馬力は新車時でも最大10%程の差がある

 同じメーカーの同じエンジン、しかも新品同士を比べても、なんだか調子がよくって、吹けがいいエンジンと、なんとなく回転が重くて、力がないように感じるエンジンというのは存在する。いまの国産のエンジンなんて、ものすごい精度の高さで作られているはずなのに、なぜこのような差が生じるのか? それともこの差は“感じ”の違い、あくまで主観的な問題で、客観的には大差はないのか?

 結論からいうと、最新のエンジンでも、当たり・はずれはやっぱりある。たとえばノーマルエンジン同士で戦うワンメイクレースの車両だと、筑波サーキットのようなテクニカルなコースでも、エンジンの当たり・はずれで、コンマ1〜2秒のタイム差はある。ストレートが長いFSWなら、その差はもっと顕著になるはずだ。

 シャシダイで計れば、およそ5%程度、最大で10%ぐらいの違いはあるかもしれない……。新品時から10%もパワーダウンしたら、そろそろオーバーホールを検討する人だっているぐらいなのに、最初からそんなに大差がついているとしたら納得できない、と思うかもしれないが、これは工業製品の宿命というもの。

 エンジン関係の部品点数は、およそ1万点。その一個一個に設計図があって、細かい寸法が定められている。その数字に寸分違わず組み立てられれば、基本的に差は生じないはずだが、何万台も製造する量産車のエンジンのパーツを、全部ピタッと同じ寸法で作るのは実質不可能。そこで、自動車メーカーは設計図の基準値に対し、プラスマイナスいくつまでのズレはOKという「公差」というのを設けている。

 たとえば、シリンダーヘッドの歪みは、最大0.2mmまで。クランクの曲がりは0.02mmまで。ピストンやコンロッドといった回転部分の重量物の重量差は、±1gまで。ブロック上面の歪みは0.1mmまで。ピストンの外径は0.01mm以内。燃焼室の容量も、バルブ径や重さも、メタルの厚さも、締め付けトルクも、みんな基準と公差があって、その公差内に収まるように作られている。

 この公差内に収めることを、「精度が高い」というわけで、そういう意味で精度の低いクルマなんて存在しない。しかし、その公差の幅がゆるいクルマ、ゆるいエンジンは、個体ごとの性能差が大きくなってしまうのだ。

「公差」を小さくするほどコストは上がる

 日産GT-RのVR38エンジンが、少数の専門スタッフによる手作業で組まれていることが知られているが、そういう手間ひまをかければ、公差をとても小さく設定できるため、エンジンの当たり・はずれは最少にできる。その代わり、それは当然コストに跳ね返るというわけだ。

 1万個もあるパーツを、それぞれ1/100mm単位までこだわって作り、測定し、それを熟練の技術者が組んだら、エンジンだけで数百万円になってしまう。レース用エンジンのチューナーがやっている作業がまさにそれ。

 一般ユーザーでも、高い技術を持ったチューナーのところにオーバーホールをお願いすれば、純正パーツだけで組んだエンジンでも、「大当たり」のエンジンに組み直すことができるのはそういう理屈。

 もちろん、パーツの公差だけでなく、組み付け精度、エンジンのエイジング(ナラシ運転)の仕方などによっても、エンジンパワーには差が出てくるので、エンジンの当たりはずれは、一概にメーカーのせいとは言い切れない。

 ただ、製造公差があるからこそ、適正な価格で高性能なエンジンがこれだけ流通しているわけなので、縁あって自分の愛車に搭載されたエンジンは、他人のエンジンとは比較せずに、大事に、そして元気よく回してあげればいいのではないだろうか。