「グーグルは「Pixel 4」の秘密を自ら“暴露”しても、何の痛手も被らない」の写真・リンク付きの記事はこちら

グーグルは次期スマートフォン「Pixel 4」に大いに期待を寄せている。Pixel 4が今年の後半、おそらく秋の半ばに発売される際には、このスマートフォンは現行のAndroidの最高峰を象徴する存在となり、アップルの「iPhone」を使っているユーザーたちに機種変更を促す強力な宣伝材料になるだろう。

こうした情報公開は通常なら、何カ月にも及ぶ準備期間を経て、計算しつくされた戦略に基づいて展開される。ティザー広告を除いて、厳格な箝口令が敷かれるのだ。

あるいは、グーグルのように別のやり方もある。その“秘密”を自らツイートするのだ。

これより大規模なハードウェア関連のリークは、過去にも起きている。よく知られるところでは、2010年に「ギズモード」が、発売予定よりも何カ月も前に本物のiPhoneを手に入れた“事件”があった。

18年にグーグルの「Pixel 3」が発売されたときには、この機種はディズニーランドの「スプラッシュ・マウンテン」の水しぶき以上に派手に情報が飛び出した。続く「Pixel 3a」も同様だった。

一方で、企業が自ら情報をリークすることで、先手を打った最後はいつだったのか、思い出すのは難しい。さらに、それがグーグルがとりうる最も賢明な措置ではないと言うことも難しいだろう。

Well, since there seems to be some interest, here you go! Wait 'til you see what it can do. #Pixel4 pic.twitter.com/RnpTNZXEI1

- Made by Google (@madebygoogle) 2019年6月12日

あえて自らリークした理由

状況を考えてみよう。今週の初めに、複数のテックブログからPixel 4の予想デザインが公表された。動画アカウントの「Unbox Therapy」には、メタリックのPixel 4と「Pixel 4 XL」のデザインを披露する動画さえ存在する。この夏を目前にして、ダムにはすでにたくさんの割れ目が生じている。

何カ月にも及ぶ予想や噂、リークや憶測が重なり、しまいには10月のプレゼンテーションが野暮ったいジョークのようになってしまう。これでは、あっという間にこの先の楽しみがなくなってしまう。

グーグルは、そんな状態をよしとしないことを選んだ。同社は単に高解像度の宣材写真を使ってPixel 4をアピールするのではなく、製品それ自体の魅力に焦点を当てることにしたのだ。つまり、ユーザーの目で確かめてもらって関心を引くことで、同社は肝心のリリースに人々の話題が再び集まるようにしている。それにPixelの重要なポイントは、その見た目ではなく機能なのである。

「グーグルがやっていることはデザインのリークです」と、調査会社ガートナーのテック業界アナリストであるトゥオン・グエンは指摘する。「でも、グーグルはハードウェア企業というわけではありませんから、デザインのリークはそれほど重大ではありません」

デザインよりも重要なもの

グーグルは外観デザインへのこだわりを捨てることで、コンピューターヴィジョンや音声認識、そしておそらくは未来的なジャスチャー認識といった機能への積極的な取り組みに注目を向けることができる。結果としてグーグルにとって中心的な“製品”話題を戻すことができる。つまり、「Android」という製品だ。

人々がPixel 4のデザインに興味がないわけではない。特にPixel 4は前機種から大きな変更があり(長方形のデザインは維持されるが)、その見た目は大いに人々の興味を引いている。

「前機種にあったツートンカラーの背面デザインではなくなっています」と、モバイル業界の動向を追うBayStreet Researchの創業者クリフ・マルドナードは語る。「個人的には、それがPixelのやや劣っている点だったと思います。サムスンのほうが、ずっとデザインが魅力的な端末です。iPhoneは本当に見た目が美しく仕上がっています。今回は正しい方向への一歩だと思いますよ」

グーグルがシェアした画像を見ると、Pixel 4の背面にある正方形の突起部分にデュアルカメラ、フラッシュ、センサーとおぼしきものがあり、指紋センサーはそこにはないようだ。そこがPixel 3との違いだが、正直なところ画像ではそれ以上はわからない。

しかし、それもポイントである。スマートフォンに1,000ドルもの額を払うなら、いずれにしてもケースに入れて保護すべきなのだ。グーグルのユーザーにとってはデザインより、何が内側にあるかのほうが重要なのである。

グーグルはアップルではない

ここではっきりと疑問に思うのは、「それではなぜ、同じような戦略を他社もとらないのか?」ということだ。リークを食い止めるうえで必要なのが「自らリークすること」なら、なぜティム・クックは“iPhone XI”についてまだツイートしていないのだろうか? それは失うものの大きさによるのだ。

まず、デザインが刷新されて明らかに新しい機能をもつ、発売が何カ月も先のスマートフォンを宣伝することで、グーグルは潜在的な顧客に既存モデルの購入を思いとどまらせることになる。「基本的にPixel 3の販売が影響を受けることになります」と、マルドナードは指摘する。アップルは実際に同じような影響を経験しており、そのことをCEOのクックは2017年の「iPhone 8」の発売を前に嘆いていた。

このときクックはCNBCの取材に対し、「新製品に関する多くの噂や記事、情報が飛び交うことで、相当に多くの人が買い控えることになります」と語っていた。リークによってアップルの第2四半期の収益が減少して痛手を受けたことについて、自ら説明したのである。

しかし、グーグルはアップルではなく、PixelはiPhoneでもない。グーグルの最高財務責任者(CFO)であるルース・ポラットは直近の収支報告で、Pixelの売り上げが右肩下がりになっていることを認めたうえで、次のように語っている。

「最近のプレミアムスマートフォン市場においては外部からのプレッシャーが強まっており、業界全体の宣伝活動が過剰になっていることが一部影響しています」。Pixel 3の販売が振るわないのであれば、次世代モデルに世間の注意をそらしても実害はないだろう。

グーグルが人々にかけた“魔法”

それにグーグルは、Androidの世界で圧倒的な支配力をもつことで、すべてにおいて独自のシナリオを描けることになる。「グーグルは、いわばプラットフォームなのです。Pixelを最も多く販売するとか、ほかのAndroidメーカーより多くPixelを販売することが本当に重要なのではなく、彼らが構築しているこのエコシステムこそ重要なのです」と、ガートナーのトゥオンは語る。

いずれにしても、グーグル自身のおかげで、新しい“秘密”のスマートフォンのデザインを知ることができた。それを見て「購入したい」という気持ちに変化があっただろうか? おそらく「ノー」だろう。

だが、自分が思っていたよりも早く、より真剣に、Pixel 4について思いを巡らせているのではないだろうか。そして、Pixel 4で何ができるようになるのか、気になっているはずだ。そう、まるで魔法をかけられたかのように。