社会人になり何年か経つと、学生時代みたいに「人を好きになる」ことって少なくなりませんか?

昔は「◯◯くんが好き!」とピュアな思いでバレンタインチョコをせっせと作っていたのに、今や上司や友だちから「最近、いい人いないの?」と言われても、笑ってごまかす日々。

そんなとき、Twitterでこんな人を見かけました。



親友と、恋愛せずに交際している…?

どうやらこのAYAさんという方、「お付き合いに“恋愛”は不要!」という価値観を得たのだとか。

これは、「人を好きになる」を忘れかけたR25世代にとって、何かヒントになるのでは…?

〈聞き手=いしかわゆき〉


【AYA】1992年、東京都渋谷区生まれ。ゲーム業界・TV業界・HR業界を経て、2018年、株式会社アラン・プロダクツに「ダイバーシティ事業」の立ち上げメンバーとしてジョイン。ジェンダーやセクシュアリティに関するアプリケーション、メディアをつくっている。

いしかわ:
「恋をしないでお付き合いしている」ってハテナだらけですが…本日はよろしくお願いします!

AYAさん:
まぁ、普通そうなりますよね(笑)。


超ドライかと思いきや、なんともチャーミングな方!

「恋をしなければいけない」という思い込み

AYAさん:
まず、いしかわさんが思う「恋」って何ですか?

いしかわ:
えーっと、姿を見るだけでドキドキしたり、胸がキュンとしたり…

AYAさん:
それは少女漫画の読みすぎですね。


バッサリ

AYAさん:
「最初にドキッとして、3回デートをして、それでも告白されない! モジモジ!」みたいなのって、ただの刷り込みなんです。

そもそも必ず「恋」をしないと、「愛」に行けないってこと自体、思い込みかも。

いしかわ:
え? 「恋」が育って「愛」になっていくんじゃないんですか…?

AYAさん:
「恋」と「愛」ってセットにされがちですけど、私は真逆くらいに違うんじゃないかなあと思うようになって。そんなに関連性はないと思います。

いしかわ:
関連性はない?

AYAさん:
「恋」というのは、「自分だけを見てほしい」「自分を愛してほしい」という独りよがりの感情に近い気がしませんか? 相手よりも「自分」がどうなりたいかが大事。

一方で「愛」とは、「その人らしく生きてほしい」とか、「もし自分が隣にいなくても笑っていてほしい」というような、相手の幸せを心から願う感情だと思うんです。

そう思うと「恋」と「愛」って真逆じゃん、って気づいたんですよね(笑)。ていうかむしろ「恋」から始まったふたりが「恋」をしたまま「結婚」すると、破綻しちゃうんじゃないかと。

いしかわ:
破綻!? どうしてですか?

AYAさん:
なんか「恋」をしているときって、脳に「バグ」が起きている状態みたいなものかな、と思ってるんですよね。


恋=脳バグ

AYAさん:
仲間とか親友なら、相手のことを尊重できるはずなのに、そこに「恋」が入ると急におかしくなっちゃうことってないですか?

たとえば、「好きだから」という理由で、相手に理不尽なことをされても許してしまったり、「彼氏なんだから、こうしてほしい」みたいな要望がめちゃくちゃ出てきたり…

いしかわ:
たしかに…

AYAさん:
そうやって考えると、結婚は家族という「チーム」を組むことなのに、相手となんか方向性が違くても「好きだから」でなんとなく誤魔化してしまうのって、ちょっと危険だと思いませんか?

いしかわ:
ああ…ちょっとわかるような気が…

AYAさん:
私はこのことに気づいてから、パートナーシップに「恋」は不要と思うようになり、「恋」を捨てちゃいました。


AYAさんも、かつては恋愛をしていたそう

恋愛感情を持たない人「アロマンティック」

いしかわ:
とはいえ、「恋」を捨てろと言われても…。AYAさんはどのようにして「恋」を捨てたんですか?

AYAさん:
私はもともと恋愛感情を持っていたんですけど、今お付き合いしている人がアロマンティックで…

いしかわ:
アロマンティック…?

AYAさん:
「恋愛」に「恋」「愛」「性」という要素があるとしたら、「恋」を持たない人のことです。

「恋」って相手の言動に一喜一憂したり、ドキドキして振り回されたり、そういう感情かなと思うのですが、我々の関係性においては、この「恋」にもとづく要素が初めから、ほぼ皆無に近い。



AYAさん:
そんな相手と出会って、私も「恋」について考えるようになりました。

それで交際するときに「好きです」というのではなく、「付き合うこと」を言語化するところから始めました。

「どういう理念のもとに生きているのか」とか、「交際にどんなものを求めているのか」とか、「どんなことを大切にして、やっていきたい人なのか」とか。

いしかわ:
就活みたい(笑)。

AYAさん:
ちょっとドライに聞こえるかもしれないけど、そうだと思います(笑)。

ミスマッチが起きてしまわないように、企業と個人がベースとなる価値観をすりあわせるのと一緒です。

そのうえで、「なるべく一緒に時間を過ごしたいけど、仕事が忙しいから活動範囲が近いほうがいいなあ」とか、「健康で生きているか気になるから毎日一回は連絡がほしいなあ」とか細かいところを話しあう…

いしかわ:
就活でいう「条件面」ですね!

AYAさん:
そうです。価値観と条件のすりあわせをやっているカップルってほとんどいませんが、付き合う前に絶対やったほうがいいと思いますね!

