スティーヴン・スピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』で“ダイトウ”を好演し、世界が注目するところとなった森崎ウィン。ミャンマーで生まれ、日本で育ち、俳優としてグローバルに活躍する一方、所属グループ「PRIZMAX」では歌手としての活動も行い、「ウィンが3人ほしいって、マネージャーさんにも言われます(笑)」と白い歯を見せる。

4月末には、出演するミャンマーと日本の合作映画『マイ・カントリー マイ・ホーム』が「島ぜんぶでおーきな祭 第11回沖縄国際映画祭」にて特別招待作品として出品され、上映された。本作は、日本とミャンマーというふたつの祖国の狭間で葛藤するミャンマー人女子高生ナンのひと夏を描いており、森崎は、ナンが憧れを抱く人気歌手・木村アウンを演じている。

広がり続ける選択肢から何をつかみ取り、どう羽ばたいていくのか。目まぐるしい日々の中でも、自分を見失わずに邁進する森崎に、俳優としての展望を聞いた。

――森崎さんご自身、生まれと育ちはミャンマーで、その後日本へ、という流れなんですよね?

森崎 そうですね。生まれた場所と育ちはミャンマーで、10歳のときに日本に来たんです。芸能のためにではなく、家族と一緒に住むために来て、その後、14歳のときにスカウトされて、今に至るという感じです。

――となると、ふたつの国の間で揺れ動く主人公ナンの気持ちは、わかりますか?

森崎 わかります。ただ、僕は日本で産まれたわけではないので、ナンのようにミャンマーに対する抵抗が、そんなにないから、そこは違いますね。実際、日本で産まれたミャンマー人の若い学生の方にもお会いしたことがあるんですけど、そういう子たちのほうが、もっとリアルに感じるんじゃないかな、とは思いました。

――演じたアウンについては、「日本とミャンマーで活躍する歌手」のあたり、もはや森崎さんのお話と思えなくもなかったです。

森崎 確かに、監督が当て書きをしてくださった部分が大きいんです。もちろん自分の人生そのまま、というわけではないんですけど、僕が歩んできた人生の一部が反映されていて。……ミャンマーってすごく面白いところなので、最初は「役名を森崎ウィンでいこう!」と言われて(笑)。「いやいや、それはさすがに……」という話になり役名がつきました(笑)。

――(笑)。森崎さんは、日本語、ビルマ語、英語のすべてを片言ではなく、流暢にお話されますよね。様々なところで活躍できるからこそ、選択肢が広すぎて絞りきれないことはありませんか?

森崎 いやあ……、そういうふうに褒めてくださるインタビュアーさんは、初めてです(笑)、ありがとうございます。絞り切れない思いは、すごくあります。今の正直な気持ちを言えば、もっとハリウッドの作品に出たいという願望があります。僕の夢は、オスカーを狙えるような作品に出ることなので、役者としてやるんだったら、とことん、そこまで行きたいんです。『レディ・プレイヤー1』に出たから、という勘違いから生まれたことではなく、昔から純粋に向こうでやりたいと思っていたんです。

森崎 言うなれば、今、僕は3つ以上の顔を持っているんですね。歌をやっているウィンがいて、ミャンマーで番組の司会をやっているウィンがいて、日本で役者をやり、バラエティで番宣もやっているウィンがいる。全部をずっとやっていけるわけではないので、いずれは何かを選ぶというか、絞っていかなきゃいけないタイミングが来るだろうなと感じています。もうすぐ30歳になるから、そのときまでに見えていればいいなと思っていますね。

――なんなら、もうひとり自分が欲しいくらいですね。

森崎 いつも言っています! マネージャーさんは、「ウィンが3人ぐらい欲しい」って言いますし(笑)。

一同 (笑)。

森崎 じゃないと、「本当にいい作品をどこかで逃すよ!」みたいな。逆に今だけのことかもしれないですし、きっと2年後とかだとまた変わってくるでしょうし。やれることがいっぱいあるのは、すごくありがたいことだと思うんですよね。だからこそ、めちゃくちゃしんどいときもあるんですけど……。

――スケジュールも含め物理的にも大変そうですし、速いスピードでの飲み込みも必要とされるのでは?

