民泊をする廣田さん(右)と宮下さん(左)。連携の輪を広げ、地域を盛り上げたいという(長野県東御市で)

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 空き家や住宅の空き部屋を旅行者らに有料で貸すことができる住宅宿泊事業法(民泊新法)が15日で施行1年を迎える。観光庁によると1年間の届け出数は全国1万7301件と1年間で7・8倍に増加。しかし、東京都内や大阪府、札幌市など都会に集中し、参入する農家や農山村は低調だ。専門家は「新法を契機に農泊を広げるには、農家個人ではなく地域ぐるみで進める必要がある」と指摘する。

空き家対策、副収入に


 観光庁によると、施行した昨年6月15日時点の届け出は2210件だったが、今年6月7日時点で1万7301件に増えた。都道府県別では東京都(5879件)が最も多く3割を超す。大阪府(2789件)や北海道(2499件)が続き、上位3件で65%を占めた。一方、福井県(8件)、秋田県(12件)、山形県(14件)、鳥取県、佐賀県(いずれも18件)など20件を下回る自治体もあった。宿泊者は海外からが74%だった。

 同庁は「順調に増えているが、都市圏や観光地に集中している。訪日外国人の受け入れ拡大のためにも地方での普及が課題だ」とみる。

 長野県東御市は民泊に取り組む農家や希望者、行政、観光協会などと民泊のネットワークをつくった。中心となるのは農家の宮下広将さん(38)だ。借りている古民家の空き部屋を「農園ゲストハウスおみやど」として民泊業も営む。元々は農家民宿を経営したいと考えていたが、消防の観点で旅館業法にのっとることが難しく、断念した。新法で参入のハードルが下がったことから、民泊として届け出た。現在は民泊の売り上げが20万円を超す月もある。

 横浜市出身の宮下さん。農業が盛んでワインが特産の同市の魅力を、移住して知った。「民泊は、空き家対策にも、農家の副収入にも、地域の魅力発信にもつながる。いろいろな宿があれば、訪問する人の選択肢が増え、地域も盛り上がるので、民泊に取り組む人を増やしたい」と意気込む。

 同市の農家、廣田美和子さん(56)は空き家を民泊として届け出て、2月にオープンした。「宿泊施設が地域内に少なかった。農ある暮らしを都会の人に知ってほしい」と廣田さん。宮下さんらと協力し、民泊運営のノウハウを共有したい考えだ。宿泊を契機に移住や新規就農した人もいて、地域活性にもつながることを実感している。

 農水省は、農山村での訪日外国人受け入れや農泊の推進はビジネス創出や活性化の大きな鍵となるとして、政府目標として農泊500地域の創出を目指している。同省によると、旅館業法の簡易宿泊所として農家民宿を経営する人や地域が多く、同市のように農家らが連携し民泊新法の届け出をした地域はまだ限定的だ。

 東洋大学国際観光学科の森下晶美教授は「民泊新法は空き家の再生やビジネスチャンスになるが、農泊の追い風にはなっていない」と分析。今後に向けて「農家個人で参入するだけではなく、ネットワークをつくる連携体制と、JAなど仕掛ける人や組織があれば、農村でも民泊が広がっていく」と指摘する。