大好きだった相手に振られると、感情は時間とともに変化をしていく。悲しみのどん底にいるときに、人は何をすべきか(写真:Fast&Slow/PIXTA)

恋愛において、いったん離れた相手の気持ちを取り戻すことはとても難しい。どんなに努力をしても、手に入らないのが人の気持ちだ。

仲人として婚活現場に関わる筆者が、毎回婚活者に焦点を当てて、苦悩や成功体験をリアルな声とともにお届けしている連載。今回は、「振られて悲しみのどん底にいるときに、人は何をすべきか」だ。

結婚後の住まいなどの話も進んでいたようなのに…

安藤晃一(35歳、仮名)と栗林陽美(39歳、仮名)は、結婚に向けての真剣交際に入っていたが、先日、陽美から交際終了の連絡が来た。

“結婚後にどこに住むか”などの話もしていたようだったので、まもなく成婚するだろうと思っていたら、交際終了の連絡。陽美は、なぜこの答えを出したのか?


この連載の一覧はこちら

「晃一さんは、心のやさしいとても誠実な方です。でも、物事をなんでもネガティブに捉える、あの思考にどうしてもついていけません。何かが起こったときにいつもマイナスの方向に引っ張っていかれたら、結婚しても楽しい生活ができないような気がしました」

晃一と陽美は、正反対の性格だった。陽美は、アクティブなアウトドア派で小さなことにはこだわらない。一方、晃一は、どちらかといえばインドア派で、小さなことが気になるタイプ。

一般的には、価値観や行動パターンが似ている“似た者夫婦”がうまくいくと思われがちだが、私はそうではないという気がしている。価値観や行動パターンは年月とともに変わっていくものなので、ズレが生じたときにお互いの気持ちもすれ違っていくのではないだろうか。

逆に、まったく性格の違う“対極夫婦”は、お互いの欠点を補い合い、どうしたら2人の関係がうまくいくのか、落としどころを年月とともに見つけていく。

これまで送り出した成婚カップルを見ても、似た者夫婦よりも対極夫婦のほうが多かった。

華やかな経歴なのに自己肯定感が低い男

人には、生まれ持った気質がある。その気質に、親の子どもへの接し方、受けた教育、出会ってきた人たち、育ってきた環境が相まって、人格や性格が形成されていく。

晃一が入会面談にやってきたときに、こんなことを言っていた。

「僕は、すごく自己肯定感が低いと思うんです。自分に自信がないし、小さなことにこだわりすぎて、どんどんマイナスな方向に考えが及んでしまう。この性格を何とかしないといけないとは思っているんですが」

この言葉を聞いたとき、とても驚いた。晃一は、超一流大学を卒業し、その後は大手企業に勤め、年収も1500万円あるという華々しい経歴の持ち主だったからだ。

「何も自分に自信をなくす要素はないと思うけれど」

こう言う私に、彼は言った。

「これは生まれ持った気質だと思うんですが、周りで起こる出来事を敏感に受け取ってしまう。あと、弟がいるんですけど、弟は子どもの頃から要領がよくて、僕が親から怒られているのを見ると、自分は怒られないようにうまく立ち回っていた。怒られるのはいつも自分、褒められるのは弟という図式の中で育ってきたんですよ」

さらに、これも持って生まれた気質なのだろう。記憶力がずば抜けてよかった。

「そこは勉強では得した部分だと思います。でも、どんなことでも覚えているので、周りで起こる些細なことが気になってしまう。人に言われたことにも過度に反応してしまうから、すごく生きづらい」

確かに人から言われたこと、やられたことをいちいち覚えている人よりも、大雑把に捉えて笑って流せる人のほうが、うまく人間関係を築けるし、生きやすいだろう。

陽美はまさに後者のタイプだった。そこで勧めた見合いだった。おおらかで明るい陽美ならば、彼の性格をうまく受け入れ、2人がそれぞれの短所と長所を補い合い、いい関係を築いていけるのではないかと思っていた。