森崎 そうなんです。常に、めちゃくちゃ考えています。朝起きて、誰に連絡しなきゃいけないんだろう、これをやんなきゃいけないんだ、これを勉強しなきゃいけない、と。自分では才能があるとは思ったことがなくて、僕にあるのは行動力だと思うんです。アメリカに行ったときに、「アクターの本来の意味は“行動する人”のことだ。俳優であれば行動しなさい」となにかで読んだことがあって、「これだ!」とピンときたので、とことん行動することは意識しています。

――「アクト」の種類で言えば、出演作を並べると、今回の日緬合作『マイ・カントリー マイ・ホーム』、ハリウッド大作『レディ・プレイヤー1』、昨年公開された日本映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』など、まったくタイプが異なります。それぞれのジャンルの面白さの違いを感じているんですか?

森崎 正直、芝居に関しては、僕はまだまだ未熟です。それこそ『母僕』で言ったら、(主演の)太賀を見ると、役者として突出している部分があるから、やっぱり羨ましい。彼自身の生まれ持ったものがあって、努力があって……、ああした素晴らしい役者のひとりに出会うと、勝てない部分は絶対あると思ってしまう。

だけど、最近、逆の捉え方をするようになりました。“役者一本”の方にないものが、もしかしたら僕には出せるのかもしれないな、と。だから、例えば『母僕』でああいうキャラクターで呼ばれたり、『レディ・プレ』で「THE 和」を象徴するような役をやらせていただけたり……いろいろな顔ができるのは、僕だからこそできる部分かなと思うので、日々の生活が反映されているという面白みをすごく感じています。

――今回インタビューが掲載されるFILMAGAは、映画業界や俳優を目指す方にも、よくご覧いただいています。一歩踏み出そうとしている方に、激励をお願いできますか?

森崎 俳優を目指す方にというより、むしろ僕自身に言うことでもあるんですけど……どれだけそれに対して時間を割くかで、全部変わる気がします。僕がこれまで見た、本当に人並み以上にいっている人たちは、24時間そのことばかりを考えているんですよ。どれだけそれに対しての思いを持っているか、時間を割いているかで、結果は絶対返ってくると思います。ある意味、自分を犠牲にしていろいろと費やせるか。諦めないことが、今の僕にも一番必要なことです。

――駆け出しの頃や、なかなか思うようにいかないときは、くすぶったりしませんでしたか?

森崎 もしかしたら、これから目指している方々も、一番最初がたぶんすごい辛いと思うんです。何かを練習したとしても「まだ仕事もないんだから、できないじゃん」、「発揮する場所がないし、何をすればいいの」と思うかもしれないですけど、そのときが一番大事だったりするんですよ。忙しくなったら、インプットできる時間は本当にないので。

――すごく説得力がありますね。

森崎 本当に、今、僕は英語を勉強したいし、殺陣も勉強したいし、ボクシングもやりたいし、向こうのアクティングスクールにも行きたい……やりたいことがいっぱいあるんです。でも時間の関係でできないこともあって、すごくもどかしいんです。もっと準備したいし、もっとインプットしたいので、時間があるときに、どれだけそれに対してインプットしておくか、費やせるかが絶対に勝負です。……と、今の僕は思います(笑)。

――森崎さんが日本に限らず、いろいろな方を見てきて、「こんなにやっているのか」と影響を受けた俳優は誰ですか?

森崎 できる俳優こそ見せないです、みんな。わからない、というか……もう、エグいぐらいなんです。それこそ、『レディ・プレイヤー1』の主演のタイ・シェリダンとか、役者としてヤバいんですよ! 朝は「台詞、覚えていないよ〜」くらいの感じで来るんですけど、現場では一切台本も見ないし、いざ本番でカメラが回ったら長文の台詞も、一発でオッケーで。そんなことが普通にやってくる世界なんです。努力をまったく見せないですし、絶対頑張っているんだろうとわかるんですよね。そういうところだと思います。

――「昨日、何時間やったんだ」みたいなことを言っている人は、まだまだ甘いんですね(笑)。

森崎 言っている時点でアウトですね(笑)。言っている、やった気になっている人ほど言いたくなるので。……あ、でもジムに行き出したときに、「俺、ジム昨日行ったんだ」って、すごく言っちゃってる(笑)。

一同 (笑)。

森崎 言うことで続けるモチベーションを保つことも、すごく大事だと思います(笑)。けど、本当にできる俳優は、絶対に言わないですね。本当にやっている人は。(取材・文=赤山恭子、撮影=林孝典)