時代のあおりを食らった男たちのリアルに迫ります(筆者撮影)

バブル経済崩壊後の超就職難期に学校を卒業した、就職氷河期世代。ロスジェネ世代ともいわれ、年齢にすると現在30代後半〜40代後半ぐらいの人たちだ。今の大学生と比べて人口が多く、受験も就職も競争率が激しいうえ、社会に出る頃には不況のあおりを食らって、望まない非正規雇用の働き方を選んだ人も少なくなかった。そしてこのタイミングで先日、政府は就職氷河期世代を対象に、3年間で集中的に就職支援を行う政策を発表した。経済的弱者は非婚の一因にもつながる。この連載は、そんな就職氷河期のロスジェネ未婚男性を追うルポだ。

「人脈を大事にしろ」が口癖の父親の下で育つ

第1回は、数年前から保育関係で管理職として勤務するようになった幸雄さん(仮名・42歳)。ようやく、毎月固定の安定した収入を得られるようになったという。清潔感のある風貌の、すらっとした体型の男性で、実年齢よりも若く見える。


新連載スタートです

「今もなんですが、僕は音楽をやっていて定期的にライブを行っています。それで、今の職場に勤める以前は音楽業界のツテで、ちょっとした音楽をミックス(編集)する仕事や子どもにギターを教える仕事、テレビの編集会社の受付の夜勤など、言ってみればフラフラしたフリーター生活を送っていました。それでも1人で食べていく分には事足りていたんです」

幸雄さんの父親は団塊の世代。「人脈を大事にしろ」が口癖だった。幸雄さんは父親の助言どおり、人脈を頼って大きなくくりで音楽の仕事をしており、人に職業を聞かれた際は「音楽家です」と答えていたという。

また、「この企画の趣旨とはそぐわないのかもしれませんが」と前置きしたうえで、幸雄さんの家庭は地方でかなりの富裕層だったと語った。

「中学の頃から音楽に興味があってギターを始め、高校を卒業したら音楽の専門学校に進学したかったのですが、親から『せめて大学を出てくれ』と言われてしまって。1年間予備校の寮に入って浪人してから、東京の私立大学へ進学しました。親世代からすると、大学さえ出ておけば将来大丈夫、という価値観を持っての大学進学の勧めだったのだと思います」

幸雄さんが大学に進学した1990年代、世に携帯電話やPHSが普及し始めた。そして、巷では小室ファミリーが大流行。この頃はまだCDが売れる時代で、幸雄さんの中で音楽への期待値も高かったが、だんだんとCDが売れない時代に突入していく。

また、当時は自分が就職氷河期の渦中にいるという意識はなかったが、先輩が就職活動で100社落ちたと聞き、ようやく自分も不況のあおりを受けている一員なのだと実感した。

「僕自身は就活はしませんでした。音楽を続けたかったのも理由の1つですが、コネクションによってすごくお給料のいいバイトを経験していたり、条件のいい作曲などのお仕事もちょこちょこ学生時代からやっていたりしたので、卒業後もその延長線上にいたんです」

バブル世代の「あっけらかんとした感じ」に引く

自分がロスジェネ当事者だという意識があまりなかった幸雄さんだが、唯一ロスジェネを感じる瞬間は、自分よりも上の世代の「あっけらかんとした感じ」を見ているときだという。「あっけらかんとした感じ」とはどのようなものなのだろうか。

「例えば、知人でバブル世代の人がいて、家庭がある身でこれからお金がかかるというときに上司と喧嘩して会社を辞めてしまったんです。彼は『何とかなるだろう』という精神で、それが何とかならず、フリーター生活が続いて生活が困窮し、祖父母から扶養される形で乗り切った人がいました。そんな人を見ると、『これはないわー』と引いちゃいます」 

また、先日政府が打ち出した氷河期世代へ向けた集中的就職支援については「何とかしてきた世代」と「何とかなるだろう世代」が今の世の中のことをやっていると幸雄さんは考えている。

「今、高齢社会になってきて健康寿命を延ばす政策も取られていますよね。健康寿命が延びればそれだけ労働力になる年齢も上がるので、そう考えると我々40代もそれなりに使い物になるだろうし、少子化が進んで20〜30代の働き手に注力とか言っても数が足りない。だったら40代も対象に入れて20〜40代で幅を利かせて重点的にやればいいのになとは思います」

さて、メインテーマである結婚について話を切り込みたい。幸雄さん自身、結婚願望が強く、今まで3回ほど結婚したくなったことがあったという。

「でも、一度の公演で300万円もかかる日本舞踊が趣味の女性で、とてもじゃないけど一緒に生活できないと思って諦めました。その次に結婚の話が出た女性とは、自然とお金の話になって……。自分の中で親がロールモデルなんです。先ほど言ったとおり、実家は裕福で、父親はかなり稼いでいました。自分も、せめて年収500万〜600万ないといけないのではないかと、結婚を躊躇してしまうんです」

