チケット争奪戦のプロ野球、転売対策は進むか
ベイスターズのホームゲームの様子。満員状態が続いている(写真:横浜DeNAベイスターズ提供)
近年、プロ野球の人気は総じて右肩上がりだ。
5月8日には、セ・パ両リーグから、ホームとビジターでの対戦が一巡した時点での観客動員数が発表されたが、セ・リーグは前年同期比1.0%増の平均3万3606人、パ・リーグは同6.3%増の平均2万7328人だった。観客の数は今年も伸びている。
人気上昇に伴って、チケットの争奪戦は熱を帯びている。とくに人気が高い球団の試合は、販売開始からすぐに売り切れてしまうことも珍しくない。
そうした状況の中、陰で不正転売業者が暗躍していることは、かねて問題視されてきた。さまざまな手段でチケットを買い占め、ネットオークションなどで高額で売りさばいて利益を得る“転売屋”の存在は、ただでさえ競争率が高くなっているチケットの購入をさらに難しくし、一般のファンに少なからぬ負担と不便を強いている。
ベイスターズではチケット不正転売対策を強化中
各球団が対応に苦慮するなか、この問題にいち早く取り組んできたのが横浜DeNAベイスターズだ。
今年2月、「公式ファンクラブ入会時および入会後の本人確認の強化」「横浜スタジアム入場時の身分確認の強化」「公式の二次流通マーケット設置の検討」という3つの対策を進めることを発表。実際、シーズン開幕後は、係員がランダムに客席を回って身分証の提示を求め、券面と名前が異なる場合に入手の経緯を聞き取るなど、実態の把握と不正の排除に力を入れている。
ベイスターズはなぜ、不正転売対策に乗り出したのか。チケット部の部長、野田尚志氏は言う。
横浜DeNAベイスターズ事業本部チケット部部長 兼 飲食部部長の野田尚志氏(編集部撮影)
「チケットを販売するうえで大切にしているのは、公平・公正であること。私どもはルールをオープンにし、お客さまはそのルールに則って、(先行購入権利を得られるよう)観戦の回数を増やしてファンクラブのステージアップに努めたりしています。
大多数の人がルールの中でチケット購入の努力をしているからこそ、不正に転売するような行為は看過できないんです。
現時点で『対策は難しいだろう』と考えられているところがありますが、“良質な非常識”に挑戦するのがベイスターズの理念でもあり、『確かに難しいかもしれないけど、やってみましょう』と、不正転売対策への取り組みがスタートしました」
ただ、予想していたとおり、その道は険しいものだった。
ライト後方に設置されたウィング席のキャパシティは3500席、2020年にはレフト側後方にも3500席の増設が計画されている(編集部撮影)
ベイスターズの本拠地である横浜スタジアムには、ライト側スタンドの増築・改修工事を終えた今シーズンからウィング席(約3500席)が新たに設けられ、ほとんどの試合で3万〜3万2000人近い観客が押し寄せる。
ホームゲームは年間で約70試合。このペースでいけば、球団史上最多を更新する、延べ220万人ほどの動員が見込まれるという。
この膨大な母数の中から、不正転売されたチケットを特定しなければならないのだ。
ベイスターズの試合時のハマスタの様子。この中から不正転売されたチケットを特定するのは至難のわざだ(写真:横浜DeNAベイスターズ提供)
先述したとおり、来場者の身分証とチケット券面を照合し、不一致の場合は、入手の経緯を確認。
知人間の譲渡なのか、営利目的の悪質な転売によって譲渡されたものなのかを見極める。
もちろん、オークションサイトなどに出品されたチケット情報の確認も常時行っているほか、人気の席種をいつも上限枚数いっぱいまで購入する人には注意を払い、そのチケットが購入者本人によって使われているかどうかもチェックする。
大量購入している人が単に熱心なファンであり、仲間のチケットを買っている可能性も当然あるわけで、拙速な判断は禁物だ。不正に流通しているチケットは数%にすぎないので、それを見つけ出すのは困難を極める。
野田氏によれば、不正転売を行う人物は、ファンクラブ会員の中に紛れている可能性があるという。
「ステージが高いファンクラブ会員ほど真っ先に人気席種のチケットを購入できるので、不正転売を考える人はそのカテゴリーに含まれている可能性が高い。不正が確認できた場合は退会処分にして、以後チケットを買えないようにするというペナルティを科すことで対応しています」
これまでは、あくまでファンクラブ会員規約への違反が処分の根拠だった。チケット購入の手段を断つことはできても、球団がそれ以上の罰則を与える権限はない。
6月14日からチケット不正転売禁止法が施行
ただし、今後は状況が変わる。6月14日からチケット不正転売禁止法が施行されるからだ。この法律は、定価を超える価格での譲渡を業として行う(反復継続して行う)ことを禁じ、違反すると1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金(または併科)の対象となる。
「法の施行後は、不正転売は犯罪行為に当たるので、場合によっては警察と連携する必要も出てくるでしょう。そうなれば撲滅に近づいていくと期待しています」(野田氏)
横浜スタジアムの新名所であるウィング席から見た球場の風景(編集部撮影)
総数に上限があるチケットを、公平・公正に行き渡らせることは案外難しい。
チケットの総数を上回る数の購入希望者がいる場合に、どういう販売手法を採用するか。球団によって考え方が分かれるところだろう。
ただ売るだけなら、極端に言えば、すべてのチケットを1つのどんぶりに盛って、早い者勝ちで売るような方法もあるだろうし、転売業者の買い占めに目をつぶって売ることだってできる(法施行後も、興行主=球団には「適正な流通の確保」に関する努力規定はあるが、対策が義務づけられているわけではない)。
一部の人だけがたくさんのチケットを購入できたり、目当てのチケットを買えなかった人の不満が膨らんだりはするだろうが、すべて売り切ってしまいさえすれば球団の売上に影響はない。
プロ野球のチケット不正転売対策はどこまで進むか
だが、球団が手にするものは変わらないからこそ、チケットの売り方はファンへの向き合い方、顧客重視の度合いを浮き彫りにするような気がする。
ベイスターズのオフィシャルパフォーマンスチームdiana(ディアーナ)と満員のハマスタ(写真:横浜DeNAベイスターズ提供)
ベイスターズの現在の人気を考えれば、開幕前に全主催試合の指定席チケットを売り出せば、ほとんど売り切ることができるはずだ。
また、ベイスターズがチケットの不正転売対策に積極的に取り組んだところで、コストこそかかるものの、チケット収入が増えることはない。
にもかかわらず、販売時期・チャネルの分散化や不正排除への手間を惜しまないのは、ファンの利便性や公平性を第一に考えているから、とも言えるだろう。
法の施行を追い風に、ベイスターズからの転売業者の駆逐が本当に進むのか。2月に発表した3項目の1つ、公式の二次流通マーケット設置がはたして実現可能なのか。ベイスターズのチケット流通に対する取り組みはまだ始まったばかりであり、苦労に値するだけの成果が得られるかどうかは未知数だ。
それでも、この問題から目を背けず、解決の道を探る姿勢は評価にあたいする。他球団も、正当な手段でチケットを買うファンのことを思うならば、不正転売防止に取り組む姿勢をより鮮明に打ち出すべきではないだろうか。