ディーラーによると置きかわるという情報はない

 2019年2月に海外仕様のハイエースが披露された。荷物を積むふたり乗りのバンから、17人乗りのコミューターまで、さまざまなタイプがある。ボディサイズは、標準ボディの全長が5265mmでロングは5915mmだ。全幅も1950mmとワイドになる。ロングボディの大きさは、トヨタ車でいえばコースターの6255mm×2080mmに近い。

 日本で販売される現行ハイエースバンのサイズは、ロングの全長が4695mmで、全幅は1695mmの4ナンバー車だ。スーパーロングは1ナンバー車だが、4840mm×1880mmだから、海外仕様に比べれば大幅に小さい。

 この海外仕様が披露されたことで「現行ハイエースが廃止され、後継モデルはボディが大幅に拡大されるのではないか。今のうちに4ナンバー車を買っておいたほうが良いかも知れない」という噂も立っている模様だ。そこでハイエースを扱うトヨペット店に尋ねた。

 返答は「インターネットなどで、今後登場するハイエースが話題になっているのは知っている。ただし今のところ、メーカーからは何も聞いていない」という。

 トヨタはかつて4ナンバー車だったピックアップトラックのハイラックスを廃止して、大幅にボディを拡大した現行型を復活させたが、ハイエースでは対応が異なるだろう。ハイエースは、ハイラックスと違って人気が高いためだ。2018年の登録台数は、姉妹車のレジアスエースバン(ネッツトヨタ店扱い)を含めると約5万8000台に達した。1カ月平均なら4800台だから、乗用車でいえばアルファード(ヴェルファイアを含まない)と同等で、商用車としてはきわめて堅調に売れている。

 そうなるとニーズに応じて海外向けの大型ハイエースを加えることがあっても、4ナンバー車の廃止は考えにくい。倉庫に車両を入れて荷物の積み降ろしをするときなど、全幅が255mmも広がると、作業性が一気に悪化するからだ。全長が約6m、全幅が約2mでは、裏道の通行や左折も難しい。

現行ハイエースで不足しているところは見当たらない

 また海外向けのハイエースは、エンジンを前席よりも前側に搭載するミニバン的なレイアウトだから、前席の下に収める日本仕様に比べて空間効率が下がる。従ってボディの大柄な海外向けを日本で売っても、売れ行きを伸ばすのは難しい。

 そして4ナンバーサイズのハイエースは、ボディサイズの割に荷室が広くフラットで使いやすい。まさに日本向けの商用バンだ。エンジンが前席の下にある後輪駆動車だから、着座位置は高いが、シート形状はスムースに乗り降りできるように配慮されている。その上でシートは腰をしっかりと支えて座り心地に配慮した。インパネも機能的で見やすい。

 さらに商用バンなのに乗り心地の粗さを抑え、とくにスーパーGLは柔軟だから長距離を移動しても疲れにくい。これらの特徴がハイエースの評判を高めた。

 過去の実績も見逃せない。30年くらい前のワンボックスバンは、1輪だけ歩道に乗り上げて駐車すると、車種によってはスライドドアの開閉が困難になった。ボディが捩れるからだ。平地で暫く走れば元に戻ったが、スライドドアを使えないと作業性が悪い。

 この点でもハイエースは、ボディが捩れにくかった。商用バンを使う人たちの間で「選ぶなら耐久性の優れたハイエース」という評判が立った。そうなるとユーザーは、よほど嫌なことがない限り、次のクルマもハイエースを選ぶ。従って需要が安定的に続くわけだ。

 現行型を含めて高値で売却できることも、ハイエースの人気を高めた要因だ。海外でも人気車だから活発に輸出され、売却額を押し上げる。トヨペット店のセールスマンは「商用車は使われ方が粗いから、通常は乗用車に比べると数年後の価値が大幅に下がる。ところがハイエースは、5年後でも新車価格の60%で売却できることがあり、きわめて条件が良い。20万kmを走った10年落ちの車両など、通常は価格を付けられないが、ハイエースなら買い取りの対象になる。そうなるとお客さまは、次のクルマも必ずハイエースを選ぶ。商用車は法人のお客さまの資産に含まれるから、高値で売れることはきわめて魅力的だ」と説明した。

 最近は「トヨタにしておけば間違いない」という話を聞くことが少なくなったが、ハイエースについては健在だ。今ではハイエースがトヨタにとって一番大切で信頼できる代表車種になっている。