先日の記事でも紹介した新幹線による海産物輸送の実証実験に行ってきました。

この記事、公開直後に「新幹線版の鮮魚列車では!?」という反応をたくさんいただきました。現代で鮮魚列車といえば、やはり近鉄の運行する日本で唯一の行商専用列車を連想します。以前も記事にしましたが、現在ではこの鮮魚列車に乗車するツアーもたびたび企画・開催され、好評を博しているようです。

とはいえ今回の実証実験はその鮮魚列車とは特に関係ありません。手掛けるのはJR東日本スタートアップ株式会社と水産物の卸・小売を手がけるフーディソン。今回は宮古からウニを、佐渡から甘エビを、それぞれ新幹線で輸送します。

岩手から品川へ

東北新幹線の「やまびこ44号」が東京駅へやってきました。輸送には業務用のスペースを活用するとのことで、5号車の4号車寄りドアにて荷おろしが行われます。

発泡スチロールの箱入りなのでぱっと見では海産物と分かりませんが、これは宮古市魚市場からJR盛岡駅を経由して運ばれてきたウニ。実験ということで今回は数箱のみです。東京駅で荷下ろしされたウニはそのまま品川の「sakana bacca」エキュート品川店へ輸送されます。

到着した海産物の販売風景がこちら。左隣はこれまた新幹線で輸送された佐渡の甘エビ。

ウニは殻付き・瓶入りどちらも買えるようになっています。その気になれば甘エビと一緒に買っていくことも出来ますね。

最高の状態で食べたいなら現地に行かなければなりませんが、我々は身一つですので、宮古でウニを食べると佐渡の甘エビを、佐渡で甘エビを食べると宮古のウニを諦めなければなりません。その両方をほぼ獲れたての状態で、しかも都内で購入できるのは大きなメリットと言えるでしょう。ネットで予約すれば買い損なうこともありません。

新幹線を使った海産物輸送の可能性

新幹線を使った食品の輸送自体は過去に例がないわけではありません。JR東日本も2018年に「産直新鮮!採れたて野菜フェア」を開催しています。ただしこれが海産物の輸送となると、少なくともJR東日本では前例がないとのこと。記者会見ではこの新幹線を使った鮮魚輸送の強みについて説明されました。

(1)とにかく早い

JR東日本の新幹線を使うメリットはとにかくその「早さ」にあります。同じ海産物をトラックで輸送した場合、消費者の手元まで運ぶのに2日間はかかってしまいます。これが新幹線なら朝獲ったものを夕方に店頭に並べられる。

もちろん「市場の営業時間」といった速度以外の要因も絡んできますので単純な比較は出来ませんが、既存の流通網より速度面において優れているのは、鮮度重視の海産物を扱う上で大きなアドバンテージになります。

(2)「エキナカ」という立地

「エキナカ」というJR東日本の資産を活用している点も見逃せません。都内のどこかに店舗を構えると、やはり駅周辺の方々がメインの顧客層として固定されてしまいがちですが、品川のエキナカに店舗を構えれば東海道新幹線の利用者や山手線に乗る通勤者、品川を通過するあらゆる乗客が潜在顧客となり得ます。

より広い範囲の人々にこの美味しい海産物を味わってほしいと考えるなら、エキナカに店舗を構えるのは噛み合った判断と言えるでしょう。

(3)多種多様な海産物を体験する

島国である日本は全国各地に漁場を備えており、季節によって多種多様な海産物を楽しむことが出来ます。しかし流通の問題で実際に購入するのは見慣れた魚ばかりという事態に陥りがちです。

ターミナル駅と新幹線を使用する超高速輸送はこの問題を解決し、全国各地の美味しい海産物を実際に現地に赴かずに味わう、といった体験を可能にします。

新幹線を使った海産物の超高速輸送が全国規模のものになるかどうかはまだ分かりません。現状では実証実験の段階であり、需要があるかどうかも未知数です。路線が繋がっている限り新幹線を使った海産物輸送の可能性はありますが(仮に事業として成功したとしても)、やはりJR他社と議論した上で合意に至る必要があるとのこと。

しかし北海道や四国・九州の海の幸が東京まで流入するとなると、都内でそれらを体験することで逆に地域の魅力発掘に繋がる可能性もありますし、あながち夢物語とは言い切れません。将来的には最近試験走行が行われた「ALFA-X」などで海産物が運ばれる日も来るかもしれませんね。