「森保一監督が日本代表で初めて用いた3−4−2−1というシステムは、ロシアワールドカップでベルギー代表が使い、成功を収めている」

“スペインの慧眼”ミケル・エチャリ(72歳)は、スコアレスドローに終わったトリニダード・トバゴ戦の森保ジャパンのシステムについて、そう解説した。

「個人的には、スペースを支配するという点で理にかなったシステムだと考えている。同じラインの選手同士、ライン同士の距離感を、どちらも正しく作りやすい。ウィングバックによって幅を使い、深さも作れる。攻撃では(ウィングバックによって高い位置で)コンビネーションを使えるし、守備では(スペースを埋めて)お互いにカバーできる利点がある」

 エチャリはスペインの名門、レアル・ソシエダで強化部長などの要職を歴任し、多くの指導者たちと向き合ってきた。ヴィッセル神戸の監督を務めたフアン・マヌエル・リージョも”生徒”のひとりで、2人はレアル・ソシエダで強化担当と監督としてともに戦ったことがある。また、エチャリは監督養成学校の教授も務めるなど、その視点は極めて専門的である。

「森保監督の意図は理解できる」

 戦術マスターはそう言って、トリニダード・トバゴ戦の分析を始めた。


トリニダード・トバゴ戦の前半、積極性が高く評価された中島翔哉

「一方のトリニダード・トバゴは4−1−4−1のようなシステムを採用している。基本的にはリトリートし、お互いのカバーを徹底。正面からの攻撃に対して、パワーのある選手を配置し、まずは失点を避け、ダメージを最小限にする戦い方で、序盤はカウンターの機会もほとんどなかった。

 日本は前半、64%のボール支配率を誇ったことからもわかるように、優勢に試合を進めた。

 際だっていたのは、1トップの大迫勇也(ブレーメン)の背後に入った中島翔哉(アル・ドゥハイル)だろう。開始早々、中へ切り込んでのシュートに積極性が見え、その後も次々に仕掛けている。前半7分、左サイドから逆サイドの堂安律(フローニンゲン)へ送ったクロスは際どかったし、前半30分、左サイドからリズムをずらして大迫に送ったクロスも質は高かった。

 右利きの中島が左サイドから中央に切り込み、シュートを放ったり、ラストパスを入れて躍動する。その一方で、長友佑都(ガラタサライ)がタッチラインを駆け上がって、幅を使いながら、深みも作っていた。ウィングバックとシャドーが連動する形は戦術的な狙いどおりで、右サイドの堂安と酒井宏樹(マルセイユ)との関係性もそれに近かった。

 守りを固めてくる相手に対し、戦術的には正しいチョイスと言えるだろう。ピッチの中央とサイドでボールの方向を目まぐるしく変えることによって、守備陣の混乱を引き起こしていた。中島が蹴った直接FKがバーを叩いたり、GKの必死のセービングに防がれるなど、いくつかあったチャンスで先制点を決めていたら……戦いの印象も変わっていたはずだ」

 エチャリはそう言って、戦術デザインを具体化できていたことを評価した。もっとも、手放しに賞賛しているわけではない。

「日本がゲームを支配していたのは間違いないが、攻撃そのものはスピードが足りなかった。リトリートし、ブロックを作った相手を崩し切るのに十分なコンビネーションのスピードを作れていない。前半30分を過ぎてからは、明らかに勢いも落ちた。またCKも、バリエーションを出そうとしていたが、効果的ではなかった。

 そして後半は、トリニダード・トバゴのカウンターに苦しんでいる。

 後半10分、単純な縦パスに対応できず、昌子源(トゥールーズ)が足の速い相手FWに走り負けてしまい、ゴール前まで突破を許す。(スペースを)カバーするポジションを取れていなかった。1対1に対応したGKシュミット・ダニエル(ベガルタ仙台)のシュートブロックで事なきを得たが、迂闊だったと言えるだろう。

 日本はその後、攻撃の効率性が徐々に低下している。両チームともに次々と交代カードを切ることによって、お互いが戦況を見守り、動きが少なくなった。80分近くまで、試合は膠着した。

 一気に流れが変わったのは、長友に代え、原口元気(ハノーファー)を投入したあとだろう。

 原口が左サイドで推進力を与える。これで、すでに交代で入っていた南野拓実(ザルツブルク)、伊東純也(ゲンク)、室屋成(FC東京)などが躍動。ボランチの柴崎岳(ヘタフェ)も攻め上がる格好で、圧倒的に攻め寄せた。残り10分で10本近いシュートを打ち込んでいる。アディショナルタイム、CKからの昌子のヘディングシュートはほぼ完璧だったが、ゴールは決まらなかった。

 好セーブを連発したトリニダード・トバゴのGKマービン・フィリップが、この日の主役だったと言えるだろう」

 エチャリは相手GKのプレーを讃えた。そして戦術的な試験に挑んだ森保ジャパンをこう総括している。

「(0−0という展開のなかで)過去の日本代表のように前がかりになって、人数をかけるという戦術的ミスを犯さなかった。新たなシステムを用いながらも、我慢強く戦えた点は、評価するべきだろう。日本人選手のスピードと技術を、システムに適合させることによって、今後は満足できる結果を得られるだろう。その可能性を示した一戦だった」
(つづく)