「個人投資家の裾野を広げたい」と語る清明社長

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2019年4月、国内のインターネット専業証券で、初の女性社長が誕生した。

マネックス証券の創業者で、カリスマ社長といわれる松本大(おおき)前社長からバトンを受け継いだ、清明祐子(せいめいゆうこ)社長がその人だ。41歳という若さで、インターネット証券大手のトップに就任した、清明社長に今後の展望と抱負を聞いた。

「次につなげていくのが私の役割」

―― 国内のインターネット専業証券で初の女性社長ですが、ご自身では社長就任について、どのようにお考えですか?

清明祐子社長「今年4月に、マネックス証券の社長に就任したことで、多くの報道で取り上げていただきました。『女性で、41歳で』というところで注目いただいたのかなと思っていますが、私自身はこれまで、性別や年齢について、特に意識してこなかったので、話題になったことに驚きました。とはいえ、この社会に新しい風を吹かせることができるなら、とても光栄なことです。何よりも、いまこのポジションに就いている流れを、次世代にどのように継承していくか、という観点が大切で、私はひとつの通過点として、その一翼を担えればいいと思っています」

―― マネックス証券の創業者で前任者の松本大会長から、社長就任の打診を受けたときはどのような状況だったのでしょうか?

清明社長「それがじつは、まったくかしこまった雰囲気ではなかったんです。そもそも、うちの会社には、社長室というものがないんですね。松本と私は、社員と同じフロアで、すぐ近くのデスクで仕事をしていますが、人事を決めるギリギリの今年3月に、会議室の打ち合わせ中に松本から、『(マネックス)証券の社長やってみないか?』と言われました。私は、マネックスグループ全体の企画責任者でしたので、松本と4月以降の子会社の体制について話していたのですが、その流れの中でした。その時は、とても驚いて、『恐れ多くて無理です』と言いながらも、『一たん持ち帰ります』と。冷静になって、グループの体制や私のポジション、強みや弱みなどを考えると、ここでお引き受けをして、次につなげていくのが私の役割だと思い、お引き受けすることにしました」

――全体の組織的な視点に立って、決断されたということなんですね。

清明社長「昨年(2018年)4月に、コインチェック(仮想通貨取引所サービス)がグループ傘下に入ったことで、現在、コインチェック、米国のトレードステーション、マネックス証券の3社が、グループの中核企業になりました。当グループが企業価値を高めるためには、この3社をどのように拡大し、連携していくかという点がとても重要です。私はコインチェックの買収を担当。2018年4月からは米トレードステーションの取締役に就任し、常に『マネックスグループ』という広い観点で見てきました。3社の中でも、マネックス証券の経営は、最重要となるので、ここでぜひ頑張ってみたいと思いました」

社会全体で「投資」を盛り上げていきたい

―― 現在のマーケットや御社のポジションについて、どう思われますか? 具体的にはどのような施策を考えていらっしゃいますか?

清明祐子社長「インターネット証券ができて20年。この間、順調にマーケットが拡大し、証券会社の一つの形態として、インターネット証券が存在感を増し、無視できない存在になったと思います。弊社も、成長期、安定期があり、「さあ、次に向かうぞ」という再成長に向かう時期です。これからどうやって再成長していくのかを真剣に考えていく段階に入ったと思っています。人生100年時代と言われ、寿命が延びる中で、個人投資家の皆さんは、それぞれの資産寿命をどのように伸ばしていくのかが、今の課題だと思います。そういった課題を解決できる、投資セミナーや投資教育などを引き続き行っていきます。また、コインチェックのお客様は若年層が多いので、そういったお客様に、人生プランを考えていただき、証券商品とのクロスセルをご紹介するということも念頭に入れています。マネックス証券は、個人投資家のお客様との距離が近く、実際にお客様からのさまざまなご意見やご要望もいただくことも多いので、積極的に経営課題に取り入れていきたいですね。『貯蓄から投資へ』と謳われて、20年ほどが経ちましたが、この流れはまったく進んでいません。私たちの使命として、自分の会社のお客様だけでなく、社会全体で、もっと投資について盛り上げていき、個人投資家の裾野を広げたいと思っています。そのために新しいテクノロジーが必要であれば、率先して取り入れていきたいと思います」

「仕事一筋」やめました! マラソンや登山は経営者になってから

―― 「マネックスといえば松本大会長」のイメージを変えていきたいとのこと。具体的には、どのようなイメージに変えていきたいのでしょうか。

清明社長「前任者がカリスマ社長だったので、どうしても、そのイメージが強くなってしまうのは仕方ありませんし、半面それは守っていきたい部分でもあります。じつはマネックス証券は、社員一人ひとりが、松本が作り上げてきたビジョンや理念がしっかり根付いています。お客様にとって何がいい投資なのか、情報なのかという点を、社員が考えて行動しようとしています。そうした社員一人ひとりの価値をもっと引き出して、『松本のマネックス』ではなく、チーム一丸で取り組んでいく、『わたしたちみんなのマネックス』というイメージを打ち出したいと思っています」

―― 日々お忙しいと思いますが、プライベートはどのように過ごしていますか?

清明社長「オフは、もっぱらマラソンや登山、ゴルフなど外に出ていることが多いです。昨日も、弊社が主催したイベントが、午後から東京であったのですが、午前中に、軽井沢のハーフマラソン大会で走ってから、新幹線に乗って行きました。子会社のマネックス・ハンブレクト(2017年にマネックス証券と統合)の社長になるまでは、仕事人間だったのですが、社長になってからは、自分ひとりでは解決できないことや、考えてもわからないこともあり、かえってカラダを動かすことで頭が切り替えられて、問題が整理できるようになりました。百名山の登頂も目指していて、これまで44の山に登りました。あと20年で残りの山を制覇したいですね」

(聞き手:戸川明美)

プロフィール清明 祐子(せいめい・ゆうこ)マネックスグループ常務執行役兼マネックス証券社長2001年京都大学経済学部卒。三和銀行(現三菱UFJ銀行)入行、法人営業およびストラクチャードファイナンスに従事。06年12月からMKSパートナーズ(プライベート・エクイティ・ファンド)に参画し、バイアウト投資実務およびポスト・マネージャー・マネジメントを経験。09年2月にマネックス・ハンブレクト(17年にマネックス証券と統合)。11年に同社社長に就任。13年マネックスグループ執行役員、16年同社取締役、17年マネックス証券執行役員、18年マネックスグループ常務執行役兼マネックス証券副社長執行役員。19年4月から現職。1977年9月生まれ、大阪府出身。