いかなる状況下でもクルマを自在に操れることが大事

 クルマの走行性能において、よく「ハンドリングがスポーティで走りがいい」と評価されていることがある。そもそも「スポーティ」な走りとはどんな走り? また「走りがいい」とはどういうことなのか。

「スポーティ」とはスポーツ性の高いクルマ、スポーツ走行に適したクルマを示す表現と考えると、クルマに求められる「スポーツ性」について定義する必要があるだろう。僕のなかでは「意のままに操れる」ことを重要視しているが、加えて言うなら「ハイスピード域を含めたあらゆる速度レンジでスキルのあるドライバーが意のままに操れる」ということが究極だ。

 ここで勘違いしてほしくないのは、下手なドライバーがおおよそ無意味な操作を要求した際にも意のままになるということではない。スキルの高いドライバーは理に適った操作が可能で、その期待に応える反応を示すことが重要なのだ。

 ドライバーがステアリングを切り込んだときに適度に反応し、意図したラインをスムースにトレースできる旋回性能。ステアリングのレスポンスが遅れることは高速域では危険だが、一方クイックに反応し過ぎるのも一般道においては扱いにくい。ステアリング操舵初期のゲインだけ高めて、さもクイックな身のこなしを身上としているような味付けを与えていながら、その先の領域では反応が落ち込んでしまい意図した姿勢に持ち込めないようなトリッキーな特性では話にならないのだ。

 近年、電動パワーステアリングが多く採用されるようになり、操舵の「味付け」の自由度が高まっているが、こうした見せかけの性能を組み込まれてしまっているクルマも実際多い。

 市街地の低速域で扱いやすく、意のままに操れるということは操舵力が軽く、かつ少ない操舵量で舵が切れることが望ましく、操舵した手応えがしっかりステアリングを通じてドライバーに伝わることも重要だ。路面の轍やアンジュレーションに振られることなく、しっかりドシっとした直進安定性を保てていることも重要。直進時にステアリングの手応えがあるというのはイメージしづらいかもしれないが、ステアリングセンターがしっかり出ていて左右にほんの少し動かすときにも手応えが感じられるものがいい。

エンジニアよりもテストドライバーの意見を重視するメーカーも

 ただ電動パワーステアリングで意図的にこの手応え領域を作り込んでいるクルマもあり、そうした見せかけ制御のクルマはステアリング位置は真っすぐなのにホイールは微小に左右に振られ車体がふらついていたりする。またエンジンのドライバビリティやトランスミッションの変速制御などが「意のまま」にコントロールできることも求められ、こうした部分を作り込んでいくにはサスペンショや車体各部のチューニング、電子制御される部品のプログラミングやキャリブレーションとのマッチングなども極めて重要になってくるのだ。

 従来、こうした領域は「感応性能分野」と言われ、数値化が難しくテストドライバーの感応評価に依存することが多かった。そのため優れたテストドライバーが多くいればそのメーカーのクルマの走りは仕上がりがよく、操りやすいと評される。

 有名なところではポルシェやBMWなど独の自動車メーカーには優れたテストドライバーが多く在籍し、設計部門より発言権が強いという。エンジニアが数値的に「よし」としても、テストドライバーがOKを出さない限り採用されない。またテストドライバー自身もエンジニアリング能力があり、感応評価した部分を設計に落とし込んで改善する能力がある。

 スポーツ性を高らかに謳うなら、さらにハイスピード領域においても同様な課題をクリアしなければならず、近年の500馬力を越えるようなハイパワーなモンスターマシンやAWD(4輪駆動)、4WS(全輪操舵)、前後左右トルク配分など複雑な機能を持つクルマを意のままに操れるように仕上げるには、レーシングドライバーの速度感覚+感応評価テストドライバーの繊細なセンシング感覚、それをエンジニアリングに落とし込める知的センスなど総合的な評価能力が不可欠といえる。

 そうしたテストドライバーを「評価の匠」として捉えるなら、匠級テストドライバーが存在するかしないかで、そのメーカーのクルマがスポーティで走りがいいクルマとなっているかどうかの分け目となるといっても過言ではない。

 こうしたモンスターカーをスポーティで走りがいいと言うには、操る側にも相応なスキルが必要なわけで、じつは一般的なドライバーにとっては「意のままにならない」クルマとなっていたりもする。誰がどこで、どのように評価したのかを知らないと本当にスポーティで走りがいいクルマなのかを判断することはできないだろう。