プロフィールを互いに見せると、それぞれ「ぜひ会ってみたい」という。

そして見合いをし、その後は、交際に入った。

性格が違うからこそ、補い合えると思ったが……。

晃一は、付き合いを重ねていくうちに、明るい陽美にどんどん惹かれていった。しかし、好きになればなるほど、持ち前の物事をネガティブに捉える心配症の性格が頭をもたげてしまった。

「メールを入れても、レスがその日にこないことがあるんですよね」

「今の関係って、9対1だと思うんです。僕が9思っているのに対して、向こうは1くらいしか気持ちがないと思う」

「何かいつも僕が彼女に合わせている気がするんです。デートの日にちも会う時間も」

気持ちが100%陽美に向いているからこそ、陽美の一挙手一投足が気になってしかたがない。

距離が近づくにつれ、性格の違いがより露わに…

あるとき陽美から、「面談をしたい」と申し出があった。会うと、彼女がまずはこんなことを言った。

「この間、風邪をひいて2日間寝込んだんですけど、『具合はどう? 大丈夫?』ってメールが頻繁にきたんですよ。病気のときは静かに寝ていたい。『心配してくれるのはうれしいけれど、放っておいてくれるのも愛情だよ』って言ったんですね」

しかし、晃一にとっては、陽美の容態が心配でたまらない。“放っておくのも愛情”と言われ、症状が確認できないままただ待つだけの時間は、つらかった。

とはいえ陽美も、晃一の誠実さや優しさは十分に感じていたし、結婚には前向きでいた。

そして2人は、結婚を前提にした真剣交際に入った。しかし、真剣交際に入り距離が近づくと、性格の違いがより露わになっていった。

お見合い以来、毎週末デートを重ねていた2人だが、ある週末、陽美が仕事で会えないことがあった。その翌週、「2週間ぶりに会える」と心躍らせていた晃一に、陽美がダブルデートを提案してきた。

「今度の土曜日、大学時代の親友と親友の彼と私たちの4人で会うことにしたけど、いいかな」

それを聞かされた晃一は、急に不機嫌になった。2人で会う約束だったのに、なぜ4人で会わないといけないのか。

不穏な空気が流れたが、そこは晃一が折れて、最初は4人で会って2時間ほど会食をし、その後は2人のデートを楽しんだ。

晃一にしてみると、陽美は自分の都合や考えで、決めていた予定をどんどん変えていく。そこにいつも自分が付き合わされる。振り回される。

しかし、陽美にとってはそこにまったく悪気はないし、晃一を振り回しているつもりもなかった。

交際終了を決めた出来事

そして、ついに陽美が交際終了を決意する出来事が起きた。

その日は休日で、陽美は行きつけのヘアサロンを予約していた。終わる時間を計算し、夕方6時にサロンの近くにあるイタリアンレストランを予約していたのだが、思いのほかサロンが早く終わった。

『予定よりもずっと早く終わって5時にはお店に行けそうだから、1時間早く待ち合わせしよう』

実際は、5時よりもさらに早くお店に行けたので、先に入りビールを飲んでいた。すると、明らかに不機嫌な形相で晃一が店にやってきた。

そのときのことを、陽美は私にこう話した。

「顔がもう怒っていて。“えっ、私、いったい何をしたんだろう?”って、ドキドキしちゃったんです」

やってきて座るなり、晃一は言った。

「待ち合わせの時間を変えるなら、もっと早めに言ってほしい。この間も、お昼に会う約束が、陽美ちゃんの予定で3時になったよね。何だかすごく雑に扱われている気がする」

「雑に扱われている」という言葉に、それまで何とかうまくやろうと頑張ってきた思いと、ずっと抑えてきた感情が一気に噴き出し、陽美はボロボロ泣いてしまったという。

彼女は、これまでの晃一との付き合いを私にこう振り返った。

「親友とタブルデートをしようと決めたのは、親友に付き合っている晃一さんを紹介したかったから。お昼の約束を3時に変えたのは、どうしても外せない用事ができたからだし、ヘアサロンが早く終わったのだから、早く会いたいと思った。こっちがよかれと思って提案していることを何でもネガティブな方向に取っていく。この人と結婚生活をしていくのは難しいと思いました」

