新機軸となった3−4−2−1の布陣について、多くの選手たちは「思っていた以上に機能した」と、手応えを口にしていた。格下とみられたトリニダード・トバゴから得点を奪えなかったのは課題として残るものの、実に25本ものシュートを放つなど、多くの時間帯で相手を押し込んだ。

 ほとんどぶっつけ本番に近い状態で臨みながら、多くのチャンスを生み出せたのは評価できるポイントだ。危ない場面をあまり作らせなかったことを踏まえても、この新システムは森保ジャパンのひとつのオプションになる可能性を示したと言えるだろう。


歴代3位の代表キャップ117を誇る長友佑都

「少しずつですけど、試合のなかで時間を追うごとに感覚がよくなって、厚みのある攻撃につながったと思います。選手たちは難しいなかでトライして、ゴールに向かってくれたことは、次につながっていくのかなと思います」

 試合後、指揮官は選手たちのパフォーマンスに一定の評価を下している。

 森保一監督がサンフレッチェ広島を率いていた時代に採用したこの布陣は、決して守備的ではなく、あくまでボールを大事にするという前提が備わる。最終ラインから丁寧につなぎ、サイドを起点に幅を作って、空いた中央のスペースを崩していくのが理想形。ベースは3−4−2−1だが、状況に応じて形は4−1−5にも、5−4−1にも変化する柔軟性こそが、このシステムを機能させるカギとなる。

 たとえば、左右のCBであればサイドバックのような攻撃参加も求められるし、ボランチであれば最終ラインに降りてビルドアップにかかわる必要がある。シャドーは守備時にサイドに開いて、相手のサイド攻撃に対応する役割が求められる。

 なかでもキーポジションとなるのは、ウイングバックだ。その名のとおり、攻撃時にはウイングとなり、守備時にはサイドバックとなる。ひとりで縦105メートルを賄う必要があるのだから、身体的な負担を相当強いられるポジションだ。

 この日、ウイングバックを務めたのは、右が酒井宏樹(マルセイユ)、左が長友佑都(ガラタサライ)だった。

 ともに経験豊富なふたりではあるが、普段プレーするサイドバックとは異なる役割を、いかにこなしていくのか。とりわけ、チーム最年長の長友がこの過酷なポジションで、どこまでパフォーマンスを保てるのか。個人的には、そのポイントに焦点を当てていた。

 やはり、経験がモノをいうのだろう。長友は慣れない役割にも、スムーズに対応していたように見えた。マイボールとなれば高い位置に顔を出し、ウイングさながらの仕掛けを見せる。相手ボールとなれば、鋭いスプリントで自陣に戻り、最終ラインに組み込まれて5バックを形成。79分に交代するまで、衰え知らずの運動量で激しいアップダウンを繰り返した。

 長友が意識していたのは、左サイドでコンビを組む中島翔哉(アル・ドゥハイル)との関係性だ。中島がボールを持てば大外から飛び出し、スルーパスの受け手となる。あるいは、その動きで相手をつり出し、中島が中に切れ込める状況を生み出した。

「僕のポジションは、相手のサイドバックに僕自身を気にさせて、(中島)翔哉をフリーにさせるところがまず大事なこと。翔哉が打開してシュートまで持ち込むシーンは、何度か作れたんじゃないかなと思いますね」

 チーム最多の7本のシュートを放った中島が果敢にゴールに迫れた背景には、長友の”無駄走り”という献身があったのだ。

 一方で長友は、後方支援に徹していたわけではない。自らがエリア内に侵入し、ボールを引き出す役割も担う。あるいは、逆サイドからのクロスに合わせる”ストライカー”としての動きさえ見せていた。交代直前には、室屋成(FC東京)のクロスをヘディングで合わせるシーンもあった。

 おとりとなり、クロスの供給者となり、スルーパスやクロスの受け手ともなる――。もちろん、守備でも手を抜くことなく、長友は一人二役ならぬ、三役も四役もこなしていたのである。

 もっとも、さまざまな役割を担った長友は、身体的な部分よりも、「脳が疲れた」と振り返る。

「前にプレッシャーをかけるのか、後ろに下がるのか、相手を混乱させるポジショニングを取るのか、というのを考えながらやっていたので、脳が疲れましたよ。4バックだとわかりやすいんですけどね。ウイングバックはとにかく頭を使わないとチーム全体が狂うんで、本当に難しいですよ」

 状況を見極め、思考をめぐらせ、その時々に見合ったプレーを判断する。やり慣れないポジションで、いかにチームを機能させていくのか。長友はその最適解を探しながら、ピッチを走り続けていたのだ。

 その考えるプレーの根底を、長友は「経験」という言葉で表現する。

「僕もいろいろ経験させてもらったんでね。どのポジションを取れば彼(中島)が楽になるのか、逆に自分自身が生きるのかっていうことを常に考えながらやっていました。すべては経験かなと思います。若い時だとガンガン行くだけ行って、全部裏を取られていたと思いますよ」

 このトリニダード・トバゴ戦のピッチに立ったことで、長友の日本代表のキャップ数は117を数え、歴代3位となった。若手の台頭が著しい森保ジャパンにとって、その経験値は代えがたい財産だろう。

 もっとも、今年で33歳のダイナモは、いまだ進化の歩みを止めようとはしない。

「1位じゃないんで、全然うれしくないですよ。ヤットさん(遠藤保仁)は152ですよね。遠いなぁと。でも、やるからには目指したいなと思います」

 どこまでも貪欲な小さな巨人は、まだまだ日本代表にとって不可欠な男である。