彗星のごとく現れた16歳ラッパー・さなりの「生まれてからきょうまで」を大解剖

16歳の若きラッパーに、世界はどう見えているのだろう?

「あっ、さなりだ!」「さなりくんじゃない?」

渋谷の路上で撮影をしていると、すれ違う若者たちがそうささやき合う。しかし、本人はそれに気づいているのかいないのか、あくまでマイペースに行き交う電車を眺めている。

SKY-HI(AAA日高光啓)によるプロデュース楽曲でデビューした16歳のラッパー、さなり。彼の知名度を上げたのは、Abema TVの恋愛リアリティー番組『白雪とオオカミくんには騙されない』への出演だった。同番組で“前代未聞”の規約違反をしたことが視聴者のあいだで大きな話題となったのだ。

しかし、そうして若い世代を中心に急速に人気と知名度を高める一方、彼が何を考え、どのような人生を送ってきたのかは未だに謎に包まれている。6月5日にデビューアルバム『SICKSTEEN』をリリースしたさなりに、これまでの生い立ち、そして彼が見る“今の10代”について聞いた。

撮影/阿部ケンヤ 取材・文/照沼健太

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一度は断った『オオカミくん』への出演で感じた変化

さなりの知名度を上げた『白雪とオオカミくんには騙されない』は、AbemaTVの恋愛リアリティーショー『オオカミくんには騙されない』シリーズ最新作だ。
“本気で恋をしたい女子高生たちが、イケメン男子とデートを繰り返しながら恋に落ちて行くまでを追いかける”というこの番組には、ひとつのトリックがある。それはイケメン男子の中に、嘘をついたり、好きでもないのにちょっかいを出したりと女子高生たちの恋を邪魔する“オオカミくん”が最低でもひとり混ざっているということ。
そのオオカミ役として番組をかき回し、最後には自らがオオカミであることを出演者に告白するという規約違反を犯し、大きな話題を呼んだ“ジョーカー”が、このさなりなのだ。
「番組に出演したことで一気に知名度が上がりましたね。街バレも増えて声をかけてもらうようになったり、地元の友だちからも『みんな観てるぞ』って言われたりして、嬉しいですね」
しかし、当初は番組出演に乗り気ではなかったらしい。
「じつは、一度出演エントリーを断ったんです。誰とも付き合いたくないなと思って。恋愛とかめんどくさいし、音楽に集中したかったから。でも、もう一度声をかけてもらったときに『(恋愛をしない)オオカミ役になるのであればいいかな…』って、面接を受けて出演が決まったんです」
さなりは“オオカミ”でありながら、共演者のあいりに気持ちが動いてしまう。その結果、自身の楽曲『Flow love』を使い、自らがオオカミであることを告白し、規約違反で失格となってしまう事件を起こしたのだ。曲名の“Flow”を逆から読むと“Wolf”になるというトリックまで隠されていた。
「あれは僕の意思でやったことで、誰かに相談したりといったことはなかったです。でも、結果として多くの人に曲を聴いてもらえたし、好感度も上がったみたいで良かったです。現実でもモテるようになりましたし(笑)。知り合いには『お前がオオカミだったのかよ!』ってすごく驚かれましたけど」
さらりと“事件”を振り返るが、番組への出演は彼にとって特別な経験になったという。
「楽しかったですね。みんなと一緒に過ごして『青春したな!』って感じでした。今僕は通信制高校に通っているんですけど、2年生になってからは音楽活動で休学状態だし、番組で学校の青春を体験したみたいな感じですね」
16歳で「青春をした」と振り返るのは少し早すぎる気もするが、これからラッパーとして本格的に歩み出すさなりにとっては必要な通過儀礼だったのかもしれない。

