地銀経営が悪化している要因とは(写真:IYO/PIXTA)

地方銀行(地銀)が崖っぷちに立たされている。全国106行の半分にあたる54行の地銀が本業で赤字に陥るなど、経営悪化を危惧する声は多い。なぜ地銀の経営はここまで悪化してしまったのか。本稿では、経済ジャーナリストの浪川攻氏の『地銀衰退の真実』より、地銀が抱える構造的課題に迫る。

本業の収益性が一気に悪化

金融庁が地方銀行に対して、「持続可能なビジネスモデルの構築」を要請するようになって数年が経過している。それは本業と言えるビジネスが先細りの傾向を強めてきたからである。

もちろん、背景にあるのは、人口・企業数の減少による地方経済の縮小という事態である。それに追い打ちをかける形となったのが、日銀によるマイナス金利政策の発動だ。同政策は、アベノミクスの一環として、2016年2月に導入された。

政府と日銀が共有する政策目標である「消費者物価指数の前年比2%幅の安定的な上昇」を実現するために断行した未曾有の量的緩和政策、いわゆる、黒田バズーカが期待された効果を発揮できずにいたなかで、次の一手として発動されたのがマイナス金利政策だった。

銀行が日銀に預け入れる日銀当座預金の付利(金利)を、一定額を超えた部分について、マイナス0.1%に設定するというものである。この政策が発動されるや、国内のあらゆる金利が一挙に下がり、10年物国債の利回りまでマイナス水準に押し潰される事態となった。もちろん、貸出金利も下がったが、その一方では預金金利をマイナスにすることはできず、文字どおり、形だけのプラス金利が設定されている。

その結果、「預金で集めた資金を貸出に回して、その金利差で稼ぐ」という銀行の本業は、金利差である利ざやが一挙に縮小し、収益性が悪化してしまった。預金金利と貸出金利、有価証券運用利回りの差である総資金利ざやがマイナスに陥る銀行が増え続けている。

地方銀行の場合、それが地元経済の低迷と重なってしまった。貸出量の伸び悩みと利ざやの悪化のダブルパンチを食らった格好である。貸出量の伸び悩みは、単に新規貸出が増えないという現象だけではなく、それでも、なんとか伸ばすために、貸出金利をほかの銀行よりも引き下げてほかの銀行の顧客を奪取するという「金利ダンピング」も助長した。

かつて実行した既存の長期貸出が満期の期日を迎えて、「折り返し」という更新のタイミングになるたびに、設定金利は引き下がる。低利振り替えと呼ばれる、貸し手が苦悩するプロセスである。

目先の利益確保に奔走

これによってストック資産の収益性は悪化し、かつ、ほかの銀行とのダンピング合戦で勝利したとしても、異様な薄利であるために、新規のキャッシュフローは先細りとなり、一挙に採算悪化のスパイラルが出来上がってしまった。

金融庁はマイナス金利政策の発動を想定していたわけでなくても、この収益性悪化のスパイラルは予想できていたに違いない。そこにマイナス金利が加わったのだから、いよいよ金融庁の「持続可能なビジネスモデルの構築」を求めるトーンは厳しさを増し続けた。

ところが、地方銀行の場合、持続可能なビジネスモデルの構築という長期的な取り組みに傾注するいとまはなかった。金融庁が打ち鳴らす警鐘に耳を傾けて実践していく余裕はなく、目先の利益の確保のほうが先決という、追い詰められた心境に陥ってしまったからである。

いきおい、本店を構える地元経済圏では、超薄利の利ざやで利益を稼ぐための貸出増強に向けた戦略が打ち出され、それがままならないなかでは投信、保険の販売手数料を積極的に積み上げるための過剰な営業目標が営業現場に課されるという状況が極まった。これは、本部が策定した半期(6カ月)の収益計画を前提において、その実現のために必要な貸出、投信、保険販売などの品目ごとの目標額である。

