全国に数多くの種類がある駅弁ですが、なかには入手困難なものもあります。「そもそも販売個数が少ない」「安定供給できない」「列車の旅では手に入れづらい」など、事情は様々です。

「じぇじぇじぇ」な人気のレア駅弁

 全国で多くの駅弁が販売されていますが、様々な事情で入手が困難なものも。「交通が比較的不便な駅のため入手しにくい」駅弁もあれば、「現地でもなかなか入手できない」ものもあります。


久慈駅の「うに弁当」(2015年1月、宮武和多哉撮影)。

 後者の代表としては、JR八戸線と三陸鉄道の久慈駅(岩手県久慈市)で販売されている「うに弁当」が挙げられるでしょう。三陸鉄道の駅に併設された売店で駅弁の販売と、そば・うどんの提供を行う三陸リアス亭が作る弁当ですが、販売は予約分も含めて原則1日20個のみ。7時の営業開始とほぼ同時に売り切れてしまうことがあるほか、日によっては予約も受けきれないほどの人気ぶりです。

 ごはんの上に蒸しウニがびっしり敷き詰められ、それ以外は、バラン(葉を模したような緑色の薄い仕切り)にのったひと切れのレモン、ふた切れの大根漬けのみという内容。その見た目のインパクトとわかりやすさも、人気のポイントかもしれません。一見シンプルでも、波打つようにウニを並べるだけでなく、ご飯にも蒸しウニの汁と身を混ぜ込んでいるなど、細やかな仕事ぶりが光ります。販売数が少ないのも、あまりに手間がかかるためです。

 2011(平成23)年の東日本大震災で久慈市は大きな被害を受け、なんとか営業を再開したものの観光客が戻らないままであった久慈駅と三陸リアス亭は、2013(平成25)年、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』が放送されると状況が一変します。久慈駅をモデルとして作中に登場する北三陸駅と名物「リアスのウニ丼」、それを作る「夏ばっぱ」(主人公・天野アキの祖母)を見ようと、観光客が押し掛けたのです。「夏ばっぱ」のモデルのひとりとされる三陸リアス亭店主の工藤さんは、2019年4月現在も店頭に立ち続けています。

『あまちゃん』フィーバーの際には「うに弁当」の予約が殺到し、電話も受けきれないほどの盛況だったそうです。2019年3月には、被災したJR山田線の宮古〜釜石間が再開通すると同時に、三陸鉄道へ移管され、久慈〜盛間163kmの「三陸鉄道リアス線」として装いを新たにしたことで、再び脚光を浴びています。「うに弁当」を入手したい場合は、かなり早めの予約がおすすめです(ただし休業日があるほか、季節によっては「うに弁当」の販売自体がない)。

人気すぎて首都圏から消えた駅弁も

 入手困難な駅弁はほかにもあります。いくつか例を挙げていきましょう。

郡山駅「海苔のりべん」

 郡山駅(福島県郡山市)の「海苔のりべん」は首都圏でも買えるものの、「レア」な存在となってしまった駅弁です。もともと福島県内の駅でのみ販売されていましたが、テレビで取り上げられるなどして徐々に人気となり、首都圏でも販売が開始されました。全国の駅弁が揃う東京駅の「駅弁屋・祭」では、1日60個入荷しても、平均18分で売り切れるという人気ぶりを見せます。製造元で安定供給が難しいことから、2018年11月に首都圏での販売をいったん終了しました。その後、「駅弁屋・祭」では土休日の10時30分から11時30分ごろ(当日の状況によって前後)に入荷されるようになりましたが、すぐに完売してしまうほか、郡山駅でも売り切れの場合があります。

留萌駅「にしんおやこ弁当」

 留萌駅(北海道留萌市)の「にしんおやこ弁当」は、ご飯の上に、甘く煮詰めた身欠きニシンと大きな数の子が2本ずつと、付け合わせがのったシンプルな駅弁ですが、販売は1日10個程度に限られています。予約は構内にあるそば店の人に直接伝えるか、電話で行います。ただ、留萌駅がある留萌本線の運転本数が少ないうえ、2017年には留萌〜増毛間が廃止、残る深川〜留萌間もJR北海道から沿線自治体へ廃止の意向が伝えられている状況です。

厚岸駅「かきめし弁当」(通称「氏家かきめし」)

 厚岸駅(北海道厚岸町)の「かきめし弁当」は、カキなどの煮汁とひじきで炊き込んだご飯の上に、カキやツブ貝、アサリなどがたっぷりとのった、1960(昭和35)年発売の名物駅弁。近年は厚岸駅のある根室本線の列車本数が大きく減り、構内のキオスクも閉鎖、ホームで行われていた立ち売りも終了し、鉄道旅では手に入れにくくなっています。しかし、食堂を兼ねた駅弁の製造元である厚岸駅前の「氏家待合所」にクルマや観光バスで訪問する人は多く、注文が途切れることはありません。事前に予約すれば、時間帯によっては駅ホームまで弁当を届けてくれます。


厚岸駅の「かきめし弁当」(2012年12月、宮武和多哉撮影)。

 ちなみに、駅弁ではありませんが、駅での立ち売りが有名だった奥羽本線 峠駅(山形県米沢市)の「峠の力餅」も、現地での入手が困難な名物のひとつ。かつては峠駅での停車時間が長かったこともあり、そのあいだにホームで買える旅の名物となりましたが、現在の列車本数は平日上下6本、停車時間は1本あたり最短で30秒ほど。製造元である駅前の「峠の茶屋 力餅」で買うこともできますが、駅までの道は細く険しく、クルマで気軽に行けるとは言いがたい場所です。電話で予約すればホームに届けてくれますので、短い停車時間のなかで購入するのがいちばん確実でしょう。