「小学生の頃投稿した動画は、恥ずかしくて消しました」

そんなさなりだが、どのようにして彼はラッパーとしてデビューし、知名度と支持を得るに至ったのだろうか?
小学校低学年でYouTubeに出合い、その面白さにハマったという。
「HIKAKINさんとかワタナベマホトさんといったYouTuberの動画を観てたんですけど、当時はまだYouTuberって言葉もなくて、HIKAKINさんもヒューマンビートボックスをやってた頃でした」
これだけだとよくいる“今どきの若者”といった印象だが、彼が人と違ったのは、小学生にして自ら動画投稿を始めたということだ。
「ネタ系の動画を観ていたので、自分でも親のスマホとパソコンを使ってひとり芝居を撮って投稿してました。特別、反応があったわけではないんですけど、毎日投稿してたんで、100本くらい上げたら1本は再生数が伸びるものがありましたね」
面白いと思ったらやってみる。その行動力と、毎日投稿を続けるという根気強さによって、なんと小学生にしてパソコンを購入できるほどの収益を上げたという。そこで気になる質問をぶつけてみた。その動画はまだ観られるのだろうか?
「いえ、恥ずかしくなって消しちゃいました。小学生高学年のときに」
低学年でYouTubeに毎日動画を投稿して収益を上げながらも、高学年になると早くもその動画を削除してYouTubeをやめてしまう。小学生らしい気持ちの変化ではあるが、同時に彼の話を聞いていると、次世代の台頭を感じずにはいられない。行動力さえあれば小学生でも自分の作品によって収入を得ることができる時代なのだ。

誘われて始めたラップは、あくまで友だちとの遊びのひとつ

小学校を卒業したさなりはラップを始める。きっかけは、近くに住む友だちと遊ぶようになったことだという。
「中1に上がって友だちと外で遊ぶようになって、インターネットをあんまり触らなくなったんです。そんなときに友だちから『ラップやってみないか?』って言われて」
バラエティ番組内の1コーナーとして人気を博した、日本全国の高校生がフリースタイルラップのスキルを競う『BAZOOKA!!!高校生RAP選手権』(BSスカパー!)。2012年から現在まで続く、日本の若い世代のラップブームに大きな影響を与えている番組だが、さなりの周辺でもフリースタイルラップは流行していたのだという。
「もともとSKY-HIさんの影響で小学生の頃からラップが好きだったし、普通に『いいよ』ってラップし始めました」
あくまで自然な流れで始めたラップ。そこには“スキルを磨く”という求道的な思考もない。
「“練習”という言い方には違和感しかないですね。ラップも曲作りも遊びの一環としてやっていたので。今の若いラッパーはみんなそんな感じだと思いますよ」

引っ越しを機に動画投稿を再開、そしてデビューへ

そうして友だちと始めたラップだが、本格的にラッパーとして活動し始めたのは孤独がきっかけだった。
「親の都合で引っ越したんですけど、転校先には友だちもいないし、何もやることがないから『音楽を本気でやってみようかな』と思って、そこから学校に行かずひとりでずっと曲を作ってました。ビートを自分で作り始めたのもその頃ですね」
そして、小学校時代に「黒歴史」として葬ったYouTubeに戻ってきた。
「曲を作ったらネットに上げるのが当たり前だと思っていたので、YouTube、ニコニコ動画、SoundCloudにどんどん公開していきました」
デビューのチャンスもあっという間にやってきた。2017年に開催された、新世代のラップアーティストを開拓するオーディション『OverFlow Project』で、グランプリを獲得したのだ。当時15歳。
「『オーディションに出て友だちを驚かそう』と思って、受けてみたら受かったんです」
ネットを中心に活動し、そこから地道に人気を集めてデビューにこぎ着けるのかと思いきや、デビューのきっかけはまさかのオーディション。とにかくスピーディーかつやり方にこだわらない、それがさなりの成功への方法論であるように思える。むしろ、テクノロジーとネットワークの進化によってあらゆるチャンネルがオープンになっていくこれからの時代は、彼のような柔軟さこそが鍵になるのかもしれないとすら感じさせられる。
そこからの活躍は、このテキストの冒頭でも説明した通りだ。

