川崎の抱えるジレンマ。3連覇を狙う王者の前に新たなハードル
PK失敗で流れを失い、逆にPKを献上して先制点を奪われる。嫌な流れに陥りながらも後半に猛攻を仕掛けて、途中出場のエースの一撃で同点に追いつく。苦しみながらもホームで勝ち点1を確保した川崎フロンターレが、2連覇中のJ1王者の貫禄を示した試合だった――。
もちろん、これは皮肉交じりの表現で、川崎の多くの選手が「もったいない勝ち点1」と振り返ったように、川崎は勝てた試合を、むざむざと手放してしまったのだ。
小林悠のゴールでなんとか同点には追いついたのだが......
長いシーズンのなかでは、こうした試合はあるだろう。しかし、今季の川崎はこれが一度や二度では済んでいない。
第3節の横浜F・マリノス戦では、終了間際に追いつかれて2−2の引き分けに持ち込まれ、続くガンバ大阪戦では、後半アディショナルタイムの失点で0−1と敗れている。そして第14節の浦和レッズ戦でも、終始押し込みながらもラストプレーでゴールを奪われ、引き分けに終わっている。
ACLの舞台でも、同様の悪癖が顔をのぞかせた。終盤の被弾で敗れること2回(第1戦・上海上港戦、第3戦・蔚山戦)。どちらかを引き分けに持ち込めていれば、グループステージを突破できた可能性もあっただろう。
そして、北海道コンサドーレ札幌をホームに迎えた第15節、小林悠のゴールで追いつき、その後も一方的に攻め込みながらも、勝ち越しゴールは奪えず。1−1の引き分けに終わり、またしてもドロー決着となった。
これで川崎は、第15節を終えて7勝7分1敗。敗戦の数は首位のFC東京に並ぶリーグ最少だが、特筆すべきは引き分けの多さだ。「7」はもちろんリーグ最多で、これは優勝を成し遂げた昨季の「6」をすでに上回る。
負けていない、という意味では、勝負強さが備わっているのかもしれない。しかし、その中身を見れば、勝ち試合をモノにできなかったという印象が強い。
「同点にできたことは評価してもらえる部分かと思うけど、ひっくり返す力がないと優勝はできないと思う。苦しい展開のなかでも、去年や一昨年は勝ち点3を拾ってきた。そこは真摯に受け止めないといけない」
札幌戦後の守田英正の言葉は、川崎の現状を表わしているだろう。
土壇場の失点で追いつかれた、もしくは敗れたこれまでとは違い、この日の川崎は追いついての引き分けだ。しかし、展開こそ異なるものの、抱えている問題は同じだろう。
第一に挙げられるのは、やはり決定力不足になる。
鈴木武蔵にPKを決められ、1点ビハインドで迎えた後半、川崎は立ち上がりから一方的な展開に持ち込んだ。ショートパスで敵陣を揺さぶり、エリア内の侵入を止められて相手がボールを保持しても、再び奪い返して波状攻撃。ハーフコートマッチとも呼べる猛攻を仕掛け、次々に惜しいシュートを見舞った。
しかし、小林の同点ゴールが生まれたのは、後半もすでに半分が過ぎたころ。もちろん、スーパーセーブを連発した札幌の守護神ク・ソンユンを称えるべきが、川崎にゴール前での落ち着きが足りなかったのも事実だろう。
同点ゴールを決めた一方で、多くの決定機を逃した小林は、「個人的には冷静ではなかったですし、ほかの選手にもチャンスはあった。そこ(決定力不足)に関しては、監督やチームに関係なく、個人の問題なので、そこの質を高めていくしかない」と、反省の言葉を並べた。
最後の質に関しては、浦和戦でも見られた問題だ。「決めていれば」という場面で追加点を奪えなかったことが、土壇場の悲劇の温床となった。
一方で小林は、ベンチから見ていた前半を「うまくいっていない」と感じていたという。「クサビを入れる時も、相手にハマっている状態で入れることが多かった。(2トップの)段差を作る動きがなかったので、ボールを相手のペナルティエリア付近に運ぶところがうまくいっていなかった」
ボールは支配できているものの、その実、相手が対応しやすい状況下でパスを回しているだけだった。後半、小林の投入で前線に動きが見られ、札幌の守備組織が崩れたことで、より多くの決定機が生まれるようになったが、これを前半からできていれば、展開は変わっていたかもしれない。
「確実に仕留められるチャンスを数多く作るようにやっていきたい」とは谷口彰悟の言葉だが、決定力不足の改善は質の向上はもとより、量を増やすことも求められる。
もうひとつの課題は、試合中に隙を与える時間があることだ。
札幌戦ではPKを与えた少し前の時間帯から、ボールを失う機会が増えていた。とりわけ目立ったのは、奪ってからの1本目のパスが再び相手に渡ってしまったこと。
「取られ方が悪くなって、後手を踏むような展開になった。あそこでうまくコントロールできなかったですし、自分たちのミスもあって、相手の時間が長くなってしまった」(谷口)
引き分けに終わった第6節のセレッソ大阪戦でも、ディフェンスラインと中盤が間延びした時間帯に、そのスペースに柿谷曜一朗の侵入を許して先制点を奪われている。もちろん90分間、集中力を保ち続けることは難しく、相手の流れになる時間帯も当然ある。しかし、そこで耐え切れない淡白さが、今季の川崎には見られるのだ。
そして、いまだ陣容の最適解を見つけられていないことも、問題のひとつだろう。
今季の川崎は、ACLとの両立に耐えうるだけのタレントを確保した。一方で、昨季までは出番が少なかった長谷川竜也をはじめ、2年目の脇坂泰斗、20歳の田中碧ら若手が台頭。新加入のブラジル人トリオもフィットするなかで、昨季までのレギュラーだった中村憲剛や阿部浩之らが出場機会を減らしている。
豊富な戦力を備えている状況は、指揮官とすればうれしい悩みだが、阿吽の呼吸で成り立つ川崎のサッカーは成熟した連係が求められる。メンバーの入れ替えが若手の台頭を促したのは確かだが、他方で精密機械のような組織の歯車が噛み合わなくなる危険性もある。そこが鬼木達監督にとって、最大のジレンマだろう。
一方で、ACLに敗れて今後はリーグ戦一本となるなか、メンバーを固定化すれば、いわば余剰戦力が生まれてくる。そうなれば、チーム内に不満分子が生まれてくることも考えられるだろう。
一昨季は勢いで頂点に駆け上がり、昨季は継続性と成功体験のもとで連覇を成し遂げた。そして今、3連覇を目指す川崎の前には、新たなハードルが立ちふさがっている。それを乗り越えるには、指揮官のマネジメント能力が最大のカギとなる。