厳しい経営環境が続く中で銀行員も岐路に立たされている(デザイン:新藤 真実)

マイナス金利政策の長期化など銀行を取り巻く環境が一段と厳しさを増している。2019年3月期は、地方銀行の半分が本業の利益を示すコア業務純益(貸し出しなどで得られる資金利益と手数料収入から経費を差し引いたもの)が前期実績を下回り、3割の地銀は2ケタ減益となった。

SBIが経営の厳しい地銀を支援へ

デジタル化の対応も急務だ。決済などの顧客接点をフィンテック勢に奪われないように、銀行はテクノロジーを活用して金融サービスのあり方を大きく変えようとしている。業界の競争環境が大きく変わる中、銀行員も変革を求められている。6月17日発売の『週刊東洋経済』は、「銀行員の岐路」を特集した。


国内が頭打ちでも海外展開の拡大で収益を求めることができるメガバンクに対し、地元に根ざした地銀にそれは難しい。また、単独で新たな動きに対応するには人材とノウハウの両方で限界がある。そうした中で注目が集まっているのが、ネット証券や保険、銀行などさまざまな金融サービスを手がけるSBIホールディングスと地銀の連携拡大である。

近く具体化しそうなのが、地銀との共同持ち株会社の新設だ。その目的は「経営が厳しさを増す金融機関を支援し、強化すること」(SBIホールディングスの北尾吉孝社長兼CEO)。共同持ち株会社にはSBIグループが過半を出資し、経営を主導。メガバンクや有力地銀などの出資も受け入れる。そして、この持ち株会社を通じて、特に経営の厳しい地銀を金融面、業務面で支援する。“一体感”を出すために、支援を受ける地銀にも持ち株会社に少額出資してもらうという。


(『週刊東洋経済』6月22日号「銀行員の岐路」より)

今回の動きは、SBIが「地方創生プロジェクト」と呼ぶ提携戦略の第3フェーズにあたる。第1フェーズとしてSBI証券が地銀34社と金融商品仲介業で提携するなど、SBIグループが扱う多様な商品・サービスを地銀などに提供してきた。第2フェーズで、個人間送金やロボアドバイザーなどのフィンテック企業のサービスを導入するプラットフォームを新設。地銀など11社がそれを導入済みまたは準備中だ。

共同持ち株会社の設立に向けて、複数の地銀と具体的な交渉を行っており、将来的には20行程度を共同体として運営する体制を目指す。支援額は最大数百億円規模となる見込みだ。

地銀によっては、「(共同持ち株会社が)過半を持たないにしても、筆頭株主になる可能性はある。それは支援する金額による」(北尾社長)。SBIグループによる地銀への直接出資も行う。大株主が変わるとなれば、金融庁の認可が必要となる。近年、生き残りをかけた地銀同士の経営統合が相次いでいるが、共同持ち株会社が実現すれば、従来にはない新たな動きになる。

さらに、ネットを通じた業務の全国展開を支援するほか、国内外の融資先を紹介したり、マネーロンダリング(資金洗浄)対策など一部システムの共通化による効率化を支援したりして、収益向上を図る。融資先に関しては、「SBIは融資先を国内外に数多く持つ。ベンチャーが株式公開する一歩手前の融資案件など、東南アジアを中心に広いネットワークを持っている。それらを活用して(地銀の)投融資の利回りを改善していく」(北尾社長)。地銀の本社社屋の活用・売却も共同持ち株会社で支援するという。

「最初は『北尾さんのところに乗っ取られるのでは』と心配していたところもあったかもしれないが、今では『SBIは救世主』というふうに皆思っている。大義は地方創生であり、国策にも沿う」とし、最も経営の厳しい地銀でも「3〜4年あれば復活は十分可能。テクノロジーの力で変えていく自信はある」と北尾氏は語る。

スルガ銀行の再建にも自信

SBIは2013年、経営難にあった韓国の貯蓄銀行(個人、中小企業対象の地域密着型金融機関)を買収。当時は先行きを危ぶむ声もあったが、3年で黒字化し、今では年間130億円(2018年3月期)の純利益を稼ぐ韓国トップの貯蓄銀行になっている。

昨年はロシアでも経営危機の銀行を買収したが、これもほぼ1年で黒字化を見込む。「決め手はテクノロジーの活用と、金利差を利用するアービトラージ。日本の安い金利で調達して、ロシアの銀行の資本金に入れると、為替のヘッジをしても十分採算が合う」(北尾社長)。こうした海外銀行の事例を通じて、経営難にある銀行の再生に自信を深めたようだ。


スルガ銀行は7800件余りの不正融資で行員119人が処分された(撮影:尾形文繁)

国内に業績の厳しい地銀が複数あるが、右肩上がりの業績が一転したのがスルガ銀行だ。不正融資の発覚から多額の不良債権処理費用が発生し、2019年3月期は971億円の純損失と、17年ぶりの最終赤字に転落した。苦境に陥ったスルガ銀行についても、「スルガ銀行は静岡銀行と横浜銀行に挟まれて東京に進出したが、やり方がまずかった。だが、そんなことをしなくてもネットの力を使えば全国展開できる」と北尾氏は言う。

ただ、「現段階で、うちは(スルガ銀行の支援に)絶対手を挙げない。創業家の株の問題をきっちり解決し、不良債権もすべて出し切り、公正な市場価格になれば支援できる。そうでなければ当社の株主にも申し訳が立たない」(北尾社長)としている。5月にスルガ銀行は、新生銀行とノジマと業務提携を発表したが、資本提携先は決まっていない。状況次第では、SBIが候補先になる可能性もありそうだ。


SBIホールディングスの北尾吉孝社長兼CEO(撮影:梅谷 秀司)

共同持ち株会社にはSBIと友好関係にあるソフトバンクの出資は想定しておらず、メガバンクや有力地銀など金融機関などに声をかけているという。新会社設立にあたっては、SBIグループ以外の金融機関から出資をどれだけ集められるかも大きなポイントだ。

地銀に対する大規模に出資する場合は、金融庁の認可が必要になり、出資がうまくいくのかなど不透明な部分も残る。だが、弱小地銀の単独再生が困難なことは、金融庁も重々わかっている。果たして、SBI主導のグループ化が地銀再生の決め手になるのか。

『週刊東洋経済』6月22日号(6月17日発売)の特集は「銀行員の岐路」です。