アルバム『SICKSTEEN』には、“今の気分”を詰め込んだ

さなりは6月5日にデビューアルバム『SICKSTEEN』をリリースした。意味深なタイトル、そして満を持してラッパーとしての全貌を披露するデビュー作と、話題にこと欠かないはずの作品ではあるが、あくまでナチュラルに振る舞う。
「コンセプトとかはそんなになくて、とりあえず『挑戦してみたい』という気持ちで、好きなことを好きなように勝手に作った作品です。新しい曲もあれば、これまで書きためていた曲もあって、全体的には今の気分をそのまま出したような感じですね」
そんなスタンスは、『SICKSTEEN』というアルバムタイトルについても同様だ。
「なんだろう、これくらいの歳になってくると“病んでる”人たちが多いなと思ってつけただけです。ただのSIXTEENよりこっちのほうがカッコいいし(笑)」
アメリカのポップ・ミュージックを筆頭に、若年層のメンタルヘルスは近年大きなトピックとして扱われている問題だ。さなりの思う“病んでる”とは、思春期の不安定さに起因するものなのか、それとも現代社会を反映してのものなのだろうか?
「うーん、どっちも変わらないと思います。あくまで無意識的に感じているものというか…」
10代の若者として感じ取る“気分”を描く、さなり。その作風は収録曲『Mayday』のMVにも反映されている。このMVを監督したのは同世代である「Hyori(ヒョリ)くん」だが、ふたりはネットで知り合い、MV撮影時が初対面だったという。
「ヒョリくんのことは全然知らなくて、インスタでフォローが来たときにプロフィールを覗いたら面白そうだと思ってフォローを返していたんです。そのうち事務所の人に『Mayday』のMVを撮ることになったけどどうする? って聞かれて『あの人に頼みます』って。それくらいのノリで撮ってもらいました」
撮影はさなり側がふたり、ヒョリくん側もふたりと最小人数。同世代の若者同士で渋谷を歩きながら自然体で撮影したというこのMVは、さなりのナチュラルなスタンスをドキュメンタリー的に切り取った親密な作品に仕上がった。
しかし、SKY-HIプロデュースで話題となったデビュー曲『悪戯』について話が及ぶと、それまでの居住まいと違って、背筋が伸びたように感じられた。ラップを好きになったきっかけであるSKY-HIは、やはり今も憧れのアーティストなのだ。
「SKY-HIさんのライブに伺ったときに初めてお会いして、そこでちょっとだけお話させてもらいました。『悪戯』についてはそんなにリクエストしてないんですけど、僕のほうで曲調がわかるくらいのラフなトラックを作って、それをSKY-HIさんに渡して『いい感じにしてください』とお願いするやり方で作らせてもらいました。唯一注文したのは『ヒップホップっぽく』ということくらいです」
そう、さなりにとって「ラップ=ヒップホップ」ではないのだ。ラップは手法であり音楽ジャンルではない。そんなスタンスにも今の若きラッパーらしい感性が見え隠れするようだ。

「友だちと遊ぶときはプリクラ撮ってタピオカ飲みます」

あけすけに本心や本音を晒そうとはしないが、無防備であどけない表情がこぼれた瞬間もあった。それは、「さなり」という名前の由来について聞いたときのことだった。
「ラッパーって横文字で読みにくくて検索しづらい人が多いから、ひらがながいいなと思ったんです。ひらがなでわかりやすく、珍しく、読みやすく、打ちやすい。その条件で考えたのが『さなり』でした。もともとはチョコが好きなので『ちょこ』だったんですけど、それじゃダメって言われて(笑)」
「ちょこ」というあまりにもストレートで可愛らしいそのネーミングセンスに、取材スタッフ一同思わず声を出して笑ってしまった。
デビューにあたり東京でひとり暮らしを始めたというが、実家にいた頃から学校に行かず自宅で曲作りをする毎日だったため、大きく生活は変わっていないという。しかし、外に遊びに行く機会は増えたとも教えてくれた。
「東京は好きな街ですね。『オオカミくん』に出たことで友だちができたので、よく渋谷で遊んでます。プリクラ撮ったり、タピオカ飲んだり…」
ふと高校生らしい横顔が見えたところで、最後にファンがもっとも気になっているであろうことを、思い切って聞いてみた。今、恋をしていますか?
彼は照れながらも、「えっと……はい。しています」と答えてくれた。好きな人のタイプを尋ねると、ちょっと考えた末に「リードしてくれる人」とも。
気負わず自然体な姿を見せる一方、まだまだその真は計り知れない16歳の若きラッパー、さなり。その活躍は始まったばかりだ。
さなり
2002年11月16日生まれ、関西出身。AB型。2018年、A-Sketch主催のHIPHOPプロジェクト『OverFlow Project』でグランプリを獲得しデビュー。一度聞いたら耳から離れず、リリックがストレートに入ってくる力強い独特の声が特徴的な16歳のラップアーティスト。1月には恋愛リアリティー番組『白雪とオオカミくんには騙されない』(AbemaTV)に出演し話題を集めた。その後、アイドルグループの私立恵比寿中学に書き下ろし楽曲『結ばれた想い』を提供、當山みれい『大嫌い feat.さなり』にフィーチャリングとして参加するなど、音楽活動の幅を広げている。

作品情報

1st ALBUM 『SICKSTEEN』
6月5日リリース


2,800円+税

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、さなりさんのサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2019年6月5日(水)18:00〜6月11日(火)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/6月12日(水)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから6月12日(水)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき6月15日(土)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
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