ウイングバックに原口(写真)と伊東が入ったことで、攻撃面は格段に威力を増した。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

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 3−4−2−1システムに着手した、6月の森保ジャパン。トリニダード・トバゴ戦は消化不良感のあるスコアレスドローに終わったが、エルサルバドル戦は、特に前半のパフォーマンスで相手を押し込んで圧倒し、2−0で快勝した。
 
 2試合の大きな違いは、両ウイングハーフだ。トリニダード・トバゴ戦は長友佑都と酒井宏樹のサイドバック、つまりDFタイプを両翼に並べた。一方、エルサルバドル戦は原口元気と伊東純也のウイング、FWタイプを起用している。
 
 1戦目の反省もあり、原口と伊東は高いポジションを取って、仕掛け、飛び出し、プレッシングと、かなりの躍動感があった。
 
 エルサルバドルは4−1−4−1の守備でコンパクトに守ったが、それによって大きくなるブロック外のスペースを、左から原口、右から伊東、さらに中央から永井謙佑の飛び出し。日本は守りを固める対戦相手の攻略法を、見事に実践した。
 
 この攻撃派の3−4−2−1を用いた戦術は、格下との試合が増える9月からのワールドカップ2次予選で、大いに役立つだろう。良いシミュレーションだった。
 

 ただし、3−4−2−1の完成度としては、まだ50パーセントほどか。及第点に達しているとは言えない。
 
 59分、永井に代えて大迫勇也、畠中槙之輔に代えて山中亮輔、伊東に代えて室屋成を投入した。馴染みの4−2−3−1に変更している。
 
 なぜ、4バックに戻したのか? 戦略的な意図はあるだろう。3バック単体ではなく、試合の流れに応じて4バックと併用する対応力を磨いておきたい。あるいは、67分に投入した中島翔哉と久保建英を、大迫、堂安律と一緒にプレーさせたい。そうした戦略的な考えはあったのではないか。
 
 しかし、それだけではなく、試合単体としても、4バックに戻したことには合理性があった。なぜなら、後半の序盤は、3−4−2−1が行き詰まっていたからだ。
 
 前半こそ圧倒的に押し込んだ日本だが、後半はエルサルバドルのサイドバックが高い位置を取り、人数をかけてパスをつなぎ、前へ出てきた。勢い満点の前半には、原口と伊東が下がって5バックを形成する場面は少なかったが、後半序盤は増えた。
 
 5バックになること自体が悪いわけではない。元々3バックのままでは、ピッチの幅を守り切れないので、ボールを奪えなければ、一旦下がって最終ラインを増強するのは当然の対応だ。
 
 問題はそのあとである。5バック化し、エルサルバドルの前進を止めてバックパスを出させたあと、そのボールに、前線の南野拓実、堂安、永井らが“すぐに”食いついてしまう。原口や伊東からすれば、スプリントして最終ラインに下がった直後だ。その状況で間髪入れず、“すぐに前について来い”と要求されることになる。これは辛いし、そもそも間に合わない。明らかに過負荷であり、そんなリズムではプレーできない。
 
 また、すでに2点差がついていたため、各自の意識に違いもあったはずだ。後半は変わらず追い続ける前線3人と、MF4人の間で、間延びが起きるようになった。その結果、後半のエルサルバドルは、ボールをつなぐスペースを得て、パスワークで持ち味を出している。
 
 一般的に、前後に行ったり来たりのオープンな展開は、3バックには不向きだ。
 
 3バックは中盤や前線に1枚を増やし、ポゼッションやプレッシングに人数をかけられるシステムだが、一度ボールを奪われたり、プレッシングを外されたりすると、3バックのままでは幅を守り切れない。5バック化するなど、両ウイングを中心に長い距離を走ってカバーする必要がある。

 このシステム変形の負荷をコントロールすることが、3バックを機能させるポイントだ。
 
 もし、5バック化するほど押し下げられたなら、そこで一度ブロックを作り、立て直してから、タイミングを計って前へプレスをかける。こうした緩急、試合テンポにメリハリを付けることが、3バックでは4バック以上に求められる。
 
 押せ押せの前半には隠れていた応用課題。それが後半序盤に見られるようになった。そして、森保監督は4バックへの変更を指示した。4−4−2系は攻守をコンパクトに締めやすく、ガチャガチャした展開でもバランスを保ちやすい。間延びした3バックであのまま試合を続けるよりは、リスクが少なかった。
 
 応用より、併用。3バックの応用を進めるのではなく、ひとまず限定シチュエーションのオプション戦術とし、4バックとの併用を優先させた。そんな印象だ。ワールドカップ2次予選を控え、自チームの準備としては、手応えがあったのではないか。
 
取材・文●清水英斗(サッカーライター)