「気持ちを切り替えて、次の試合に臨みたい」とは試合後、マイクを向けられた選手がよく口にする言葉だ。一方で「しっかり修正して次戦に臨みたい」。「いい準備をして臨みたい」もよく使われる。本心なのか。あまり答えたくないとき、喋りたくないときに用意してある常套句のようにも見えるが、アルゼンチンにまさかの引き分けに終わった、なでしこジャパンの選手たちも、その手の言葉を例外なく口にした。

 気持ちを切り替えることはいいことだ。しかし、切り替える前にするべきこともある。反省、検証をせずに先に進めば、苦戦や敗戦を財産にすることができない。それはこの業界全体について言えることだ。先に先に行こうとする傾向がある。プレビューとレビュー。目に付くのは前者だ。勝ったときはいつまでも振り返ろうとするが、負けた時は振り返ろうとしたがらない。さっさと忘れようとする。
 
 よって反省を積み重ねることができない。まるで初めて出くわしたかのように、新鮮そうに驚く。女子W杯初戦。なでしこジャパンはアルゼンチン相手に0-0で引き分けてしまった。ひたすら守りを固めるアルゼンチンに、ボールを支配しながらもゴールを奪うことができなかった。
 
 引いて構える相手に対応できなかった、となる。実際、テレビのインタビューに選手はそう答えていた。引いて構える作戦は昔から存在する古典的な手法ながら、それに新鮮そうに驚くなでしこの選手たち。経験の少なさもあるだろうが、それが常識問題になっていないところに、問題の根の深さを感じる。
 
 引いて構える相手にはサイド攻撃が有効だとは、10年以上前から浸透している常識的な攻略法だ。ディフェンスラインの背後にスペースはなくても、サイドには侵入する余地がある。相手のサイドバックの裏を突き、センターバックをおびき出す。トライする価値のあるプレーだ。
 
 それがなでしこジャパンは徹底できなかった。意識して突いている様子さえ見られなかった。常識として浸透していないことは、試合後の選手の言葉を聞くと、より一段と鮮明になった。

 かつては引いて構える手法は普通に存在した。引いて守ってカウンターを仕掛けるサッカーだ。チャンピオンズリーグ史で言えば、00-01シーズンに優勝したバイエルンがその典型的なチームになるが、以降、その数は急速に減った。サッカーが攻撃的になり、よいストライカーが現れ、守り倒せなくなった。作戦として通じにくくなったからだ。サイド攻撃が引いて構える相手に有効な対処法であることも、その過程の中で明らかになっていった。あくまでも確率的な問題で、絶対的ではないが、日本でもそれなりに語られてきたはずだ。テレビ解説者の口からもしばしば発せられていた。しかし、今回の一戦では聞こえてこなかった。

 気持ちを切り替えて、そのまま先に進まない方がいいと言いたくなる理由でもある。サイド攻撃が有効ではないパスサッカーは、世界の情勢に照らせば、一番危なっかしいサッカーだと言いたくなる。

 相手が引いたらサイドを突け。実際、日本におけるこの対処策の浸透度は、世界より高いとは言えない。Jリーグを中心に、後ろで守るサッカーが蔓延る姿にそれは証明される。サイド攻撃の追究が甘いパスサッカーを相手がすれば、引いて守る側はカウンターを有効な武器にすることができる。

 その辺りの議論が熟さないまま、ここまで来てしまったのが日本だ。日本代表の過去を振り返ればそれはハッキリする。そもそも長年、後ろで守るサッカーをしてきた自覚がないところに問題がある。加茂、岡田(第1次)、トルシエ、ジーコ。ここまでは、完全に後ろに下がって守るサッカーだった。