BYDとともに世界の電池市場を席捲するCATLの工場。今後も増産体制は続く(写真:CATL提供)

2019年6月7日、トヨタが中国リチウムイオン二次電池(LIB)大手の寧徳時代新能源科技(CATL)、比亜迪(BYD)などと協業すると発表し、複数メーカーから電池調達する方針を示した。日産、ホンダとの提携に加え、日本自動車メーカーの中国電池頼りの姿勢は鮮明となった。

今年から実施した中国のNEV(新エネルギー車)規制により、乗用車メーカーに一定台数のNEV生産の義務づけられた。仮に中国で日本勢がガソリン車500万台を生産する場合、発生する10%相当分の50万クレジットを確保するには、すべてEVの生産で対応するならばEVを10万台(航続距離の条件は350km)、全てPHVならばPHVを50万台(同5km超)生産しなければならない。

車載電池の安定調達は喫緊の課題


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一方、今年1〜4月のNEV生産実績では、一汽トヨタが4232台、広汽本田が906台、東風日産が900台にとどまる。各社はNEV生産を急ピッチで進める必要があり、なかでも車載電池を安定調達することが、日本勢にとって喫緊の課題だ。

LIBはソニーが1991年に世界に先駆けて実用化し、日本の「お家芸」とされてきた。2011年以降、韓国企業の台頭により、世界市場でパナソニックとLG化学、サムスンSDIの日韓企業のトップ争いが行われていた。日本では、「中国製EV電池の安全性と信頼性を保証できない」といった論調が多い。ところが中国で、日本車メーカーが相次いで“地場電池メーカー詣で”になった。

1つ目の要因は外資電池メーカーの排除政策だ。「LIB市場を制するメーカーがEV市場を制する」との認識の下、中国政府は、特定メーカーのLIBを搭載することがNEV補助金を支給する条件であると規定。2016年には認定された地場LIBメーカー57社を「ホワイトリスト」に登録した。

この規制により、サムスンSDIとLG化学の中国工場の稼働率は一時10%程度に落ち込み、SKイノベーションは北京工場を閉鎖した。パナソニックの大連工場では中国市場向けのEV電池生産が行われなかった。現在に至るまで外資系LIBメーカーが中国乗用車市場に参入することは依然として難しい状況にある。

一方、中国政府が2017年からLIB分野における外資の独資を容認し、2019年にはLIB産業を外資投資の奨励産業分類に格上げ、外資政策の転換を行った。またこれまで外資系電池メーカーの参入障壁だった「ホワイトリスト」が、NEV補助金政策の中止に伴い、2021年に事実上撤廃されることが決まった。

中国地場メーカー、創業7年で世界トップに

ところが、LIBの大規模増産のために必要な資金は巨額であり、回収期間も長い。産業政策に翻弄される外資系LIBメーカーが生産能力とコスト面において、地場LIBメーカーに追随し難い状況となっている。今後中国におけるトヨタのLIB需要を勘案すれば、パナソニック1社で賄い切れるような量では到底ない。このような状況を鑑みて、トヨタは中国で必要なLIBを複数メーカーから調達する意向を示した。

2つ目の要因は地場電池メーカーの成長だ。中国国内の需要増が地場メーカーを世界トップに押し上げた。CATL、BYDなど地場メーカー7社が2018年のLIB出荷量世界トップ10にランクイン。創業わずか7年のCATLが、パナソニックを抜き2年連続で世界首位となった。2012年に開始した独BMWとの協業は技術力とブランド力の向上を果たし同社のターニングポイントであった。

2018年には独ダイムラーとVWへのLIBの供給が決定。また、CATLは安全・信頼性の高いLIBの設計・開発や過酷な条件での限界試験に力を入れ、品質に厳しい日本の自動車メーカーとの取引を増やしている。現在、CATLは中国自動車主要5グループとそれぞれ車載電池開発・生産の合弁会社を設立し、外資系を含む自動車メーカー30社以上に電池を供給している。

自動車メーカーとの水平分業型戦略を採用したCATLに対し、LIB世界3位のBYDは、自社ブランドのNEVにセルを供給する垂直統合型戦略を採用した。セルから電池バック、BMS、車両を内製することにより、低コスト生産を実現した。2019年、BYDはLIB事業を独立させ、生産能力(60ギガワット時)の引き上げや他社向けの販売など、LIB事業のさらなる拡大を企図している。

中国政府は2019年のNEV補助金額を前年比で大きく減額した。航続距離の長い電池を搭載すれば、多額なNEV補助金を獲得できるため、NEVメーカーの電池調達先は大手電池メーカーに集中する傾向だ。2019年1〜5月の中国LIB市場シェアを見ると、1位のCATLと2位のBYDの合算シェアは75%、業界の寡占化が進んでいることがわかる。

24時間稼働でも受注に対応しきれず

現在、CATLは生産ラインが24時間稼動しているにもかかわらず、受注に対応しきれない状況だ。筆者は51歳の曽毓群(ロビン・ツォン)会長とは数回雑談する機会があったがこれまでの成長を自慢することなく、政府補助金がなくなれば真っ正面から有力外資メーカーに向き合わざるをえなくなる危機感をもちながらも、技術力のさらなる向上を強調した。

この数年でLIB産業は製造技術の進歩に伴い、液晶パネルと同様に巨大な設備投資を求める装置産業となっている。豊富な資金を持つ中国企業が政府の支援を受け、生産能力を急拡大し、技術優位にあった日韓企業を凌駕する勢いをみせた。

現在中国には、質と量の両面を追おうとするLIBメーカーが多く、技術力が高いメーカーが限られている。今回発表されたトヨタの中国2社協業は、中国大手電池メーカーにとって、ドイツ勢に続き日本自動車ビッグスリーへの供給を果たし、グローバル競争に向けて大きな一歩を踏み出したといえよう。