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もくじ

ー 傑作の多い1966年
ー ピニンファリーナのデザイン
ー あらゆる要素を見直し
ー よりモダンに見える124
ー サウンドが魅力のアルファ
ー いずれも運転が楽しめる
ー 車両選びの注意点
ー レストア費用は高額に
ー 華やかな124 サウンドのアルファ

傑作の多い1966年

1966年は、高性能イタリア車の信奉者にとってエキサイティングな年になった。この年、ランボルギーニは息を呑むほど美しく画期的なミウラで席巻したが、2016年にその誕生半世紀を祝うのは、このトラクターメーカーの傑作だけではない。ライバルのフェラーリは、クワッドカムの275GTBと330GTC、さらに365カリフォルニアを発表した。

さらに、斬新なフェラーリ365トレ・ポスティがパリでデビューすると、11月にはトリノショーでマセラティ・ギブリが披露される。こうしたエキゾティックカーは、いかにも自動車ショーにはおあつらえ向きだが、所詮は窓粉りと大差ない存在だ。それは富裕層にしか買えない夢のクルマだからである。つまり、1966年の真のヒーローは、つましい出自のモデルなのだ。

46年間に合計32万台が生産されたアルファ・ロメオの105シリーズスパイダーとライバル車フィアット124スパイダーは、クラシックなイタリアンスポーツカーの縮図である。いずれも、元気なツインカム4気筒、5速トランスミッション、繊細なハンドリング、そしてピニンファリーナが手掛けたスタイリングを備える。

この可愛いらしいソフトトップは、MGBが英国車を代表するように、イタリアの自動車産業の金字塔だ。またいずれも、モダンで先進的デザインだった当時から、現在の国宝扱いに至るまで長いキャリアを重ねてきた。したがって、今日でも玉不足に悩まされる心配はない。

ピニンファリーナのデザイン

英国ではアルファ・ロメオの方がはるかに良く知られている。1962年に導入された105シリーズ・ジュリアをベースにするアルファ・スパイダーだが、ジュリアスパイダーの後継モデルとして登場したのは1966年のジュネーブサロンだった。

旧型のスタイリングから大きく変化したシルエットは、ピニンファリーナのスーパーフロー・コンセプトのテーマを踏襲している。1956年に初登場したこのシリーズは、オープン2シーターモデルも展開。そのボディは、彫りの深いサイドから先細りになったテールに至るその後のスパイダーの系譜を暗示するものだった。

この時期は、アルファのショーカーにとって恵まれた時代であり、1961年に発表されたジュリエッタSSピニンファリーナ・スパイダーは、これからのスポーツカーがどうなっていくかを強く予感させた。

しかし、最初のオッソ・ディ・セピア(イタリア人がスパイダーにつけた愛称である「イカ」)がピニンファリーナのグルリアスコ工場の組立ラインから送り出されるまで、さらに5年を要する。バッティスタ・ファリーナが参加した最後のプロジェクトだけに、偉大な男の才能にふさわしい作り込みが進められたのだ。

あらゆる要素を見直し

最初に登場した派生モデルのデュエットは、今日最も人気が高い車種である。しかし1970年には、クラシックスパイダーのベストセラーであり最長のロングセラーモデル、シリーズ2に置き換えられる。

正面から見た姿は概ね似ているが、一番の違いはカム式のテール、ワイドなバンパー、そして大型のライトだ。スパイダーの女性らしい繊細さが一部失われたかもしれないが、先進的な1970年代にあって比較的モダンで、ラゲッジスペースも拡大している。筆者にとって、これこそがアルファ・スパイダーの決定版だ。

インテリアではデュエットでは金属だった部分がプラスティックに置き換えられてしまった。しかし車内を眺めると、デザイナーがあらゆる要素を徹底的に見直したことに気づく。ドライバーの方を向いた補助ゲージ、大きなフード付きの速度計とタコメーター、それに窪んだホイールまで、バロック様式に近いムードだ。ペダルのゴムの珍しい円形パターンでさえ美しいオブジェに見えてくる。

124スパイダーは、こうした美しさにもかかわらず、申し訳ないほど控えめに扱われてきた。決して優美さや魅力に欠けていたわけではない。ピニンファリーナによってデザイン、製作されたスタイリングは、建築家から自動車デザイナーに転じた米国人トム・トジャアーの作品であった。

