コミュニケーションの多様化が目立つ現代において、オンラインゲームの世界を通して新しい親子のつながりを描いた『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』。今時の若者風情の坂口健太郎演じる主人公と、吉田鋼太郎が務めた昭和気質の父親の絆の物語は、さすが映画、徹頭徹尾よくできていると思いきや、実話というから驚く。

広告代理店で働くサラリーマン・岩本アキオ(坂口)は、お茶目で明るい母親(財前直見)とサバけている妹(山本舞香)と実家で穏やかに暮らしている。単身赴任をしている父・暁(吉田)とは物心ついてから仲良く話をした記憶がない。そんな父が、突然、会社を辞めて自宅に帰ってきた。退職理由を頑なに言わない父に、おっかなびっくりの家族だが、アキオは「光のお父さん」計画を思いつき、父の本音を聞き出そうとする。

アキオの計画とは、子供の頃、一緒に遊んだ「ファイナルファンタジー」のオンラインの世界に父を誘い、自分の正体を隠したゲームの世界でつながるというもの。顔も本名も知らないゲーム仲間同士なら、心の内が読み取れるのでは、という真意で進むストーリーは、微笑ましくドラマティックで、まさに事実は小説より奇なり状態。演じた坂口と吉田も、真実を基にした本作には大いに胸を打たれたようだ。

――オンラインゲームを通して、父子の交流を描く物語です。画面を通しての演技が肝ですが、難しさはありましたか?

坂口 画面を見て反応する演技は対人ではないので、最初、台本を読んでいたときは「難しそうだな」と思っていました。序盤の画面のシーンは一気に撮っていたんですが、後半、アキオの感情が出てくるところは、監督が「鋼太郎さんとお芝居をした後に撮りたい」と言ってくださって、最後のほうに撮ったんです。そのときには、感情が驚くほどそのまま出てきました。

吉田 健太郎の言うこと、よくわかりますね。画面に向かって永遠にひとりで演技するシーンは、対生身の役者じゃないので、僕もやっぱり「難しいのかな」と思っていました。ところが、その裏に健太郎が操っているマイディーがいることを想像すると、逆に気持ちが入っていくことに気づきました。ゲームをやるのは集中力がいるじゃないですか。その集中力がいつの間にか演技の集中に変わっていくという、面白い現象になっていきました。すごく興奮してやれたことに、自分でも驚きながらやっていました。

――初共演となりましたが、ご一緒してみてはいかがでしたか?

坂口 親子とはいえ、意外にも台詞のやり取りは少ない役柄同士だったんです。なのに、すごく濃いお芝居をしたような感覚でした。

吉田 ……僕はね、健太郎がどういう人なのか、わからない。

坂口 そうですか(笑)!?

吉田 何回か飲みに行ったのに、よくわからない(笑)。どこら辺に本心があるのか。演技も何が得意で、何が得意じゃないのかもわからない。だからか、何を観ていてもハマリ役みたいに見える。

坂口 それはすごくうれしい言葉です……! ただ、鋼太郎さんがお父さんをやってくれたからこそ、僕はアキオでいられたというか、役にハマらせてくれていたんだと思うんです。

吉田 そうか。……でも、これから何回も共演して、しっぽを掴んでやりたいよ(笑)。

――坂口さんと吉田さんが演技をしている通常パートと、ゲームの画面のみが映るゲームパートから構成されている本作です。演じたおふたりは、仕上がりをどうご覧になったんでしょう?

坂口 すごく面白かったです! 鋼太郎さんが演じるお父さんのゲーム内キャラクターは、そのまま鋼太郎さんが声をやられているんですけど、僕が演じるアキオがプレイしているマイディーの声は、南條愛乃さんがやってくださっているんです。最初、僕も自分で声をやるのかなと思っていたんですけど、監督から「マイディー=坂口くんだから、ゲームのキャラクターは別の声にするからね」と言われて。そうすることで、より映像が観やすくなっていて、関係性がわかりやすくなることには驚きました。

吉田 健太郎のマイディーの声が違うことによって、またひとひねりしてある感じだね。いろいろな効果が倍増されている気がしました。僕ら役者パートは、すごくリアルな世界で、なるべく日常的でというか、本当に隣にいる家族としての演技をしなきゃいけないと思いながらやっていました。その部分では意外な点はなく、「リアルな演技をきちんと生かしてくださっているんだな」と思って観ていました。そこにゲームの映像が入ってくる……というのが、ものすごく新鮮で(笑)。ひとつの映画で2回楽しめる気がすごくしましたね。新しいですよねぇ。

――オンラインゲームのステレオタイプのイメージを変えるような内容でしたが、コミュニケーションの在り方みたいなことについて、何か考えたりされましたか?

