「今シーズンは対戦していないので、スカウティングはしていない。ただ、ビデオでプレーは見たことがある」

 ジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ監督)が師と仰ぐフアン・マヌエル・リージョ(元ヴィッセル神戸監督)は、日本代表MF久保建英(FC東京)について語っている。

「久保にスーパープレーをやってのけるポテンシャルがあるのは、すぐにわかった。問題は、技術的なうまさをコレクティブな(集団の中での)アドバンテージとし、敵に対して問題を引き起こせるかどうかだ」

 リージョはそう言って、こう続けている。

「期待と人気と実力を一緒くたにすべきではない。久保は若いだけに、それらを混同すると厄介なことになる。あるいは、周囲が重圧を和らげる必要もあるかもしれない」

 最後の言葉は、トリニダード・トバゴ戦で久保をベンチから外した森保一監督のコメントと符合している。


トリニダード・トバゴ戦はスタンドから観戦した久保建英

<久保、代表デビューへ!>

 そんな期待感は高まり続けている。本人の好む、好まざるにかかわらず、盛り上がっているところがスターの証だろうか。それにしても常軌を逸した熱気だ。

「久保に関しては、メディアをとおして、代表を見ている皆さんの期待をひしひしと感じています」

 トリニダード・トバゴ戦後、森保監督は言葉に注意を払いながら、メンバー外にした理由を明かしている。

「クラブでのプレーを通じ、久保はA代表でもできることを証明しています。できれば使いたいという気持ちはあるのですが、まだ18歳になったばかりで、移籍の報道が飛びかっていたり、いろんなプレッシャーがあるのも事実。少し緊張の糸を緩めながら先に進むべきではないかと考えました」

 たしかに久保の周辺は騒がしすぎる。17歳でJリーグの顔となって、代表初招集。18歳の誕生日(6月4日)を契機に、欧州移籍話が加熱。バルセロナ、レアル・マドリード、マンチェスター・シティ、パリ・サンジェルマンなど、ビッグクラブが獲得争いに参戦したとも言われている。移籍マーケットでの駆け引きは熱さを増すばかりだ。

 ただし、たとえばバルサからの獲得の打診は、あくまでBチームからのものだった。実情は、他のクラブも似たような条件だろう。ブラジルの至宝と言われたヴィニシウス・ジュニオールも、レアル・マドリードではBチームからのスタートだった。アルゼンチン代表リオネル・メッシやクロアチア代表ルカ・モドリッチなどと同格の選手になるには、まだ道のりは遠い。

<1シーズン、プロリーグを戦った経験のない18歳>

 それもひとつの真実である。

 しかし、英雄的選手は、一般の人が押し流されるような熱に浮かれず、それを力に換えられると言われる。生来的スターの強靭な精神力というのか。周りと関係なく、自らの力をたのみにできるのだ。

「クリスティアーノ(・ロナウド)は、必ず成功するという強い意志を持っていた」

 筆者はポルトガル代表FW、クリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)の原点を取材しに、大西洋に浮かぶマデイラ島を訪れたことがある。そこで、ロナウドと同年代で本土のリスボンに渡った元サッカー選手が話していたことがあった。

「島から出た多くの選手は、ホームシックにかかってしまう。生活スタイルがまるで違うから。そこで少し成功し、すぐに満足し、今度は先に進むのに重圧を感じる。それで17、18歳で多くが島に戻る。自分もそうだった。でも、クリスティアーノは違った。常に一番であることを求め、そのための努力をしていた。ピッチに立てなかったら怒る。その道を妨げられるのを嫌い、いつも戦っていたよ」

 FC東京のチームメイトたちから伝え聞く久保像は、野心と純粋さが入り混じる。曲がったことは嫌いだという、彼なりの正義がある。サッカーに関しては、絶対的な自信を持っている。それは16歳で入団した初日からだったという。まったく物怖じするところはない。

 勝負へのこだわりとサッカーへの一途さは、久保の才能だ。

「久保はこれからA代表でプレーできるはず。彼の成長と使い方がマッチするように、ベストのタイミングを探っていきたいと思っています」

 森保監督は語る。ひとつの道理だろう。リージョの言葉とも重なる。

 代表デビューはコパ・アメリカになるとも言われているが、ぶっつけ本番でコパ・アメリカに挑むのもリスクがある。東京五輪世代中心の代表チームで、どこまで南米の猛者に立ち向かえるのか。洗礼を受ける可能性は、むしろこちらのほうが高いだろう。

 6月9日のエルサルバドル戦。それはひとつのタイミングかもしれない。出場を命じられた久保が怖じ気づくことはないはずだ。