1/15ヒューズはルールを破るのが大好きだ。ここでは風景写真の基本を無視して、水平線をちょうど真ん中に配置している。 2/15これは夜の写真ではない。太陽が低い位置にあるため、スポットライトのように氷山を照らしている。 3/15左下の点から出ている糸をたどってみてほしい。この糸は、氷山周辺で吹く風の動きを表している。 4/15ヒューズがこの画像に浮かび上がらせた“幽霊船”が見えるだろうか。今回のシリーズで最初に手がけたものだ。 5/15氷山半分のゴツゴツした部分をクロスステッチでうまく表現している点が、ユニークだ。 6/15糸がプリントにさまざまな影を投げかける様子は、氷山が太陽光の当たり具合によってさまざまな姿を見せることに似ている、とヒューズは語る。 7/15ヒューズにとって、糸はちょうど鉛筆みたいなものだ。違うのは、糸には3次元の触感がある点だろう。「紙から浮かび上がるような感覚を与えてくれます」 8/15ヒューズは“パレット”から、ぴったりの色合いの糸を選んだ。 9/15風景写真は、通常は大きく印刷するものだ。しかしヒューズにとっては、この9x12インチ(約23cm×約30cm)のプリントが刺繍しやすい大きさだ。 10/15放射状の糸は、ヒューズがこの写真を撮影したときに降っていた雨を表している。 11/15実際の糸に加え、幾何学的なかたちが描き込まれていることによって、画像がよりイラストに近くなっている。 12/15このシリーズで、印象派的な要素をもつ作品。ひとつのポイントだけに焦点が絞られている。 13/15カメラのレンズに付けた紫外線フィルターを手袋で拭いたら、うまい具合に崩れた氷山のような写真になった。 14/15糸を通すために開けたすべての穴が使われるわけではない。使わなかった穴は、作品の触感を生み出している。 15/15氷山は、かたちや重さが変わると海に崩れ落ちる。この作品に描かれた放射状の糸は、海面の下にあるものを暗示している。

氷山は、地球温暖化の影響を自然界で最初に受ける。そしてたいていの場合は、地球温暖化がもたらした影響そのものを現しているだろう。そもそも氷山は、溶け出した氷河から分離してできたものだからだ。

「針と糸で表現する地球温暖化の危機:そのフォトグラファーが氷山の写真に「刺しゅう」を施した理由」の写真・リンク付きの記事はこちら

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写真家のエイドリアン・ヒューズは、気候変動を裏づける科学の力を認めてはいる。しかしこうしたデータは、この惑星で温暖化が進みゆく現状に直面したわたしたちの喪失感を伝えきれていないと考えていた。

「危機にひんしている出来事について語るなら、自分ならではの道具を使うことが重要だと思います」と、ヒューズは言う。そして彼女は特別な“道具”を使って、グリーンランドの氷山を記録した一連の作品「Quilted Icebergs」を唯一無二の存在に仕立てている。

写真プリントに針と糸

通常なら風景写真家の道具箱には、キルティング用の針や糸は入っていない。しかしヒューズは、キルティング用の定規を使って、ジオメトリックな放射線や星型、曲面を、9×12インチ(約23cm×約30cm)の写真プリントに刺しゅうする。

こうした刺しゅう作品は、作家ヘンリー・デイヴィッド・ソローの作風に見られるような、自然に対する超越的な理解を表しているのだとヒューズは言う。氷山のある風景を通り抜ける風や音を表現しているのだ。

彼女が選んだ用紙「ハーネミューレ フォトラグ 308gsm」は、その効果を引き立てている。「細心の注意を払って選ぶひと切れの布のようなものと言えます。大きさはキルティングに用いるフープと同じぐらいで、まさにキルティング職人が使うサイズです」と、ヒューズは語る。

刺しゅうの背景となる写真を撮影するため、ヒューズはグリーンランドに20日間滞在し、グリーンランドの東沿岸にあるスコアズビー・スンド・フィヨルドに出かけて行き、そこで1日4〜5時間過ごした。

グリーンランドの氷山を撮影する写真家たちは、8人乗りのゴムボートで氷山に到着すると、大急ぎで撮影を始める。しかし、氷山に囲まれる体験はスピリチュアルで、瞑想しているようだとヒューズは語る。

目に見える風景を超えて伝えるべきもの

もっともその理由としては、乗員が動くたびにボートが上下したため、揺れが収まるのを待たなければならなかった、ということもあるだろう。お気に入りというキヤノンの24mmプライムレンズを、ソニーのデジタル一眼カメラ「α7R II」で使用したため、手動でピントを合わせる必要があった。

どんなに解像度の高いデータであっても、気候変動によって失われていくものの全容を伝えることができないとヒューズは考える。同じように自分の風景写真は、このジャンルの厳密さや表現様式を超越できるものにしたいと願っているのだ。

「写真はときとして、目に見えるものではなく、イメージを写す必要があるでしょう」と、ヒューズは言う。行動を起こさなければ、グリーンランドの壮大な氷山は遠くないうちに、こうした魅力的な写真でしか見られないものになってしまうかもしれない。