックとして攻守に貢献する香川だが、昨季までの長崎での出場試合数はわずかに3(J2:90分、J1:7分)にとどまっていた。持ち味である走力を生かした上下動からの仕掛けを充分に生かすプレーができずにいた香川の転機となったが、昨年夏に期限付移籍した東京Vでのロティーナ監督(現C大阪監督)との出会いだ。
 
「ロティーナに教わったのは大きかったですね。ポジショニングやスペースを見る動きはかなり厳しく指導されました。そこはよく考えてプレーするようになりました」と語るとおり、それまで、ポジショニングやスペースを強く意識していなかった香川にとって、ロティーナの教えは自身の走力をより生かす方法でもあった。より効果的に自身の武器の使う方をロティーナから学んだことで、香川は成長したと言えるだろう。

 移籍先の経験で成長したのは畑も同様だ。強烈なシュートと思いきりの良さを持ち味とする畑だが、思うように試合に出場できないなか、加入2年目の2017年夏にJ3のアスルクラロ沼津へ期限付移籍。その沼津でも1年目はプレーに迷い出場ゼロに終わったものの、自身のプレーを見つめ直し移籍期限を延長した昨季はJ3で25試合出場8ゴールを記録した。
 
 背後を狙う意識を高め、「それまで得意ではなかった」というヘディングのトレーニングを重ねて、シュート力に頼るスタイルから脱却し復帰した現在は、呉屋や玉田圭司らとレギュラーを争うまでに成長している。
 
 そして期限付移籍の経験を力に変えた香川や畑に対して、自身の気付きによって変わったのが、チームトップレベルの技術を持ちながら、コンディションの波が大きいという弱点を抱えていた吉岡だ。昨季、期限付移籍したJ3のカターレ富山でもコンディション不良に苦しみ、ほとんど試合に出場できないという屈辱を味わった吉岡は、長崎復帰後から交代浴や食事の節制などコンディション維持に集中。その甲斐あって、キャンプから好調を維持した吉岡は、チーム内の序列は最下位という状態から信頼を勝ち取り、ルヴァン杯では4得点・1アシストの大活躍を見せている。リーグ戦でも千葉戦で2得点を記録するなど、今最も勢いに乗っている選手のひとりと言えるだろう。
 一方、チームに居続けることで成長した選手がGKの富澤だ。富澤は14節の金沢戦で負傷した徳重に代わってJリーグ初出場を記録すると、的確な守備でクリーンシートに貢献。その後のルヴァン杯でもPKをストップするなど、試合を重ねる毎に周囲の信頼を深めている。加入して今季で4年、リーグ戦出場を経験していく同期や後輩をよそに、コツコツとトレーニングを積み重ねてきた努力が実った格好だ。ずっと指導してきた三好GKコーチも「もともと身体も大きいし、キックの質はGKで1番。反応やシュートへの準備も良くなってきた」とその実力に太鼓判を押すまでに成長している。

 このように着実に新しい力が成長している状態について、手倉森誠監督は「一度外に出たことで、ふてぶてしくなったというか気持ちに変化が出ている」と、香川、畑、吉岡のミスを恐れない姿勢に目を細める。また富澤に対しても「リオ世代なんだよ。こんな選手がいるって教えてほしかったよ(笑)」と評価を隠そうとしない。監督のそういう姿勢が選手のチャレンジを呼ぶ雰囲気の一助とも言えるだろう。新たな力が台頭し、それを指揮官が積極的に後押しする。暑さが増し消耗戦へ突入するこれからの時期、このサイクルがしっかりと回り出せば、長崎はさらに上昇できるに違いない。
 
取材・文●藤原裕久(サッカーライター)