だって、「付き合う」って、心から信頼できる人と出会いたい人もいれば、「付き合う」こと自体に価値を見出している人もいるじゃないですか。そこへの思いがズレていたら、悲劇だと思うんです。

車を買ってドライブしたい人と、車を手に入れたいだけの人にミスマッチが起きるのと一緒。


惨劇です

「恋」を捨てることで得られるメリットがある

AYAさん:
私は「恋」というのもすごく素敵なものだと思うのですが、「恋」を捨てることにはメリットがあって、「好きな人に傲慢になってしまう」ことが減るんですよ。

いしかわ:
傲慢…

AYAさん:
企業と個人の価値観がマッチして就職したとしても、人生のフェーズが変わって転職することってあるじゃないですか。それと同じで、人と人の関係性だって確かなものではありません。

それなのに、脳にバグが出ている状態だと「この恋は永遠」なんて思っちゃって、「いつまでも自分の側にいてくれる」という傲慢な思いが加速しちゃうんですよ。

かく言う私も、付き合ったばかりの人に「永遠にそばにいたい」なんて言っちゃったこともありました。寒いですよね。



いしかわ:
なるほど。恋が傲慢さを生み出す…と。

AYAさん:
「恋」のステップを踏まなければ、そういう傲慢な態度を減らせると思っています。「私を一番にしてよ!」と思うこともなく、フラットな関係ですから、続けていくための努力も、お互いが当たり前のようにできるんです。

私は今のパートナーとは、「更新日」と称して、月に1回、相手への要望や改善点などを話し合っています。まあ一般的にいう「記念日」ですね。

「普通の恋」に迎合しなくても良いことに気づく

いしかわ:
「恋」を捨てるメリットはわかりました。

でも、女友だちとかに会うと、「○カ月恋人いないなんてヤバイよ!」「そろそろ結婚も考えないと!」みたいな話になりがちなんですよね…

AYAさん:
夫婦になるときのメジャールートがたまたま「恋をする」スタートなだけで、他にもルートはたくさんあるというマインドセットでいたら、気にならなくなりますよ。

仕事仲間で人間的に尊敬できる人とプライベートでもチームを組みたいと思えるように、「恋」がなくても「愛」に昇華できる関係性はいくらでもあります。

いしかわ:
たしかに…

でも、「最近いい人いないの?」って聞かれて、言い淀んでると「もったいない」なんて言われちゃうんですよね…

AYAさん:
私からすれば「そのメジャーなルートしか知らないあんたがもったいない」って言いたいですけどね。


カ、カッコいい〜!

AYAさん:
親友とか、家族とか、「恋」以外にもすばらしいリレーションシップっていっぱいあるじゃないですか。

それなのに「恋」が第1プライオリティーに来てるのがキモいな、と思いますね。「思考停止」しています。

いしかわ:
お、おっしゃる通りです…!

AYAさん:
まあ、でもなかなか伝わりませんよね。

そういうときは「恋」とか「幸せ」を自分で定義しなおすといいかもしれません。

最初に聞いたように「恋ってなんですか?」ときいたら、全員違うことをいうと思うんですよ。だれかが「こうあるべき」と決められるものじゃないんです。

いしかわ:
定義は決まってないのか…そうかもしれません。

AYAさん:
「幸せ」もそう。「行き遅れだ」とか「かわいそうだ」と思われるのがイヤだからって、無理やり自分を納得させて付き合ったり、結婚したりする人っていますけど。

「まわりに幸せだと思われていないと、幸せを感じられない人」は、そこから解き放たれてほしいんです。

自分の幸せを、人に定義させない。



AYAさん:
でも、いくら他人に定義させないといっても、まわりに定義してくる人がいると「こうあるべき」と刷り込まれてしまいます。

「恋」しなくちゃいけないわけでもないし、付き合う相手が異性じゃなくちゃいけないわけでもないし、男に生まれたからって男らしくしなくちゃいけないわけでもない。無意識にそういう「べき」を押し付けてくる環境ってあるんですよね。

そういうときは、思いきって環境を変えてしまうのがいいです。

私も人間関係をめっちゃ変えて、今は「恋をしていない。だから何?」みたいな人しかまわりにいませんもん。

いしかわ:
ああ…たしかにそんな環境にいたら、そもそも悩まずに済むのかもしれない…!

AYAさん:
そう、世界は広いんです。私もマイノリティ側にいるので、凹むことも、悲しいこともたくさんありますけど、環境を変えることでだいぶ楽になりました。

苦しくなるくらいなら「女子会に付き合う自分」を諦めてもいいのかな、と思います。

いつか、自分のなかの「恋」の定義が整って、話せるようになったら、逆にこんな愛の形もあるんだよ、と「教えてあげる人」として女子会に行けばいいんですよ。

そうやって、世の中の「普通」に迎合しなくていい、ということに気付けたら、もっと自由に生きられるようになりますよ。



パートナーとの関係について、「私たちは親友でもあるんです。そこにたまたま“交際”という形が当てはまっただけなんですよ」と笑って話してくれたAYAさん。

「恋」というのは自分で定義していくもの。

少女漫画のように、幼いころから思い描いていた「恋」とは少し違っても、自分なりの形を見つけてうまく付き合っていきたいな、と思いました。それにとやかく言われたら、こう返そうと思います。

「メジャーなルートしか知らないあんたがもったいない!」

〈取材・文=いしかわゆき(@milkprincess17)/編集=於ありさ(@okiarichan27)/撮影=福田啄也(@fkd1111)〉

Palette編集長AYA(@ayapalette__)さん | Twitter
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