「数字に弱い人」にもわかりやすいプレゼン資料を作るには、あるコツがあります(写真:PeopleImages/iStock)

デキるビジネスマンの条件は数字に強いことである、それは誰もが認めるところでしょう。しかし、世の中には数字に強い人ばかりではないため、いくらこちらが数字を用いて論理的に話しても、上司にはイマイチ響かない……なんていう場面も多々あります。

そこで、数字に弱い上司や部下にも簡単に理解してもらえるコツを、事業開発やマーケティングなどを手がける“数字のプロフェッショナル”中尾隆一郎氏に聞きました。

わかりやすく説明すると、聞き手は態度変容しやすい

データを集め、分析し、完璧なグラフを作って会議やプレゼンに臨んでも、上司や役員はいまいちピンときていない顔……。

上司が数字に強くて、すぐ理解できる方であればいいですが、世の中、必ずしも数字に強い人ばかりではありません。グラフの読み解き方の解説に時間を取られて、肝心なアピールポイントまでなかなかたどり着かない、なんていうこともあるでしょう。

そんなとき、ほんの少しの工夫で、格段にわかりやすく訴えることができます。

また、この“人に伝わるグラフのコツ”は、数字に弱く「君の資料はわかりにくい!」と言われてしまう人にとっても有効です。ぜひビジネススキルとして身につけましょう。

図1を見てください。このグラフは営業組織間の比較のグラフです。比較する軸を個人あたりの平均売上で見ています。(ここでは話を簡単にするために平均を扱っています)

[図1]


[図2]


数字が必ずしも得意ではない上司に対して、上手に伝えるためのポイントは3つです。

1つめは、いちばん上の「タイトル部分に最も伝えたいこと」を書くことです。

今回の事例では、「G(グループ)平均売り上げに差がある」と書きました。これであなたが、このグラフで伝えたいことが何か明確になります。ところが、タイトル部分を「Gごとの平均売り上げ」などと表記すると、同じグラフなのに、上司は、グラフから何を読み取ればよいのか考え出します。すると、その上司が数字に強くても弱くても、あなたが伝えたいことと別の解釈を行うかもしれません。いったん別の解釈をした人の考えを変えるのは、手間がかかります。

一方、グラフに「Gごとに平均売り上げに差がある」というタイトルをつけると、上司は、グループ売り上げに差があるのだという前提で、グラフを見ます。解釈の余地は、「どれくらい差があるのか?」という点に絞られます。タイトルを一般的な表記から、「あなたが伝えたいこと」に変更するだけで、大きな差が生まれます。

比較対象を明確にすることが重要

2つめのポイントは「比較対象をわかりやすく表示している」ことです。このグラフでは、全国平均の売り上げ額を比較対象としています。具体的には、全国平均の売り上げを示す棒グラフの上部から左右に線を伸ばし、この線を比較対象として想定していることを図示しています。これで上司は、私が何と比較しているのかが簡単に理解できます。

3つめのポイントは、見せ方の工夫。全国平均の棒グラフの先から左右に棒線を加えていますが、その線と各エリアグラフの上下に矢印を加えて、差異を強調しています。

この2つめ、3つめのポイントによりいちばん伝えたい「Gごとに平均売り上げに差がある」ことがわかりやすく上司の頭に入っていきます。

次に、図2を見てください。これはオリジナルの図1を一部改良したものです。具体的な違いは、縦軸の交点を0から250に変更したことです。これにより、全国平均と比較対象の各エリアの差異が強調され、違いがわかりやすくなります。

ただし、これはあくまでも分析するあなたが「強調したい」ときに使うテクニックです。何が言いたいかというと、実際は大して差異がないのに、差異を見せるために使うのは本末転倒だということです。相手(今回でいうと上司)を見せ方でだますようなことをしてはいけません。

作為的でなくとも、ときどき表計算ソフトが自動設定でこのような差異を強調するグラフを作りあげてしまうケースもあります。そしてその結果、分析者自身が、そのグラフを見て、実際には差が小さいのに、差が大きいのだと勘違いしてしまうことがままあるのです。これはグラフの見せ方による錯覚。つまり軸を変更させるときは、「実際に差異があり、わかりやすくするために軸の変更を使用し強調するのだ」程度に利用に歯止めをかけておいたほうがよいでしょう。

伝えたいことを強調すると違いがわかりやすくなる

[図3、図4]


次の図3は、「グループ平均売り上げに差がある」理由が商品Aにあるのか商品Bにあるのかをチェックしています。

商品A、Bを、先ほどの図2同様にエリアごとの平均の比較で表示し、伝えたい内容をグラフの上部にタイトルとして書いています。今回のケースでは、商品Aのエリアごとの差異は小さいのですが、商品Bの売り上げの差異が大きいのがわかります。

この内容を強調するために、いちばん売れている組織と売れていない組織の平均値の差を「+60万円〜▲30万円」と強調しています。これにより、エリアごとの差異の問題は、商品B側にあるということを伝えられます。

比較対象をあえて作ることで、わかりやすくなる

その下の図4は、基本企画とオプション企画のどちらに差異の原因があるのかを記しています。念のために、先ほど図3で問題がないと確認した商品Aも比較対象としています。これによると商品Bの問題は、基本企画の売り上げの差異が原因であることがわかりました。

さらに図では、商品Bについて、ベテランと若手(ジュニア)での差異を分析しています。同じく伝えたいことを強調しています。このグラフを見ると、どうやらベテラン、若手の問題ではなく、関西とその他のエリアで商品Bの基本企画の営業1人当たりの売り上げが低いことが原因であることがわかってきました。


ここまで分析できればしめたものです。上司に対して、関西とその他のエリアの営業に対して商品Bの基礎知識と販促のポイントについての勉強会を実施することを解決策として提案できそうです。

ただし、商品全体の問題、つまり営業側だけではなく商品企画側の問題である可能性が残っています。その場合も、この分析データを商品企画部門に提示することで協力も得やすくなると想定できます。結果、商品企画担当に勉強会の講師を依頼することも可能になるでしょう。

このように、自分はわかっていても、相手がそのとおりに理解してくれるとは限らない情報は、よりわかりやすく工夫することによって、認識のズレや無駄なやりとりの時間も減ります。数字に自信のある人も自身のない人も、ぜひ取り入れてみてください。