梅毒という病気がどんなものか、知っている人はきっと少ないのではないでしょうか。

実は、梅毒は長い歴史がある性感染症。日本では1990年代に患者数が減少して、既に過去の病気として医療界では認知されていたと言われます。ところがここ数年、この梅毒が猛威を振るい出しているというニュースが! 「そんな病気は知らないし、大丈夫」と思っても性感染症は、パートナーから感染してしまう可能性も。

もともとはコロンブスが広めた!?

梅毒はコロンブスたちによって広まったという説が有力です。大航海時代に未開の地で現地の女性たちと船の乗組員がセックスをしたことで、ヨーロッパに持ち込んだとも言われています(※諸説あります)。1494〜1495年に、イタリアのナポリで最初のアウトブレイクが起きて大騒動に。このアウトブレイクで、梅毒の恐ろしさがヨーロッパ中に広まったとされています。日本には戦国時代に既に上陸し、1512年に京都で大流行したという記述も残っています。

その後、吉原などの遊郭では瘡毒(そうどく)と呼ばれ、梅毒が原因で亡くなる女性たちも少なくありませんでした。治療法が見つかったのは、1940年以降に抗生物質のペニシリンが開発されてから。

それまで、梅毒は不治の病として恐れられていました。歴史上の人物でも、リンカーン(母子感染)、シューベルト、ニーチェも梅毒に罹患していたと言われています。

感染者が増加しているのは、なんと20代の女性

「2010年頃から徐々に増加し、2017年には感染者数が非常に多くなり、医学界でも話題になりました。どのような症状で、どうすれば防げるのかといった知識を持つことはとても重要です」と語るのは婦人科専門医であり、成城松村クリニック院長の松村圭子先生。

国立感染症研究所もこの事態を重く見て、サイトで梅毒の罹患率の報告を細かく発表しています。2006〜2018年の患者報告の総数は、なんと8,599人。

「2011年から増加し、2017年が非常に多かった年と報告されています。昨年、少し減っていますが、女性の罹患者数で見ると逆に増加しています。梅毒は現在ではあまり知られている性感染症ではないので、体調に違和感があってもまさか梅毒だと思っていない方も。治療していない人も加えると、実際の罹患者は10倍、20倍にもなるとも言われていますね」

松村先生が指摘するように、女性では20代の報告例が最多数。その理由は、ひとつではないけれど、「恋愛をした30〜40代の男性に罹患者が多いことも理由になっているのではないでしょうか」と、松村先生は分析しています。

「梅毒は、日本では下火になっていた性感染症。ですが近年のグローバル化で、海外からの渡航者が増加したことで、新たに罹患者が増えたということは考えられます。最初は、風俗業などで徐々に広まり、そこで働く女性、客として来る男性、そこから持ち帰り別のパートナーへと広まった可能性もあります。きちんと性感染症対策を行っている風俗業もありますが、自分のパートナーが風俗店に行った場合、どんなお店を選ぶかは正直分かりません。性感染症の典型的な広がり方ともいえますね」

確かに自分やパートナーが気を付けていても、その元彼女、そのまた元彼氏…ということを考えると、決して安心はできないかも。

初期症状での発見が大事!

梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌の感染によって発症する病気。セックスはもちろん、オーラルセックスでも感染すると言われています。病変部が唇にある人とキスしたり、コップを使い回すと、うつる可能性はゼロではないよう。日本性感染症学会は梅毒に関する提言の中で、「梅毒はキスでうつることもないとはいえません」としています。

「梅毒は早期発見できれば、治療が可能です。初期の潜伏期間は約3週間と言われています。それ以降、性器周辺におできができたり、リンパ節が腫れる、違和感がある、手足に発疹ができるなどの症状が出ます。このような異変がある場合は、泌尿器科や産婦人科などを必ず受診すべきです」と言うのは、婦人科医の松村圭子先生。

梅毒は以下のように進行するのだとか。

第1期梅毒:感染から約3週間

梅毒の原因菌が侵入した部位が、小豆大〜人さし指大に硬くなり、しこりとして出てきます。女性は大・小陰唇や子宮頚部、男性は性器の冠状溝、包皮、亀頭などに出やすい。口唇や手指に出ることも。鼠径部(そけいぶ、脚の付け根)が腫れる場合もあるけれど、2〜3週間で症状が消失することも多いよう。

