血栓症とは、血液中にできた血栓が血管を詰まらせることにより引き起こされる病気をいう。心臓に出来ると心筋梗塞、脳なら脳梗塞、肺に出来ると肺塞栓と呼ばれている。

 夏に「倦怠感」「めまい」「頭痛」「ふらつき」「しびれ」を感じると、まずは熱中症を疑う人も多いが、実は「血栓症」だったという人も少なくない。

 実際、国立循環器病研究センターによると、2008〜2013年の6年間の脳梗塞患者の件数は3〜5月(961件)、9月〜11月(917件)、12月〜2月(967件)に対して、6〜8月(1004件)のほうが多かった。

 「他にもあります。65歳以上の脳梗塞の患者2万1000人以上を調べた台湾の研究チームによると、平均気温が32度を超えると27度〜29度の時に比べ、脳梗塞による死亡率が1・66倍に増えることが報告されています」

 こう語るのは、都内で総合クリニックを営む医学博士・内浦尚之院長だ。

 そもそも血栓はどうやって作られるのだろうか? その点について内浦院長は、次のように説明する。
「正常な血管では、血管内で血液は固まりません。ケガをして血管から血液が外に流れ出て初めて固まります。ところが、血栓ができやすい血管は、主に3つの問題点があるといわれています。これは血管壁の状態が悪い、血液の流れが悪い(うっ滞)、血液の成分が変わる、ことをいいます」

 一般的に、健康で若々しい血管はゴムのようにしなやかで、その内側もすべすべしているといわれる。ところが血管が老化すると、硬く脆くなり、内側がベタベタしてくる。

 「老化した血管では、血液中の悪玉コレステロール等が血管壁にとりつき、その中に侵入しようとするため、それを排除しようと白血球の仲間が集まってきます。その後、白血球の仲間は、悪玉コレステロール等を食べた後に死んでしまう。その死骸と残ったコレステロールがプラークとなり、それが何らかの刺激によって破れると、その傷を修復するため血小板が集まってきてかさぶたを作る。これが血栓です」(前出・内浦院長)

 ちなみに健康な血管は、出血が収まると傷口周辺の内皮細胞が増殖して血管壁は修復される。その後は血液中のピラスミンという物質などの働きで、血栓は溶かされ跡形もなくなるといわれている。

 しかし、動脈硬化や老化が進んだ血管は、このシステムがうまく働かない。そのため血液が澱むことで血栓ができることもあり、その代表格が心房細動だ。

 この病気は、脳梗塞(脳塞栓)を引き起こしやすい事で知られているが、それは、心臓が震えるだけで血液を外に出せないから。血液同士がぶつかり血栓となるからだという。

 昭和大学横浜市北部病院循環器センター心臓血管外科・石野隆成医師はこう語る。
「これから本格的な夏に入りますが、人は暑いと熱を放出するため血管が広がり、血圧が下がって血流が悪くなる。加えて、水分補給が十分でなく、脱水症状を起こすと血栓ができやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが増すのです。重症例では、突然、失神や心肺停止を起こす。しかし、軽症、中等症では、呼吸困難、全身倦怠感、不安感、動悸、冷や汗などになるが、特有の症状はない。『なんとなく具合が悪い』と言った訴えもありますし、熱中症と間違えやすいこともあります」

★血液が固まりやすいのは早朝

 こんな例がある。ある50代の男性は、以前から喘息で病院にかかっていた。猛暑のある日、「熱中症かもしれないのですが…」と来院した。病院ではさまざまな検査に加え、心不全のマーカーとなる物質の値を測定すると、やや高めの数値。肺血栓塞症か判断に迷う値だったが、念のため、さらに診察を加えた。

 ところが、それまでは体調は悪いものの、自分で歩き、話も出来ていたこの男性が、待合室で突然、心肺停止に至った。幸いに病院の中だったので、命は助かったが、処置が数分遅れていたら難しかった、と担当医は語った。