苦境を振り返る香川の表情は、思いのほか落ち着いていた。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

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 香川真司は、今も日本の10番を背負う。ただ、これまで過去約8年以上も主力としてプレーし続けた立場は大きく変化した。1ゴールを挙げ奮闘したロシアW杯が終わり、森保ジャパンが発足。南野拓実ら若きアタッカー陣が台頭し、香川は彼らを追う立場になった。

 クラブでもかつてないほどに厳しい立場が待っていた。ドルトムントでは構想外となり、長年親しんだクラブを離れ今年1月にはベジクタシュに期限付き移籍。しかしそこでも監督の采配の影響から、思うように出場機会を増やすことができなかった。

「現実を味わった」。日本代表に合流した香川は、素直に話した。

「本当にいろんな思いを経験した1年だった。納得できないことも出られない選手にはある。理不尽なこともたくさんある。ドルトムントは特に若く、選手の勢いや自信を感じた。やっぱり30歳という年齢はヨーロッパでは特にシビアに見られる。もちろんそれを受け入れるつもりはない。でも正直、現実も見せられた」

 話す言葉は重い印象だが、視線を上げると香川は思いの外、落ち着いた表情で語っていた。年齢、三十代。経験を含めまだまだ勝負できる手応えはあるが、周囲の視線は冷たく、厳しい。ただ、自分が生きているのは「そういう世界」と彼は言う。競争の日々。そのなかで発せられた冷静な口調と表情は、達観の姿だった。

 争いは、日本代表でも続く。今回、MFには新たに久保健英が入った。6月4日に18歳になる俊英。19歳で代表デビューを飾った香川は、「楽しみです」と笑顔だ。

「17歳で首位のFC東京でしっかり結果を残している。それは普通のことじゃない。世界には若い選手は多いけど、なかなか見渡してもいない。練習に試合と楽しめることは多いでしょうし、ピッチに入れば年齢は関係ない。自分も(若い時は)そうでしたけど、恐れるものは何もない。逆に年取った選手に対して、『早くその場所を空けてください』という感覚が若い選手にはあるのは当然。自分もそれに打ち克っていけるように。それが刺激になって、上と下の世代が融合すれば強いチームになる」

 自分の身に訪れた現実を語っていった香川。それでもマイナス志向には決してなっていない。眼前にある事実をしっかり直視し、こう語る。

「今の戦いに、負けてたまるかという強い気持ちでいる。受け入れるつもりはない。そして同時に新たなチャレンジを次はしたい。代表もゴールはカタールW杯。だからこそ今はいろいろと試すべきで、失敗も含めて感じるべき。4年前もそうだったけど、いい時もあれば悪い時もある。その積み重ねが、2022年につながる」

 新たなチャレンジという発言、それは今夏再び新天地を求める覚悟をしたためたようだった。「まずはこの最後の2試合(トリニダード・トバゴ戦、エルサルバドル戦)に集中したい」。酸いも甘いも知る日本の10番。誇りと意地を込めて、ピッチに立つ。

取材・文●西川結城(スポーツジャーナリスト)

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