野町 直弘 / 株式会社クニエ

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コンサルティングプロジェクトの現場や研修でケーススタディなどをやっている時にこういう声をよく聞きます。「情報がないから決められません、分かりません。」

一例を上げると、こういうことです。購買案件がでてきた時に「仕様が固まっていないから、ソーシングができない。」確かにおっしゃる通りでしょう。もちろん仕様を決めるのはユーザーであり開発部門の役割です。それを元に調達業務(ソーシング)を行うのがバイヤーの仕事。だから仕様が固まっていなければ(情報がないから)決められないということです。

一方で、ユーザーや開発部門が必ずしも仕様を決められなかったり図面を書けないものも少なくありません。例えば仕様決定に専門性が必要な品目については仕様決定を行う役割・機能が別にあるケースも少なくありません。ITや物流、マーケティングなどの品目はユーザー部門に代わり業務要件を仕様に落としこみます。

しかしそのような専門部署が必ずしも全ての仕様決めに関われるとは限らないでしょう。そうすると購買部門が仕様書作成のサポートをする、もしくはサプライヤに仕様固めの協力を依頼する、サプライヤに図面を書いてもらう、ということです。

私が知る範囲では、例えば自動車メーカーの設計者は殆ど設計はしていません。基本はゲストエンジニアというサプライヤのエンジニアに図面を書いてもらっているのが実態です。そのため自動車部品のサプライヤレイアウト(発注方針)は部品メーカーの設計者の数によるとも言われます。設計能力があるサプライヤに発注が偏るのです。

しかし立ち返って考えてみると、これはいけないことなのでしょうか。そもそも外部リソースを活用(つまり調達)するのはその方が有利だからです。特に昨今では新しい技術開発を自社で全て賄うことはできないので外部リソースを活用するのは当たり前のこと。以前のように外注=中小企業=人件費が安い=低コストだから外部ソーシングする、というのは昔の発想です。

これは自動車部品のような直接材だけでなく、間接材も同じで、システム構築、マーケティング、印刷なども社内で仕様が決められないのであればサプライヤに協力してもらい仕様を固めればいいことでしょう。仕様はユーザーが決めるもの、という筋論だけでは、いつまでたってもビジネススピードについていけません。

もちろん仕様を社内で固めないと、同じ土俵でサプライヤを競わせることはできません。つまり仕様が社内で固められない場合、どこのサプライヤと組んでいけばよいか、の、適切な判断が求められるのです。

つまり競わせ方が変わってきます。サプライヤの評価もQCDだけではなく、どういうサービスが提供可能なのか、どういう技術を持っているのか、信用力や設備保有、設備の稼働状況がどうなのか、どういう人材がいるのか、などの複合的な要素からサプライヤの得意分野を見極め、適切なサプライヤをパートナーとして選定することが求められるのです。このように、相見積とって一番安い所を選びましょう、というような簡単な意思決定ではなくなります。

しかし考えてみよう、実は情報がない、というのは大きなチャンスではないでしょうか。「決まったものを安く買う」のは限界がある、とバイヤーは常日頃言っています。開発購買が効果的なのは、情報がない、決まっていないからコスト削減のチャンスが大きいのです。

これは購買業務におけるサプライヤ選定業務だけに限りません。全ての意思決定で「情報がない」段階で適切な判断ができる能力が求められているのです。以前、何かの本で読んだことがありますが、優秀な経営者は限られた情報の中で、過去の経験などを踏まえ、良い判断をする能力が高いそうです。このような能力を高めない限り業務は作業になり、RPAやAIに置き換わっていくでしょう。

これからのバイヤーはこういう意思決定をやっていかなければなりません。そのためにはより高度な情報収集能力や論理的な判断力が求められます。まずは、「情報がないから決められません」ではなく、こういう機会をチャンスと捉えていくことが重要ではないでしょうか。