よりモダンに見える124

その最後のバージョン、スパイダーヨーロッパは、1983年からはフィアットのエンブレムの代わりにピニンファリーナのバッジを付けてさえいる。アルファと同様、124のアウトラインは、過去の特別なショーカーから引き継がれているのだ。

しかしながら、フィアットのコンセプトカーのボディは、当初は驚くべきことにシボレーのシャシーに載せて公開されたのだ。フィアットの役員たちは、トジャアーによるコルベットベースのロンディーヌ・クーペをパリで目にし、1500カブリオレの代替モデルとして計画中のスポーツ2+2シーターのリメイクを要請する。

124セダンのカットダウンプラットフォームをベースに、1966年11月にトリノサロンで公開された新たなスパイダーは、その後19年ものキャリアを築くのであった。

今日の目でモダンに見えるのはフィアットの方だ。シャープで彫りの深いラインのおかげで確かに1960年代末のクルマに見える。月並みなプロフィールだから、風変わりなアルファほど見分けやすくはないが、見事で滑らかな工業デザインと言える。クルマの周りを一周すると、一見単純なスタイリングは一貫性があり、細部の豪華な仕立てが気持ちを高ぶらせる。

自動車史に残る美しいフード、指で触れたくなるウエストライン(やはりトジャアーによる)、フェラーリ365カリフォルニアを連想させるリアウイング、それにオープントップで走る時の姿はいかにもそれらしく、驚くほど軽やかだ。

サウンドが魅力のアルファ

キャビンも同様のテーマを踏襲している。ミニマリズムと言えるほどフラットな印象の車内は、装飾主義のアルファとは異なる上品で洗練された趣がある。メーターに描かれたイタリア語のスクリプト(Benzine、Acqua、Olio)、長目のクロームメッキのシフトレバー、そして浅い角度のステアリングが興奮をさらに高めている。

フィアットは明らかに大衆市場向けであるが、自らが高貴な出であることを上手に訴えている。このクルマであれば、フェラーリ275GTSを運転する自分を心に描くのにそれほど想像力を必要としない。少なくとも、エンジンを始動するまでは。

アウレリオ・ランプレディのツインカム4は、ベルトドライブのバルブギアを搭載した世界初の量産エンジンだ。試乗車のようにキャブレター搭載の1756cc仕様が、ちょうど良い性能だろう。ただ、このクルマは機敏で意欲的だが、アルファのように聴覚的なスリルを味わうことはできない。

フィアットから出るノイズも十分に心地良いのだが、アルファのツインカムの方が心のこもった歌を歌う。中毒性のある素晴らしい歌いっぷりは、アルファ・スパイダーの最大の美点であり、量産車とは思えないほどドライバーを虜にしてしまう。

いずれも運転が楽しめる

その点こそアルファ・ロメオを読み解くキーポイントなのかもしれない。このアルファに在り来たりな点はほとんどないのだ。フロアヒンジ式のペダル、不思議な角度で突き出る長いシフトレバー、ステアリングの可憐なホーンと、このスパイダーはどこまでも特別なのだ。ゴム製のフロアマットは実用的に見えるが、アルファは明白な矛盾をスタイリッシュな自信で取り繕うことができる。イタリア人の絶妙なセンスの好例がこのモデルなのだ。

フィアットよりもミッションが滑らかなだけでなく、走りも見事だ。筆者の感覚では、フィアットにあるスポーツ性が少し欠けるが、ブレーキの効きは良い(いずれのクルマも四輪ディスクブレーキ)。アルファは車内が狭いものの着座位置が高いため、本格的に走るとフィアットよりロールと慣性を感じる。

今回のアルファは極めて程度が良く、オリジナルであるうえ、未レストアの走行距離4万1000マイル(6万6000km)という個体だ。最近リビルドした124のようにきびきびと走ることを期待するのは不公平であろう。それでも2台を比較すると、ハンドリングの点ではフィアットに軍配が上がる。純粋な性能面でわずかに劣っているというのが一般的な評価だ。いずれも運転が楽しいクルマであるが、所有する分にはどうだろうか。

「わたしならS2の方です」と、クラシック・アルファ社のリチャード・ノリスは説明する。「現在の相場であれば、S2は本当に良い買い物です。スタイリッシュですし、スピードも出ますから。左ハンドルが気にならなければ、右ハンドルより20%安い点もオススメです。デュエットなら4万5000ポンド(580万円)するところが、右ハンドルなら上玉でも2万ポンド(260万円)で見つかります。しかも、2000エンジンはトルクがあり、バンパーがラウンドテール仕様のものより安全性能が高いです」

