福田正博 フットボール原論

■6月9日のエルサルバドル戦で日本代表デビュー後、レアル・マドリードへの移籍が決まった久保建英。18歳の新星はこれからどれだけ伸びていくのか。その特長はどこにあるのか。元日本代表の福田正博氏が分析した。

 新しいスターの誕生。初めて日本代表ジャージに袖を通した久保建英は、それくらい輝きを放っていた。


レアル・マドリードへの移籍が決まった久保建英

 久保はキリンチャレンジカップのエルサルバドル戦で日本代表デビューを果たしたが、試合前、森保一監督は久保の起用について慎重な回答をしていたため、久保に与えられるプレー時間は長くて10分程度と予想していた。しかし、実際にはその2倍ほどの時間が与えられ、『18歳の現在の久保』が持っているテクニックとスピード、そして判断力をすべて発揮してくれた。

 久保は後半22分に南野拓実に代わって4−2−3−1のトップ下に入ると、後半28分過ぎには早速、才能の片鱗を見せた。右サイドを大迫勇也とのワンツーから抜け出すと、対応にきた相手DF2人の間をドリブルで割って入ってペナルティーエリアに進入し、左足でシュート。これはGKに阻まれたものの、その後もチームの起点となって存在感を存分に見せてくれた。

 彼の技術はもちろん、状況に応じて正しく判断する能力としてのスキルについても申し分ないことは誰しもがわかっていた。久保は「普段どおりのプレーができた」と言っていたが、代表デビュー戦の18歳があれだけ注目されていた中で、気負いなく普段どおりのプレーを見せてくれた。

 久保を見ながら感じたのは、圧倒的に技術を高め、それに裏打ちされた判断能力を持つ選手は、メンタル面もきちんと整理されているということ。試合で結果の出せなかった選手が「メンタルが足りなかった……」と反省するケースは多い。しかし、メンタルの課題を口にする選手に本当に足りていないのは、練習であり、技術であり、それを活かすためのスキルだとあらためて思わされた。

 久保がスタジアムにいる人たちの期待を上回るプレーを見せることができたのは、彼には、「判断のともなう技術」があるから。顕著だったのは冒頭で紹介したドリブルでDF2人を置き去りにしたシーン。久保は顔を上げて首を振って周囲の状況を確認しながらプレーをしていたからこそ、スペースを見つけられたのだ。

 このシーンに限らず、久保は常にピッチ上の多くの情報を持っている。だから、相手選手とぶつかってスタックするプレーがないし、見ている側にもストレスを感じさせない。つまり、「そこはパスだろ!」「ボールを持ちすぎだ!」と不満に思うシーンがない。フィジカル面でまだまだ成長途上なので、相手との接触によってケガをするリスクもあるが、久保は試合中に収集している情報量が多く、スキルも高いため、そうした状況を回避できるはずだ。それも彼の才能と言える。

 判断の正確なプレーをサッカー界では「賢いプレー」とシンプルに表現してしまうが、実はこれが最も難しいことでもある。久保はスピードやパワー、テクニックに頼るだけではなく、たとえば相手がプレスをかけてきたらワンタッチでパスをする、あるいはフェイントでかわしたりと、状況に応じて相手の裏をかくプレーができる。それは、一段上の判断力を持っているからだ。

 だからこそ、途中出場だったにもかかわらず、久保にあれほど多くボールが集まってきた。代表のチームメイトは、久保やスタンドのファンの期待に気を遣ったわけではない。久保はボールを持っていないときでも、味方の選手がパスを出しやすい場所を見つけて移動し、体の向きをつくる。そして、味方が顔を上げた瞬間に動き出す。こうした動きがタイミングよくできるから、味方は久保にパスを出しやすいのだ。

 久保はピッチ外から見ていても違いがわかるほどの高い能力を示してくれたが、ピッチで一緒にプレーした選手たちは彼の力をもっと実感したはずだ。

 久保はワントップに大迫勇也、右に堂安律、左に中島翔哉のいる状況でトップ下をつとめたが、堂安には明らかに気負いが見て取れた。堂安にしてみれば、これまで日本代表では自分が一番年下で注目されてきたが、18歳の久保が代表入りしたことで耳目は久保に集まり、しかも、同じ左利きで右サイドでもプレーできる久保をライバルとして意識した部分は大きいだろう。

 中島翔哉にしても、いつもどおりとは行かなかったはずだ。中島はエルサルバドル戦で久保と同じタイミングでピッチに送り出されたが、より大きな歓声は久保に向けられていた。そうした状況にあって、普段どおりのプレーとはいかなかったように映った。

 一方、大迫勇也としては、自分の持ち味を生かしてくれる頼もしい味方が増えたと感じているのではないだろうか。大迫はポストプレーでボールをキープし、味方に時間とスペースを与える間に動き直してゴール前に入り込んでシュートを狙うタイプだ。久保はラストパスを出して味方を生かすこともできるため、大迫はプレーしやすいはずだ。

 久保は4−2−3−1のトップ下でも、右サイドでもプレーできるし、3−4−2−1でも2シャドーとして出場可能だ。狭い局面でボールを受ける能力が抜群に高く、クイックネスにゴールへ向かう姿勢も強い。なによりボールを受けるためのポジション取りを、状況に応じて変えられることがすばらしい。

 そうしたなかで、久保がこれから日本代表の主力へと成長していくには、所属クラブでどういった成長を遂げるかにかかっている。

 久保はレアル・マドリードへの移籍が決定したが、当面はBチームのカスティージャで出場経験を積んでいくことになるのだろう。さらに大きく飛躍していくために、厳しい環境でサッカーに専念できる環境を選んだことを応援したい。

 一方で懸念材料はある。彼が日本代表に戻ってきた時の期待感がさらに大きくなってしまうことだ。今回のテストマッチでさえカメラの放列がベンチに座る久保に向かったことを考えれば、「レアル・マドリード所属」で注目度はさらに上がっていくはずだ。

 久保にとって最良なことは、森保監督が日本代表と東京五輪代表を兼務していることだ。彼ほどチームすべての選手の将来や立場を考えながら、最適な扱いのできる監督はいない。森保監督はサッカーが11人でやるチームスポーツだからこそ、そのマネジメントの重要性を理解している。

 6月18日のチリ戦から始まるコパ・アメリカは、フィジカルコンタクトがこれまで以上に厳しくなり、タフな展開になればケガのリスクも高まる。ただ、そうしたことも含めて森保監督はきっちりマネジメントができるはず。久保が、東京五輪を狙う選手たちとともに、どう戦うのか楽しみだ。そして、今回のコパ・アメリカから、日本サッカーは久保建英の時代の始まりを迎えるのではないだろうか。