「指名手配」専門の捜査機関・警視庁捜査共助課 小川警部補(写真:フジテレビ)

罪を犯し、時には偽名を使い、容姿を変え、あらゆる手段で全国各地に逃亡を続ける指名手配の容疑者たち。2019年5月現在、その数は全国で約600人に上る。

そんな全国各地に潜伏する指名手配容疑者を追い詰める捜査の達人たち。彼らが勝ち取った逮捕の瞬間の数々をカメラに収めた、フジテレビ『逮捕の瞬間!警察24時 令和・新時代の名物刑事 全国「指名手配」完全追跡SP』(6月16日(日)夜7時から放送)取材班が生々しい2つの逮捕現場の一部始終をリポートする。

「逃げ得を許さないことが第1条件」――。

そう語るのは、“指名手配捜査の専門組織”警視庁・捜査共助課の小川警部補。これまで16年間で3000人以上の指名手配容疑者逮捕に携わってきた、指名手配捜査のプロ中のプロだ。

福岡へ逃亡した指名手配容疑者を徹底追跡

この日、警視庁・捜査共助課の捜査員たちが張り込んでいたのは、東京から約900km離れた福岡市内のマンションの前。彼らが追っていたのは、30代の男。知人女性の自宅に侵入し、カッターナイフを突き付け「顔をメッタ刺しにするぞ」と脅し、女性を全裸に。さらに男は、怯える女性の首を絞め、髪を切るなどの暴行を加えると、意識を失った女性を放置し、そのまま姿をくらませた。

女性を恐怖に陥れた悪質極まりない事件。男は、強制性交等未遂と住居侵入の容疑で指名手配された。捜査員たちは、すぐに男の情報収集を開始。すると手配から2週間が過ぎた頃、捜査員が1つの情報をつかんだ。

それは、男が事件前に同僚に話した「福岡で彼女と暮らす」という言葉。この内容が本当なら、男は今も福岡に潜伏しているかもしれない。確証はなかったが捜査員は東京から福岡に飛んだ。

その後、緻密な捜査で割り出したのは、男の交際相手が住む福岡市内のマンション。住人の出入りが確認できる位置で張り込みを開始した。すると、張り込み開始から2時間、マンションから男の交際相手の女性が1人で出てきた。

女性はきれいな身なりでタクシーに乗り込むと、そのまま市街地の方向へ走り去っていった。捜査員は、女性の外出を確認すると、部屋のすぐ真下に向かった。ベランダの窓をよく見ると、女性が外出したにもかかわらず、部屋からはわずかに漏れる明かりが確認できる。何者かが部屋にいる可能性は高い。逃走防止のためマンションの外にも見張りの捜査員を配置し、部屋の前までやってきた捜査員たち。扉にそっと耳をあてると、室内からは、かすかに物音が聞こえる。中にいるのは指名手配中の男なのか。

「ピンポーン」


逃亡1カ月・女性を全裸にした暴行男を逮捕。フジテレビ『逮捕の瞬間!警察24時 令和・新時代の名物刑事 全国「指名手配」完全追跡SP』は6月16日(日)夜7時から放送です(写真:フジテレビ)

インターホンを鳴らす。するとしばらくして、室内から低い声が聞こえてきた「はい……どちらさんですか?」。警戒しているような声だ。「〇〇さんのお宅ですか?警察ですけど開けてもらえますか?」。容疑者本人の名前は出さず、あたかも女性を訪ねて来たように話す捜査員。その思惑通り、扉はすぐに開いた。

目の前に現れたのは、やはり手配中のあの男。まさか福岡まで逮捕に来るとは夢にも思っていなかった様子だった。

女性を恐怖に陥れた男は、約900km離れた東京の警察署に連行された。

最新技術で追跡!連続詐欺未遂男を完全包囲!