車両選びの注意点

DTRスポーツカーズ社のポール・デ・トゥリスは、反対にフィアットに熱心だ。「124でも1974年以前のクロームバンパーモデルが最も純粋で、軽量なうえ断然美しいです」と彼は語る。

「それ以降のクルマでも、改造して同じようにはできますが想像するほど簡単ではありません。ベストチョイスは(欧州仕様に装着された)ツインウェーバー搭載1608ccエンジンのBS、またはアバルトと基本的に同じエンジンとなる1756cc CSです。オイル交換を定期的に行えば決して故障しません」

「ただ、車両を選ぶ時には美しい外観やエンジンの調子だけに目を取られてはなりません。ボディのレストアは高くつきます」とデ・テゥリス。「例えば124のリアアーチは、単純な交換ができません。アウターが錆びていた場合は、インナーも錆びているので両方交換する必要があり、片側につき20時間は掛かります」

「リビルドには通常、約7〜800時間要しますが、これは良好な個体の目安です。リビルドの費用はどのスパイダーでも変わりませんが、クロームバンパー車両は同条件のモデルの倍は掛かります。1974年以前のモデルの場合、通常走行できるもので1万〜1万5000ポンド(130〜200万円)、万全を期すなら3〜4万ポンド(400〜530万円)用意することをお勧めします」

レストア費用は高額に

「正しくコンバートされている右ハンドル車であれば、左ハンドル同様に運転が楽しいと思います。英国にある2〜300台中およそ50〜70台がコンバートされており、40〜50台をわたし達が手掛けました。ただ、コンバートが粗悪な作業の場合、フロントウインドウとステアリングコラムの下を補強していない可能性があります。また、クルマというものが左右対称ではない点も留意して下さい。1973年以降のモデルでは反対側のフロアがわずかに高いため、身長が1.8m以上の場合、座面が高すぎて窮屈に感じます」

加えて痛みやすいボディにも注意が必要だ。「皆さんが見つけられる最も程度の良いレストア車を購入しましょう」とノリス。「作業の写真が残っていて、定評のあるショップが手掛けたことを確認して下さい。レストアプロジェクト中のクルマを購入した場合、容易に車両価格以上の費用がレストアに掛かります」

「ボディワークに少なくとも2万5000ポンド(324万円)、エンジンやサスペンションをリビルドするのにさらに1万ポンド(130万円)です。スパイダーにとっての最大の敵が、腐食と過去に行った質の悪い改装です。S2では、過去5年以内にフロントサスペンションに一切費用を掛けていないなら、オーバーホール代も見込むべきでしょう。クルマが見違えるようになりますから」

「S2のメンテナンス性が良いのは朗報でしょう。年間5000マイル(8000km)走り、何も問題なければ、300ポンド(4万円)で1年間の維持費をまかなえるはずです。程度の良いクルマを5年所有した場合、合計で4000ポンド(53万円)掛かるか疑問なくらいです」

華やかな124 サウンドのアルファ

いずれの提案も魅力的に聞こえる。「オーナーは自分の124を気に入っていて、エキゾチックなモデルがあっても引き換えに売却しないのです」これは、どちらのオーナーにも共通してあてはまる感情だと思う。

このふたつのモデルがこれほど魅力的であるにもかかわらず、気性の激しいサラブレッドを買うために高い金額を支払う必要があるのだろうか? フィアット陣営にいようが、アルファ陣営にいようが、いずれも無理なく楽しめ、素晴らしい魅力を備えているのだから。

皆さんなら、どちらを乗って帰るだろうか? 審美的にはフィアットだろう。124は華やかでありながら控えめで、さらに英国で正式導入されたことがないので希少性もある。道を行き交う人々がこのクルマの正体を突き止めるのに苦労するだろう。

2台の差は紙一重であり、どちらかを選ぶのは並大抵のことではない。ただし、フィアットがアルファに敵わない点が少なくともひとつある。ミラノのスパイダーのサウンドは全く魅力的で、アルファに懐疑的な人々の心の琴線にさえ触れる。筆者はどちらのクルマでも不満はないが、フィアットのエンジンベイの中にアルファのツインカムが入れば完璧なハイブリッドカーが誕生すると思う。