混雑率ワースト3位の横須賀線。車内だけでなく武蔵小杉駅ホームの混雑も激しい(写真:HAYABUSA/PIXTA)

朝ラッシュ時のJR武蔵小杉駅3・4番線ホームは、都心に向かう利用者であふれている。4番線の上り列車を待つ行列の一番後ろは3番線の黄色い線まで達している。やがて4番線に15両編成の湘南新宿ラインが滑り込むと、細長いホームに立つ大勢の客が次々と列車に吸い込まれる。

続いて4番線にやってきたのは、11両編成の横須賀線。1編成当たりの車両数が少ないせいか、それぞれのドアから湘南新宿ラインよりもさらに多くの客が乗り込もうとしている。車内に入れずドアにしがみついている客のすき間を縫って車内に割って入る客もいるが、乗車をあきらめる客も少なくない。

武蔵小杉駅で列車に乗ってからも大変だ。2017年度における横須賀線・武蔵小杉―西大井間の混雑率は196%。首都圏ワースト3位である。

急速に発展した武蔵小杉

住みたい街ランキングで上位にランクインする武蔵小杉。しかしその人気ゆえに、通勤時の問題点は少なくない。

武蔵小杉駅がある川崎市中原区の人口は26万1296人(6月1日時点)。1999年の人口は19万5865人だったので、20年で6万人以上増えたことになる。その理由の一つが武蔵小杉の発展であることは、駅周辺に林立するタワーマンションを見れば一目瞭然だ。

当然ながら鉄道利用者も増えた。東急・武蔵小杉駅の1日平均乗車人員は1999年度の7万9281人から2017年度には11万2325人へと約4割増となった。そして、JR武蔵小杉駅の1日平均乗車人員は同期間内に6万4165人から12万9637人へと2倍以上に増えた。今や武蔵小杉の乗車人員は目黒、錦糸町、神田といったJRの都心の主要駅を上回る。

JR武蔵小杉駅の乗車人員の伸びが東急を大きく上回る理由の一つは、2010年に横須賀線と湘南新宿ラインの停車駅となったことだ。川崎市が建設費を負担することでJR東日本に「新駅」の設置を求め、2005年に合意に至った。

横須賀線を使えば、武蔵小杉―東京間の所要時間は17分。それまで同区間の移動は南武線・川崎駅経由で30分近くかかっていた。また、湘南新宿ラインの開業で新宿との間が乗り換えなしで結ばれた点も大きい。


横須賀線の武蔵小杉駅は2010年開業。手前を東海道新幹線が通っている(記者撮影)

2005年当時のJR武蔵小杉駅に1日平均乗車人員は7万0685人。開業後に1日平均乗車人員は3割程度増え、9万人程度になると見込まれていた。しかし、現在のJR武蔵小杉駅の利用者数は当時の想定を大きく上回ってしまった。

以前は朝ラッシュ時には駅構内に入るのにも行列ができ、JR東日本は混雑解消に向け2018年に「新南改札」の近くに臨時改札とホームに向かうエスカレーターを設置し、入場時の混雑に手を打った。さらに改札口を増やす計画もある。

駅に入る前の混雑はかなり改善され、続いてJR東日本は3・4番線ホームの混雑解消に着手した。現在は1つのホームの両側に上り線と下り線があるが、もう1つホームを造り、現在のホームは上り専用、新たなホームは下り専用とする。完成すればホームの数が2倍になるので、ホーム上の混雑は解消されるはずだ。JR東日本は2023年度の供用開始を目指している。

本数の少ない横須賀線

だが、もうひとつ問題がある。朝ラッシュ時、東京方面に向かう横須賀線の本数が7時台に10本、8時台に8本と少ないことだ。平均すると6〜7分に1本の割合となる。2010年当時よりも本数は増えているが、2〜3分間隔で走る山手線はもちろんのこと、同じく武蔵小杉駅に乗り入れている南武線や東急東横線と比べても少ないと言わざるを得ない。この少ない列車に多くの通勤客が詰めかける。

神奈川県と県内の市町村などでつくる「神奈川県鉄道輸送力増強促進会議」は以前から通勤・通学時間帯の横須賀線増発を求めており、2018年度も同様の要望を提出した。これに対しJR東日本は7時台に大船始発の普通電車を1本増発すると回答。2019年3月のダイヤ改正で、従来は大船発だった7時台の成田エクスプレス1本を東京始発に変更し、空いたダイヤを使って普通を1本増やした。

現在、7〜8時台の武蔵小杉駅上り線には横須賀線の列車に加えて湘南新宿ラインが10本、成田エクスプレスが2本発着する。これらを合わせると2時間に30本。平均すると4分間隔で列車がやってくる計算になるが、中央線快速は朝ラッシュ時に1時間あたり30本を運転している。横須賀線も、もっと本数を増やせそうにも思える。

だが、JR東日本によると「横須賀線の本数増は難しい」。その理由は「長い編成の貨物列車が走るため、信号の間隔が他路線よりも長い」からだという。

鉄道の信号システムは、前方の列車との衝突を防ぐため線路を一定区間に区切り、1つの区間に同時に2つの列車を入れないという考え方に基づいている。このため、区間の間隔が短ければその分だけ列車の本数を増やすことができる。長い編成の列車が走る区間では、信号の間隔を短縮することが難しい。そう考えると、横須賀線の本数を抜本的に増やすのは難しそうだ。

新幹線武蔵小杉駅の可能性は?

武蔵小杉駅の横須賀線ホームに立つと、東海道新幹線がひっきりなしに行き交うのがわかる。時刻表を見ると7〜8時台に武蔵小杉駅の前を通過する東京行き新幹線は20本近く、横須賀線よりも多い。地元住民からは「新幹線が武蔵小杉に止まればいいのに」という、うらめしげな声も聞こえてくる。新幹線が武蔵小杉に止まれば「新幹線通勤」が可能になる。古い話になるが、1992年に川崎市議会で武蔵小杉への新幹線新駅設置が検討されたこともあったので、あながち夢物語というわけでもない。


武蔵小杉付近を走る新幹線。右側の線路が横須賀線(写真:ニングル/PIXTA)

品川と新横浜の間に新駅を設置すると、新幹線の速達性を損なうことになるが、リニア中央新幹線の開業後、東海道新幹線が現在ほど速達性を問われなくなり、ダイヤに余裕ができれば、武蔵小杉に新駅を造って通勤客を取り込むという戦略はあり得る。新幹線からリニアに多くの利用者がシフトした後の新幹線の増収策としても悪い話ではない。もっとも、JR東海側は「線形上の問題で駅の設置が難しく、まったく考えていない」。

今年11月30日からは、相鉄線とJR線の相互乗り入れが始まる。相鉄線から乗り入れる列車が武蔵小杉に何本停車するかは未定だが、相鉄線から東京方面に向かう客は、武蔵小杉や西大井で横須賀線に乗り換える必要があり、2023年度に武蔵小杉駅のホームが新設されるまでは、ホームの混雑はさらに増えそう。住みたい街・武蔵小杉の住民が快適に通勤できる日は、はたしてやってくるのだろうか。