気温30℃を超える真夏日の中、警視庁・捜査共助課の捜査員が行方を追っているのは、詐欺未遂事件の容疑者。20代で無職の男は、銀行職員になりすまし、都内に住む高齢女性から、キャッシュカードをだまし取ろうとした容疑で手配されているのだが、犯行はこれだけではなかった。

男は、逃亡中にもかかわらず、フリマアプリを通じて、高額商品の取引を相手に持ちかけ、金品をだまし取り続けていたのだ。捜索の手がかりとなるのは、男が乗る白い高級国産車。実はこの車も男がフリマアプリでだまし取った物。280万円で売買が成立したにもかかわらず、車を手にすると、料金を支払わず逃げ続けていた。しかもこの男、自動車免許すら持っていないという。

次から次に人をだまし、罪を重ね、逃亡を続ける男。これ以上野放しにしておくわけにはいかない。そこで、捜査共助課がとった手段は、指令室を設置し、モニターと無線を通じ、現場の動きや目撃情報をリアルタイムで集約、現場部隊に指示を出し、捜査車両5台、捜査員10人、さらに指令室の8人で、容疑者を追い詰めるというもの。現場の捜査員は情報があった付近を、くまなく捜索していく。


連続詐欺未遂男の潜伏先を執念の張り込み(写真:フジテレビ)

「4号(捜査車両)で手配車両発見となります」

男の車を駐車場で発見したとの一報が飛び込んできた。指令室は、航空隊のヘリコプターにも応援を要請。現場周辺の捜査員たちは男の車の元に続々と集結していた。確保の体勢が整うまであと少し。しかしここで、思いもよらぬ事態が起こる。

車とヘリコプターで逃走する男を追跡

「やばい」

モニターを見ていた指令室の捜査員が思わず声を漏らした。男が運転する車が一足先に動き出してしまったのだ。現場の捜査員は、男に気付かれぬよう一定の距離をあけ、すぐに後を追う。そして上空では航空隊のヘリコプターも追跡を開始した。

空と地上、一体となった追跡。絶対に逃がすわけにはいかない。最初に動きを見せたのは容疑者の男だった。捜査員の追跡を察知したのか、片側一車線の道路を突如速度を上げ、逆走したのだ。

無免許の男の危険極まりない運転。これ以上の追跡は一般市民を巻き込んだ重大な事故につながりかねない。指令室は、追跡を航空隊一本に切り替え、男を刺激しないよう、周辺車両に指示を送る。すると、またしても男が動きを見せた。

住宅街の一方通行路。そこに止まっていたのは、男が乗る高級国産車。しかし、車には誰も乗っていない。今度は車を乗り捨てて逃走した。いったい男はどこに逃げたのか。そのとき指令室では、ベテラン捜査員が男の行く先を導き出していた。それは、男が交際している女性のマンション。車を乗り捨てた地点からは、約1km程度しか離れていない。すぐにその家を張り込むと、室内に男がいることが確認された。

ようやく男を追い詰めた。しかし捜査のプロはあくまでも冷静だ。彼らが選んだのは、いわゆる『出待ち作戦』。「彼女を人質にとられるのが怖いので、それがいちばんいい」という。相手は、これまでも無謀な逃走を繰り返している危険な男だ。女性の安全を考慮し、男を確実に確保するため、捜査員は男が部屋から出てくるのを待つ。

男が潜伏する部屋の前で息を潜め突入の瞬間を待つ十数人の捜査員。そしてついにドアが開く。出てきたのは交際女性だった。事情を説明しすぐに室内に入ると部屋の奥には上半身裸でソファーに座る男の姿があった。


連続詐欺未遂男の潜伏先に突入〜確保の瞬間(写真:フジテレビ)

「警察っすか?怖いっすね……こんな大ごとになるとは思わなかった」

突入した捜査員に思わずこぼした男だったがだましていたのは被害者だけではなかった。

「彼女は何も知らないんで、言わないでください」

交際女性には「会社経営者だ」と偽っていた

「警察はウソつけないから」

「いや、だから何か聞かれたら何とかしてください。『今はちょっと話せない』とかごまかして……」


「彼女には言わないで……」連続詐欺未遂男を逮捕。フジテレビ『逮捕の瞬間!警察24時 令和・新時代の名物刑事 全国「指名手配」完全追跡SP』は6月16日(日)夜7時から放送です(写真:フジテレビ)

最後まで往生際が悪い男は無職にもかかわらず交際女性には「自分は会社を経営している」と偽り、だまし取った高級国産車を無免許で乗り回していた。

男を詐欺未遂容疑で逮捕。高級国産車は持ち主に返され、余罪についても詳しい取り調べが行われている。

指名手配されるほどの犯罪者といえど、人間としての弱みは同じ。2つの逮捕を手繰り寄せたわずかな手がかりは、いずれも犯人の男の交際女性の影だった。とはいえ、刑事たちがそこに賭けることができたのは、単なる勘やひらめきではなく、熟練した長年の経験と知識が根っこにあったからこそだろう。