これまで些細なことでケンカしても許し合って、結婚へと前に進んでいたのだが、陽美が最終的に下した結論は、“交際終了”。

その後、晃一が、「これからは大切な人を悲しませないように、この性格を変えていくようにします。もし可能ならもう一度話をしませんか?」と、LINEを入れたようだったが、陽美の気持ちは変わらなかった。

陽美に振られてからの晃一は、はたから見えていても気の毒なくらい落ち込んでいた。

翌日、私のところにこんなLINEがきた。

「昨日は、頭が真っ白で何も考えられなかったんですが、一晩寝て、つらいけれど、現実を受け入れようと少しずつ思えるようになりました。今回の失敗を次に生かしたいです。考えてみれば、彼女が悪意なくしてきた言動に、僕がいちいち過剰に反応していた。これからは、小さなことが気になってしまうこの性格をうまく改善できるように、自己肯定感を上げていきたいです」

悲しみのどん底にいる晃一に、私は新しい見合いをすることを提案した。

大好きだった相手にフラれた会員に、仲人としてまずするのが、 “恋の上書き”の手助けだ。悲しみの中に何もせずに浸っていたら、悲しみの渦は広がり、それが負のスパイラルとなる。止まらずに動くことが大事。私は、知り合いの仲人に連絡をし、見合いできる相手がいないか探し、まずは見合いを組んだ。

そして、振られてから1週間経った頃、晃一からこんなLINEがきた。

「最初は、ただただ悲しかったのが、今は悲しみの中に怒りも混じってきました。どうして最後の話し合いもしてくれなかったんだろう。やっぱり雑に扱われていたな、と。終わったことをそんなふうに考えるのは生産的でないと思うのですが、それが今の素直な感情です。早く忘れて前に進もうと思います」

このメールを読んで、彼の気持ちの動きが、もう立ち直る方向に向かっていると確信した。それは、“喪の作業”が始まっていたからだ。

1つの恋愛が終わったときにすること

大好きだった相手に振られると、感情は時間とともに変化をしていく。

別れを告げられたばかりのときは、つらくて、苦しくて、胸が痛い。この時期は、どんな別れ方をしたにせよ、相手がいとおしくてたまらない。かかってくるはずのない電話を期待したり、メールがくるんじゃないかとチェックしてしまったりする。

涙をこぼすのもこの時期だ。

しかし、この一定期間が過ぎると、相手に対して怒りを覚えるようになる。

「なんで一方的に振ったんだ」「別れるにしても、せめて最後に話をすることが付き合ってきた者同士の礼儀じゃないか」

実は、この怒りを覚えることが恋愛を終焉させるうえで大事なことだ。

さらにその後、失意失望の時期がきて、後に気持ちがなだらかで平坦になり、1つの恋愛が終焉する。

この一連の感情の流れを、心理学用語で“喪の作業”という。人が亡くなると葬儀をするように、これは恋愛に別れを告げるためのセレモニーだ。

私は、晃一が失意のどん底にいるときに、こんなアドバイスをした。

「“出さない手紙”を書くといいですよ。悲しみも怒りもそこに書き連ねる。そうすると、思いのほかスッキリするんです。ただこの手紙は、絶対に出してはいけないのね」

失意失望の時期に、心の隙間を埋めたくて宗教や占いにハマってしまう人たちもいるが、晃一にはその時期にはどんどんお見合いをして、恋の上書きができる相手を探してほしいと思っている。

晃一にとっても、陽美にとっても、新たな婚活の第2幕が始まる。仲人として、2人の婚活を精一杯応援したい。