第2期梅毒:感染から約3カ月

全身に梅毒の菌がまわり、肌や粘膜に発疹が出たり、臓器梅毒が認められます。バラのような紅斑の俗称「バラ疹(ばらしん)」が身体に出てきます。しかしこれは痛みは伴わず、数週間で消失。また、赤味のある丘疹(きゅうしん、肌表面の一部が膨らむ発疹のひとつ)が出る場合もあります。手のひらや足の裏に限って出る人も。また、口の粘膜にトラブルが起きたり、かすれ声になる人もいます。第2期までが早期梅毒に分類されます。

第3期梅毒:感染から3年〜10年

皮膚や骨、筋肉や臓器などに硬い、ゴムのようなしこりである「ゴム腫」が出現します。

第4期梅毒:感染から10年〜

血管や中枢神経まで梅毒の菌に侵され、歩行障害や痴呆、麻痺などが出てきます。日常生活を送るのは困難になり、死に至ります。

ただ、第1期梅毒に見られる初期症状が出ないケースもある、と松村先生。身元がよく分からない、または遊んでいそうな相手とワンナイトスタンドしてしまって心配なときは、検査をすることが重要。感染から3週間以上経っていれば、血液検査で診断できます。放置しておくと第2期の全身症状や神経症状などが出てしまうリスクも!

ただし、梅毒は一度かかると抗体ができ、血液検査ではこの抗体の有無で診断します。過去に梅毒にかかった場合は検査で陽性反応が出るので、もっと詳細な検査が必要に。ただし、初期の梅毒であれば、ペニシリンなどの梅毒に効果的な薬を集中的に服用するだけ。だからこそ、早期発見、早期治療が大切なのだとか。

挿入前のコンドームでは遅い⁉

性感染症の一番の予防は、信頼できる人以外とのセックスには慎重になるということ。といっても、信頼できるパートナーがハメを外してしまうこともあるかもしれません。どうすれば梅毒などの性感染症を防ぐことができるのでしょうか?

「コンドームの着用は必須ですね。日本の女性たちはコンドームを避妊具と思っていますが、避妊だけではなく感染症予防の目的でつけることも大事です。また、意外に誤解しているのが低用量ピル。ピルを服用していても性感染症は防げません。コンドームと低用量ピルをダブルで使うことが避妊と性感染症予防には必須、基本なのです」と松村先生。

さらに、コンドームのつけるタイミングによっては100%感染症が防げないこともあるのだとか! 例えば、オーラルセックスのときはコンドームをつけずに、挿入時だけ装着。実はこれでは、梅毒は防げないのです。オーラルセックスもコンドームをつけるのが基本。梅毒は粘膜を経由して感染し、しかも感染力が高い菌です。コンドームが覆っていない男性の性器から感染してしまう可能性は否定できないそう。

パートナーとも梅毒や性感染症について話をしてみる

梅毒だけでなく、他の性感染症も日本では増加傾向にあると松村先生は言います。

「先進国の中で唯一、AIDS患者報告数が毎年伸びています。さらに性器ヘルペスウイルス感染症なども増加傾向にあります。『まさか自分がなるわけがない』という危機感の甘さも性感染症の蔓延に影響していると思いますね。まずは身近にある問題と思うことです。パートナーと性感染症について話し合ってみるのもいいかもしれませんね。欧米では、こういった問題をパートナーと普通に共有できる国が多くあります。日本も少しずつ変わるべき時期に来ていると思いますね」

梅毒は知っていれば対策もできて、影響も少なくて済む性感染症。「私には関係ない」なんて言っていられない今の状況、自分の身と未来は自分で守って。

■お話を伺ったのは…

松村圭子先生

婦人科専門医。成城松村クリニック院長。日本産科婦人科学会専門医。元大妻女子大学非常勤講師。女性ホルモンや生理、身体の仕組みを分かりやすく教えてくれる医師としてメディアでも活躍中。著書に『女30代からのなんだかわからない不調を治す本』(東京書店)、『医者が教える女性のための最強の食事術』(青春出版社)など。