ライブドア事件の本質を探る(下)
ライブドア<4753>グループをめぐる証券取引法違反容疑事件で、東京地検特捜部がライブドア社長の堀江貴文容疑者(33)ら幹部4人を逮捕したのを受け、東京証券取引所(東証)の今後の動きや株式市場への影響などについて、IR(投資家向け広報)と会計が専門の早稲田大学大学院アジア太平洋研究科の花堂靖仁教授に考えを聞いた。(インタビューは24日午前。役職などは当時のまま)
ライブドア事件の本質を探る(上)
――事件は企業や経営者に何を問うているか?
教科書的な話になるが、資本主義というのは倫理とつながる。自由裁量の幅を広げるということはグレーゾーンが非常に大きい。ぎりぎりのところで経営者を支えるのが倫理観。
単に形式だけを追いかけ、「一つひとつは問題ないのだから全体もいいじゃないか」と言うと、最後の意図のところで自分のためとなってしまうことがある。社会や株主のためという「錦の御旗」が立っていれば問題ないが。
法律家は企業経営を、法律を判断基準に黒か白かでしか見ない。しかし、実際には経済にはグレーゾーンがあり、それに組織的に対応しようとするのがコーポレートガバナンスで、今回はコーポレートガバナンスが全く利かなかった一例。
堀江社長は、ものごころついた頃がバブルで、世の中が浮ついてきた時期だった。家庭環境、育ち方は分からないが、彼自身は主観的に倫理観を持っているかもしれないけれど、彼自身の中で、社会的に許容された枠の中で何かをするという感覚を十分持っていなかったのではないか。倫理観がないと資本主義社会はガタガタになる。
社会がこのような倫理観を与えてこなかったとすれば、強制力を持ってモニタリングし、おかしいことをしそうな場合には、警察権を行使して、摘発・処罰できる証券取引委員会をアメリカのように作ろうという議論になる。
個人的には(証券取引委員会のような)アングロサクソン的なやり方がいいとは思わない。アングロサクソン的な考えを機械的に導入しても、うまく行かないことが日本ではたくさんある。日本の経営は世の中を一つの鏡とし、「お天道様に顔向けできないことはしちゃいかん」という基準で、組織も企業も動いていた。
今回の事件を反省材料に、企業や経営者の倫理観がきちんと見直されてほしい。情報化社会が進み、組織がフラットになってきている。従来は下は上の言うとおり仕事をすればよかったので、上だけが責任とるべきだったが、今はそうではない。資本市場は自由裁量を大きくすることで発展することを理解し、法律で定めていることを超えないという倫理観を、企業で仕事する人すべてが持ち、自己規律していくべきだ。もちろん、隙間をぬって出し抜こうという人は、どんな時代にも必ずいる。それは司直の手に任せるしかない。
――株式市場はどんな影響を受けるか?
短期的には影響がある。昨年夏以降増えた一般投資家が株価を上昇させてきたが、しばらく様子見するだろうし、すでに痛手を受けたデイトレーダーや、ライブドアよりも東証のシステムなどに関心の高い外国人投資家も同じと思うだろうからだ。
しかし、バブル気味だった市場が本来の水準に来たと見れば、基本は成長基調だから徐々に買いに入ってくるだろう。国内の機関投資家が早く動き出せば、回復も早いと思う。
――ライブドアが取るべき対応は?
ライブドアは残すもの、捨てるものの線引きをはっきりすべきだ。急成長した会社にはありがちだが、ライブドアの事業内容がはっきりしていない。どこに焦点を当てるか考えるべき。
堀江社長らの容疑などについては、事実関係やそもそもの動機が何だったのかは、これからはっきり出てくるわけだから、今憶測しても始まらない。【了】
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単に形式だけを追いかけ、「一つひとつは問題ないのだから全体もいいじゃないか」と言うと、最後の意図のところで自分のためとなってしまうことがある。社会や株主のためという「錦の御旗」が立っていれば問題ないが。
法律家は企業経営を、法律を判断基準に黒か白かでしか見ない。しかし、実際には経済にはグレーゾーンがあり、それに組織的に対応しようとするのがコーポレートガバナンスで、今回はコーポレートガバナンスが全く利かなかった一例。
堀江社長は、ものごころついた頃がバブルで、世の中が浮ついてきた時期だった。家庭環境、育ち方は分からないが、彼自身は主観的に倫理観を持っているかもしれないけれど、彼自身の中で、社会的に許容された枠の中で何かをするという感覚を十分持っていなかったのではないか。倫理観がないと資本主義社会はガタガタになる。
社会がこのような倫理観を与えてこなかったとすれば、強制力を持ってモニタリングし、おかしいことをしそうな場合には、警察権を行使して、摘発・処罰できる証券取引委員会をアメリカのように作ろうという議論になる。
個人的には(証券取引委員会のような)アングロサクソン的なやり方がいいとは思わない。アングロサクソン的な考えを機械的に導入しても、うまく行かないことが日本ではたくさんある。日本の経営は世の中を一つの鏡とし、「お天道様に顔向けできないことはしちゃいかん」という基準で、組織も企業も動いていた。
今回の事件を反省材料に、企業や経営者の倫理観がきちんと見直されてほしい。情報化社会が進み、組織がフラットになってきている。従来は下は上の言うとおり仕事をすればよかったので、上だけが責任とるべきだったが、今はそうではない。資本市場は自由裁量を大きくすることで発展することを理解し、法律で定めていることを超えないという倫理観を、企業で仕事する人すべてが持ち、自己規律していくべきだ。もちろん、隙間をぬって出し抜こうという人は、どんな時代にも必ずいる。それは司直の手に任せるしかない。
――株式市場はどんな影響を受けるか?
短期的には影響がある。昨年夏以降増えた一般投資家が株価を上昇させてきたが、しばらく様子見するだろうし、すでに痛手を受けたデイトレーダーや、ライブドアよりも東証のシステムなどに関心の高い外国人投資家も同じと思うだろうからだ。
しかし、バブル気味だった市場が本来の水準に来たと見れば、基本は成長基調だから徐々に買いに入ってくるだろう。国内の機関投資家が早く動き出せば、回復も早いと思う。
――ライブドアが取るべき対応は?
ライブドアは残すもの、捨てるものの線引きをはっきりすべきだ。急成長した会社にはありがちだが、ライブドアの事業内容がはっきりしていない。どこに焦点を当てるか考えるべき。
堀江社長らの容疑などについては、事実関係やそもそもの動機が何だったのかは、これからはっきり出てくるわけだから、今憶測しても始まらない。【了】
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