この方式は銀行に限らず、かつては日本企業の間ではオーソドックスと言えるような戦略だった。営業現場は、尻を叩けば、なんとか目標を達成してくるという考え方だ。少なくとも、目標を策定する本部には伝統的にその発想が続いていることを印象づける事態である。実際、あらゆる企業の営業部門では「決算期末前の押し込みセールス」などが行われて、実績が作り上げられていた。

そのために、営業現場では、支店長などのトップが営業担当者を呼んでは、担当者が策定した営業計画をチェックして「これはどうなっているのか」「この数字はいまだに達成していないが、どうしてなのか」「無責任な計画だったのか」などと、計画のトレースという名のプレッシャーを毎晩のようにかけ続ける。

利ざやを上乗せせずに応札

マクロ経済の成長率が高い時代はそれも可能だったと言える。しかし、成長率が鈍化している現在、このような尻叩き方式には限界が見えてきている。それにもかかわらずこのスタイルを継続すれば、営業現場ではビジネスが歪み、顧客支持は失われかねない。その一端が若手銀行員たちの話からジワジワと伝わってきた。

一方、貸出増強に向けた動きは、地方銀行による首都圏への積極的な進出という現象も生んだ。地元での落ち込みを首都圏での貸出増強でカバーするという動きである。

大企業・中堅企業の世界では、短期借入金の入札が行われている。既存借入金が満期を迎えて更新のタイミングになるたびに、入札の実施が銀行に通知される。そこに地方銀行の積極的な応札が目立ち始めてから、すでに10年ほどが経過したが、時の経過とともに、応札レートの低さが際立つようになった。

あるメガバンクの法人部長はこう説明する。「入札の場合、われわれのような都市銀行などは、市場レート(TIBOR、銀行間基準金利)にいくらスプレッド(利ざや)を上乗せするのかという闘いをしている。例えば、市場レートに0.5%のスプレッドを上乗せする(TIBORプラス0.5%)というようなやり方だが、地方銀行のみなさんは市場レートそのもので応札している。どうやって、採算管理しているのか、われわれとはまったく異なっているとしか思えない」。

かつて、首都圏の大企業・中堅企業マーケットでは、大手銀行が組成したシンジケートローンの一部を地方銀行が買い取るパートアウト(売却)が目立っていたが、「いまは、パートアウトよりも、一本釣り的な融資姿勢が広がっている」と、別のメガバンク関係者は指摘する。

2019年の年明け以降、「地方銀行の低利攻勢はやや弱まってきた」という声もあるものの、その一方では、いまだに地方銀行による首都圏の新規出店は続いている。いまは、東京・江戸川区などがホットゾーンである。

30年前と同じ動きが始まった

こうした店舗進出の動きは30年ほど前にも際立った時期があった。ちょうど、バブル経済の時代である。そして、果敢に実行されたのが不動産所有者に対するアパート・賃貸マンション建設ローンだった。俗にいう「アパマンローン」である。


しかし、地価高騰による相続税増大への節税目的でのアパート・賃貸マンションは結局、乱造、供給過剰となり、バブル崩壊と相まって、入居率の低下と家賃の押し下げ圧力が同時に発生した。結果的に、事業者は家賃収入のキャッシュフローが先細った。揚げ句の果てに生じたのは、事業者による借入金の返済不能の続出だった。

銀行は不良債権を抱えて、債務者である多くの事業者は結局、担保設定した不動産を売却せざるをえなかった。それによって、銀行は貸金の回収という保全を行ったわけだが、やはり、批判を避けることはできなかった。そして、新規出店した店舗の撤退が相次いだのだった。

その約30年前と同じ動きが再び始まったのが、ここ数年のことである。この事態をみるにつけ、結局のところ、変化の乏しさを感じないわけにはいかない。しかも、その間、人口減少が地方に行くほどに深刻化することは、かなり以前から想定されていたといえる。

政府機関の統計不正が露呈したが、そもそもあらゆる統計や経済見通しはきわめて不安定な要素で編み出されている。そのなかでは、人口統計や人口見通しは長期的であっても、きわめて精度が高い。それにもかかわらず、現状をみるにつけ、その見通しから読み取れる将来像を真摯に受け止めることができなかったのではないかと思わずにはいられない。