リバプール対トッテナム・ホットスパー。18-19チャンピオンズリーグ(CL)決勝が行われた舞台はワンダ・メトロポリターノだった。アトレティコ・マドリーが昨シーズン(17-18)から使用している、マドリード・バラハス空港近くに位置するサッカー専用スタジアムである。
 
 CL決勝は毎シーズン、UEFAが認定する欧州の5つ星スタジアムで行われる。ヨーロッパリーグ決勝は4つ星でも行われるが、CLは計30近くある5つ星スタジアムで毎シーズン順繰りに開催される。ちなみに、来シーズン(19-00)はトルコのイスタンブール(アタテュルク・オリンピヤト・スタディ)で04-05以来、15シーズンぶりに行われることに決まっているが、CL27シーズンの歴史の中で、決勝進出チームのいずれかと、決勝の舞台が同じ国になったことはわずか4度しかない。

 95-96のユベントス対アヤックス(ローマ)、96-97のドルトムント対ユベントス(ミュンヘン)、10-11のバルセロナ対マンチェスターU(ウェンブリー)、そして11-12のチェルシー対バイエルン(ミュンヘン)だ。

 その他の23回の決勝は、いわゆる第3国で開催されている。アジアチャンピオンズリーグ(ACL)に置き換えれば、Jリーグ勢対中国勢の決勝がタイのバンコクで行われるようなものだ。

 ところが、CL決勝を過去に24回現地観戦している立場で言わせてもらえば、5つ星の巨大なスタンドが埋まらなかった試しは一度もない。どれほど遠くても常に満杯。観戦チケットはプラチナペーパーと化している。

 今回、決勝戦のスタンドを埋めた観衆は63272人。しかし、マドリードにはチケットを持たないファンも大挙、駆けつけていた。その中には、日本在住者もいれば、オーストラリア在住者もいた。報道によれば、その数は両軍併せて10万人近いといわれていた。

 第3国で行われる機会が多いということは、旅行のスケールがおのずと膨らむことを意味する。CL決勝を戦った経験のあるビッグクラブの長老ファンに話を聞けば、CL決勝の観戦旅行こそが至福のひとときなのだそうだ。これまでの人生で一番の幸せと語る人は少なくない。

 イングランド人にとってスペインは天国だ。季候がよくて食べ物がおいしい。訪れてみたい国の上位国に位置するという。両軍サポーターが現地マドリードで問題行動を起こしたという話をまったく聞かなかった理由かもしれない。

 もしこの戦いがホーム&アウェー戦だったなら、サポーターはもう少しネガティブな緊張感に包まれていただろう。リバプール対スパーズは違う盛り上がり方をしていたはずだ。

 180分の試合か90分の試合か。ホーム&アウェー(2試合)で決着をつけるか、1試合で決着をつけるか。準決勝以前との一番の違いはこれだ。延長PK戦の可能性があるとはいえ、決勝戦は90分の1本勝負だ。リバプールとスパーズがスペインのマドリードで、2日間とか3日間とか、試合間隔を置いて2試合を戦うことは現実的に不可能だ。したがって1試合に掛かる比重は高まることになる。同様に番狂わせの可能性も増すことになる。

 その割に番狂わせは起きていない、過去26回で4回しか起きていないのだが、準決勝以前より決勝の方が1点の重みが増すことは事実だ。

 開始数十秒でPK判定が下され、1分数十秒の段階でリバプールが先制ゴールを奪うことになった今回は、考えられる限りにおいて最悪の展開となった。開始早々に起きたPKという事故が、準決勝以前より2倍の重みを持つとなれば、結果は見えたも同然だ。モハメド・サラーがPKを決める瞬間を眺めながら、決勝戦も90分×2本のホーム&アウェー戦を見たいと叫びたくなったものだ。