電動化を進めようにもバッテリーに必要なリチウム資源が足りない

 中国や欧州を中心に、電動化の動きが活発だ。また米国も、カリフォルニア州をはじめとする10の州でZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)規制が推進されている。しかし、一部北欧を除いて新車販売台数に占める電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の割合は数%前後という水準にとどまっている。それでも、今後、欧州でCO2排出規制が厳しさを増すと、PHEVやEVの販売台数が伸びていくだろう。日本でも、2030年を目途に、現在に比べ燃費を3割以上改善しなければならない規制が行われようとしている。

 一方で、EVやPHEVに搭載される永久磁石式同期型モーターで使われるレアアースや、リチウムイオンバッテリーで使われるリチウム資源には限度があり、現在、世界13億台といわれる自動車すべてを電動化するのは難しい状況にある。高性能化や安全性で期待される全固体バッテリーも、素材はリチウムなので課題は同じだ。そのうえ、全固体バッテリーが実現すれば、船舶や航空の分野も電動化されると見る人もある。

 それでも、エンジンの燃費を改善するだけでは気候変動を止められない水準に達しているのが現実だ。海の温度が上がり、気流の流れが変わり、異常気象が異常ではなく常態化する事態はすでに始まっている。国土交通省では、豪雨に備えた治水行政の見直しを行うという。

クルマの稼働率を上げて全世界の保有台数を大幅に減少させる

 ところで、これまで当たり前に思ってきたクルマの所有は、稼働率が非常に悪い。9割近くは駐車場に止まった状態にあると世界的にいわれる。この稼働率を高めれば、世界の保有台数を減らしても、移動の自由は得られる。いまの1/7(2億台以下)まで保有台数は減らせるとの見解もある。

 モーターについても、レアアースを使わない永久磁石式同期型モーターの開発をホンダは行っているし、テスラは電磁石のみによる誘導モーターを使っている。その誘導モーターはさらに効率化し、量産化する研究・開発も行われている。それは脱レアアースにつながる。

 いま、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)とか、CASE(コネクティビティ・オートノマス・シェア・エレクトリック)といわれるクルマの革新は、安全や環境、人手不足の解消を目指し世界の自動車メーカーが取り組んでいるが、その先にあるのは世界の自動車の台数を減らすことである。そうすれば、すべての自動車をEVにし、ゼロエミッション化する資源は確保される。所有という価値を離れれば、電車やバスと違う移動手段として、個人の都合にあわせたクルマの利用がシェアリングで保持される。

 当然、自動車メーカーはこの先世界的に淘汰されることになる。その生き残りをかけた戦略が、現在の自動車メーカーの経営に重くのしかかっている。そうした熾烈で必死な戦いが、技術革新の水面下で行われていると考えられる。もちろん、馬車からクルマへ手段が変わった今日も、競馬や乗馬といった趣味が残されているように、クルマを所有する価値が消えるわけではないかもしれない。だがそれは、少数派の喜びとなっていくのではないだろうか。