坂口 「ゲームなんかしないで勉強しなさい」とか言うじゃないですか。どこかゲームは日陰の存在的なところは、どうしてもあったと思うんです。けど、アキオは「ファイナルファンタジー」を通して父親との関係を再構築するので、台本を読んでお芝居をしていく上で、すごく美しい使い方だなと感じました。そこでコミュニケーションを取ることを悪いことではなく、むしろ正解だと思うんです。アキオと暁の関係性が新たに形作られていくこと、「お父さんて今こんなことを考えていたんだ、こんな人間だったんだ」とアキオが発見するにあたって、とてもいいツールなんじゃないかと思っていました。

吉田 映画の素材として、すごく感動的な話だから素晴らしいと思います。実際、実話なんですもんね。フィクションじゃないのがすごいですよね。現実で、こんなことがたくさんは行われないと思うんだけど、狙ってやっちゃう人が出てきたりしてね(笑)!

坂口 (笑)。

吉田 そのくらい可能性を秘めていると思うんですよね。僕自身は、父とはゲームを通じて関係を修復するでもなく仲が良く、一緒に飲みに行ったりもしましたし、旅行も行きました。

――おふたりは、普段ゲームをなさいますか?

坂口 普段からしますよ! オンラインゲームは当然、相手のユーザーの顔が見えないじゃないですか。例えば、ゲームをやっていてチャットで「子供が産まれました」とか別のユーザーが言っているのを聞いたりもしたり(笑)。こちらとしては「おめでとうございます」とかだけですけど、相手の顔が見えないからこそ、言えるポジティブなこともあるなあと実感します。わからないから言えることもありますし、わざと言わないほうがいいと思い言わないこともあるというか。なので、オンラインはすごく本質が出るな、と思うんです。口語でしゃべるときは、浮かんだものがパッと言葉で出てしまうけど、チャットで打ったりすると、何となく整理されるじゃないですか。そういう意味で、もう少しいろいろなものが削られてシンプルなものが出てくる気はしています。

吉田 僕もゲーム、大好きなんです。ファミコン発売当初からやっているので「ゲームを始めた第一世代だ」と自負しているんだけど(笑)。ゲームといえば、「=没コミュニケーション」の世界というか、自分の世界に閉じこもって、自分の部屋でひとりきりでやる、というものだったじゃないですか。オンラインは違うよね。僕、この間初めてオンラインに挑戦してみたんですけど、なかなかつながれなくて……。要するに、人が寄ってこなくて……。

――本作でいう「フレンド申請」的なことですか?

吉田 そう! 難しいんだよね……!! 僕らの世代は操作自体に慣れていないので、ちょっと戸惑うというか、友達を作るまで大変、みたいな。実際に知らない人とゲームをやったことはまだないんだけど、面白いと思います。今は、いきなり世界ともつながれるんでしょう?

坂口 そうみたいですね!

吉田 そんなことになっちゃうの、完全に逆転じゃないですか。厳しいことを言えば、相手の顔も見えないのに「それが本当のコミュニケーションか?」とも思うんだけど、そんなことを言っていると、それこそじじいだから(笑)。じじいにならないためにも、どんどんオンラインに僕らの世代こそ、出ていっていいんじゃないかなと思います。……なかなかつながれなくて難しいんだけどね(笑)。(取材・文=赤山恭子、撮影=映美)

映画『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』は2019年6月21日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。

出演:坂口健太郎、吉田鋼太郎 ほか
監督:野口照夫、山本清史
脚本:吹原幸太
公式サイト:https://gaga.ne.jp/hikarinootosan/
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