しかし、年収が500万円以下でも結婚している男性は多くいる。幸雄さんのプライドが結婚へのハードルを上げている可能性もある。

「プライド……。どうなんでしょうか。多分、高いんだと思います。でも、お金の基準を作って未婚である理由にしている感じはします。同年代の既婚者の友人からは『40歳を過ぎて結婚していないということは、お前に欠陥があるんだ』と言われました」

そして、幸雄さんは少し意外な理由を続けた。

「離婚をしたくないんです。結婚をしたら、離婚をする可能性がある。地方は離婚をすると後ろ指をさされるような雰囲気がまだ残っているので、周りの人より結婚に対して慎重になっているのかもしれません」

出会ったらいつかは別れが訪れる。何だか、幸雄さんが夢中になった1990年代のJ-POPにありそうな歌詞だが、彼は大真面目に語っていた。合コンにも行ったことがない。今まで交際してきた女性は学生時代の友達が多く、合コンやマッチングアプリのような、セッティングされた出会いが苦手だという。

震災をきっかけに福祉の道へ

30代後半までフリーの音楽家を続けていた幸雄さんだが、転機が訪れる。それが、2011年3月に起こった東日本大震災だ。あの震災直後、CMが自粛されたり、数々のイベントが「不謹慎だ」という理由で中止になったりした。日本全体が暗いスモッグに覆われたような、独特なねばついた雰囲気だった。

「僕はいちいち物事に慎重だし、チャンスに飛び込んでいけない、どちらかというとネガティブな人間だと思っていたのですが、あの震災直後、自分以上に闇落ちしている人がたくさんいて、ネガティブなはずの自分がなぜか励ます側に回っていたんです。ならば、自分が動いてやれることをやろうと思ったんです」

震災をきっかけに、幸雄さんは本格的に福祉の勉強を始め、社会福祉士の資格を取得。保育事業の現場に就職した。それまでも、子どもに音楽を教える仕事をした経験があったため、子どもの扱いはある程度自信があった。

「ゆとり世代やさとり世代が嫌いなんです。もちろん全員じゃないですけど、中には『将来は公務員になりたい』と語る子どもがいるんでしょ? そうじゃなくて、もっと夢を持とうよ、世の中こんなに楽しいんだよと伝えたいんです」

日々、仕事で子どもと接している幸雄さん。彼自身も自分の子どもが欲しいため、いまだに結婚願望は強いままだが、現在パートナーはいない。しかし、同年代の女性となると妊娠が厳しい年齢になってしまうため年下の結婚相手を希望している。それを聞いたとき、タレントの磯野貴理子さんが妊娠・出産が厳しい年齢であることから、24歳年下の夫に離婚を切り出されたニュースを思い出して胸が痛んだと、筆者は彼に正直に述べた。

「でも男は自分で子どもを産めないオスである分、そういう気持ちは仕方ないのかなと。女性にとっては残酷だと思うんですけど……。あと、42年間も生きてきていると自分の人生が楽しくなってきているので、その楽しさをひっくり返すというか、ある程度キープできる価値観の相手でないと一緒にいる意味を見いだせないなと思っています。20代の頃同棲して結婚を考えた元彼女からは、結婚するなら月々これだけ貯金して、音楽もやめて、ここに家を買って……というシミュレーションをされたんです。

ことごとく、自分の『こうしたい』というプランと合わなくて別れちゃいました。年を重ねるごとに、人間関係を構築することとそれを壊すことが億劫になっていきますね……」

ロスジェネ世代はボランティア精神が強めで一生懸命

幸雄さんは世間から「ロスジェネ」というレッテル貼りのようなものを強く感じるという。

「ロスジェネ世代というと悲観的なニュースや記事が多い印象を受けますが、全然そんなことないです。むしろ、僕たちがいちばん冷静な世代だと思うんだけどなぁ。自分のことはいったん置いておいて、この世代の人たち、僕はすごく好きです。今の世の中に絶望もしていなければ楽観もしていなくて、いちばんちょうどいい。もちろん、就活で100社受けて落ちちゃったり、うつになってしまったりした人もいるけど、みんな仕事に対してスキルアップ思考が強い。一生懸命なんです」

一生懸命なのに非正規が多く、悪い意味でちょうどよく扱われているとは思わないのだろうか。

「そういった印象がないわけではありません。例えば、自分が携わっている福祉の業界はとても賃金が低い。少し前に『保育園落ちた 日本死ね』騒動がありましたよね。あれで少し保育士の賃金のベースアップが行われたのですが、雀の涙程度です。その場のパフォーマンスだけなんです。消費税を上げるので、その何%を社会保障に充てますと言われても『嘘つけ!』という話です。だから、一生懸命やっている人たちも、ある程度ボランティア精神が強めなんです」

幸雄さん自身は、あまり世代というものを意識して生きていないことがうかがえた。また、どうしても親と自分を比べて結婚の基準を作ってしまっていることが気になった。仕事もプライベートでの音楽活動も順調そうな幸雄さん。彼に価値観の合う年下女性が現れることを願うばかりだ。

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