コパ・アメリカの初戦・チリ戦に臨んだスターティングメンバー。(C) Getty Images

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 紆余曲折を経て参加に漕ぎ着けたコパ・アメリカ(以下コパ)は、若い日本代表にとっては失うものはない。逆に無名で十分に伸びしろを残す分だけ、ピッチ上で見せる驚きは、スカウトたちの好印象を倍加させる。

 
 サッカーの世界では、下馬評が極端に傾いた試合ほど番狂わせが起こり易い。先の欧州チャンピオンズ・リーグ準決勝が典型で、リバプールはバルセロナを、トットナム・ホットスパーはアヤックスを、ほぼ絶望の淵から逆転してしまった。コパでも日本が初戦で顔を合わせるのは3連覇を狙うチリである。日本が五輪用メンバー中心で臨むのを知り、余裕綽々で事前にスタメンを明らかにしている(※原稿執筆時は試合開始前)。
 
 状況は23年前のアトランタ五輪に似ている。日本が初戦で顔を合わせたのは優勝候補筆頭のブラジルだった。オーバーエイジ(OA)枠も使用し、眩いスターを並べ大会直前には世界選抜を下していた。一方日本はOA枠も使わず、全員が国内でプレーしていた。試合はブラジルがシュートの雨を降らせる展開となったが、GK川口能活が素晴らしいセーブを連発し、全員が身体を張った守備を続けた末に、ワンチャンスを活かして勝利を飾った。後に日本陣営の綿密なスカウティングに対し、ブラジルの準備不足が露呈した。
 
 コパのチリ戦も、実績や選手個々の知名度、チームの完成度など机上の比較では、日本の劣勢が否めない。しかし力関係を考えれば、23年前のブラジル戦よりはチャンスがある。格上のチリの選手個々の中で、ほんの少しずつでも焦れる気持ちが芽生えれば、日本側の「やれるかもしれない」という自信と相まって、メンタル状況の落差は縮まり、時には逆転していく。そういう意味では、その後のウルグアイ、エクアドル戦以上に、番狂わせの匂いがする。
 
 また開花前の日本の選手たちには、大きなモチベーションがある。もちろん長期的にはフル代表を目指した成長だが、東京五輪が間近に迫って来ている。母国の晴れ舞台に向け、既にトゥーロン国際(U-22)では準優勝、U-20ワールドカップでも大会直前に主力3人が抜け、故障者を出しながらも準優勝した韓国と互角の攻防を見せた。コパに招集された選手たちは五輪代表争いで一歩リードしているはずだが、だからこそ用意されたハードルが高い。
 
 水泳やレスリングなど他競技では、国内で勝った後に、世界選手権での成績を条件に、今年代表を決めてしまうことが出来るが、サッカーも世界基準のコパで好プレーを見せられれば一気に五輪が近づく。つまりコパは他競技の世界選手権と同等の意味を含んでいる。逆にフルと五輪両代表の監督を兼任し「東京五輪では金メダルを目指す」と公言している森保一監督は、OAの必要性の精査など重要な材料を収集できるに違いない。
 
 指揮官の手腕が問われるのは、敵地開催、しかも格上の難敵揃いの状況を、選手たちにどこまでポジティブに捉えさせるかだが、この点については、圧倒的に不利な条件で臨んだアジア大会(決勝進出)などで立証済みだ。確かにほぼ初顔合わせで練習時間が短く経験値が不足したチームは、素の力で勝負するしかない。おそらく監督以下スタッフもフォーメーションも含め試行錯誤の連続になる。ただしこれだけ悪条件が重なる状況で戦えれば、地元開催の東京五輪へ向けて大きな財産になる。
 
 見方を変えれば、それは海外移籍への挑戦にも似ている。初対面で場合によっては言葉もまったく通じない仲間の前で、自分が何者なのかを証明する。そこで信頼されて初めてパスが来て、出場機会を得る。コパは久保建英に限らず、多くのメンバーにとって格好のチャレンジやレッスンの場になるはずである。
 
文●加部 究(スポーツライター)